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キライな人  作者: 太陽
第3章 ジュリエットの気持ち
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4-1




 次の日、わたしは馬鹿みたいに早く学校へ行った。朝練がある訳ではない。美砂に謝るためだ。


 本当は昨日のうちに家まで謝りに行こうかとも考えた。でも、コトちゃんの入院でバタバタしているだろうところへ、わざわざ邪魔しに行くのも気が引けた。だから朝一で謝ることにしたのだ。

 仲直りは勢い。「ごめん」という言葉はタイミングを逃すとどんどん言いにくくなってしまう。出会い頭に平謝り。これしかない。


 わたしは家が近いということもあって、いつもは始業チャイムの5分前くらいに学校に着くように行っている。一方、美砂の登校時間は予想がつかない。早い時は20分前には着いているというのに、遅いとチャイムと同時に滑り込んだりする。うちと美砂の家とは、目と鼻の先の距離だと言うのに、一緒に登校しないのはそのせいだ。


 もし今日、美砂の方が先に着いていて、別の誰かと話していたりしたら、わたしのことだから、きっと遠慮して話しかけることが出来ない。なんとしても美砂よりも先に学校へ着かなくてならなかった。だから、今日は30分前に学校へ着くように家を出た。


 教室に着くと、わたしは自分の席で台本を広げながらひたすら待った。でも、美砂はなかなか現れなかった。そして、まもなくチャイムが鳴るという時になって滑り込んできた。ほとんど話す時間なんかなかったけど、とりあえず言うべきことだけでも言わなくてはと、勢いで謝って、昨日、コトちゃんのために本屋で買ってきた人気アニメのぬりえを渡した。美砂は怒っている様子などみじんも見せずに、ただ「ありがとう」と言って笑った。その笑顔を見て肩がすっと軽くなった。



 今日は本番2日前ということで、授業はなく4時間全部学祭の準備だ。

 1時間目はHRでプログラムが配られた。これで、各クラスの演目や発表順番が明らかになる。


 順番は公平になるように、実行委員がくじ引きをして決めるのだけど、わたしたちはこれを前々から気にしていた。

 うちのクラスのロミジュリは、半創作のパロディだから、元ネタが分からないと面白さも半減してしまう。できれば先に2組のロミジュリを見てもらって、話の流れだけでもつかんでもらえるとありがたい。


 そんなわたしたちの願いが通じたのか、実行委員のくじ運がよかったのか、うちのクラスは見事ラストを引き当てていた。しかも、直前のクラスは2組。観客の記憶が新しいうちに演じられる、ベストポジションだ。わたしは縦に並んだ2組と1組の内容紹介文を読んでにやりと笑った。


<  2組 『ロミオとジュリエット』


 宿敵モンタギュー家とキャピュレット家に生まれたロミオとジュリエット。

 愛してはいけない人を愛してしまった二人。

 決して結ばれることのない恋人達が迎える悲しい結末とは。

 シェイクスピアの名作を、2組一の美男美女が演じます。

 あなたもロミオとジュリエットに恋をしてみませんか?   >


< 1組 『《新版》ロミオとジュリエット』


 《家》によって《愛》を歪められてしまったロミオとジュリエット。

 この苦しみから逃れる方法は《死》だけ……。

 シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」を1組オリジナルバージョンで演じます。

 迫真の演技をご期待下さい。  >



 ずっと謎のベールで隠されていた1組の演目。

 今ごろ他のクラスは度肝を抜かれていることだろう。

 特に2組の慌てようが目に浮かぶ。


 ちなみに、この紹介文を書いたのも金村さん。彼女はここに来ても、ロミオとジュリエットが憎み合っている云々の詳しい内容を他クラスに教える気はないらしい。



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