ACT:07 やっぱり君は君だよ、スズキタロウ!
こんなかわいそうな主人公、見たことない……。
書いているのは自分なんだけどw
さて、行動不能まで追い込んだがいいがこんなでかいやつをどう処理するのだろう? 誰だってそう思うだろう。現に羽場下も、
「このウサギ、どうするの? 捕獲っていうことだと私達が運ばないといけないんじゃ……」
と言っておられる。
何気に知られていないんだが、こういうときこそサポートセンターが役に立つ。
「おいキタちゃん、もう連絡は付いたのか?」
「おう、あと五分もすれば職員が来てくれるってよ」
「? なんでサポートセンターに連絡する必要があったの?」
皆サポートセンターというと、ポイントによるアバターの機能拡大や武器の交換、センターから発信される仕事の斡旋、情報の収集、パーティー募集といったことは利用できることは知っているのだが、捕獲生物の運搬請負や収集物の預かりとして利用できることを知らない。
地球外移民プロジェクトの大半を占める開拓派のプレイヤーはとにかく危険生物の討伐や、未踏破地域の探索などが主な仕事のためそういったサポートをまず利用しないのだ。
討伐した生物はその場で解体して埋めるなどしてしまうし、探索に至っては職員は来てくれない。未踏破なので当たり前なんだが。
「へー。サポートセンターってそんなこともしてくれるんだ。そんなことも知ってるなんて鈴木君すごいね」
再び胸に抱えられ褒められるおれ。悔しいという表情を隠しきれないローとキタちゃん。嬉しいのだが何か釈然としない。
今まで一緒な扱いだったのにおれだけこんな扱いを受けていいのだろうか?
『……ふ。気にするなよ、タロー』
『ロー……おれを許してくれるのか?』
『許すも何も、俺達はいつも三人だけだっただろう? 素直に祝福するさ』
いやお前ら、金剛力士像もビビるくらいの顔だからね? 今。
とりあえず、いずれは奴らも奮起する方向のようなので、おれもこの状況を素直に堪能することにする。何度も聞いて済みませんが、こんなに幸せでいいのでしょうか、神様?
神『イヤ、ダメ。許さん』
ダメなの!? なぜに!?
神『鈴木のくせに生意気な!』
「全世界の鈴木さんに謝れ!! てめぇのほうが生意気じゃねぇか!!」
「わっ!? ど、どうしたの?」
すみません、マドモアゼル。鈴木にはどうしてもやらねばならぬ時があるのです。ここは相手が神だとしても、ガツンと言ってやらねばなるまい。
我に幸福を与えたまえ!!
神『断固拒否する! 艱難辛苦ならくれてやろう。ほ~れ!』
「――鬼かっ!!」
その後おれは羽場下に「どーどー」と頭を撫でられながらサポートセンターの職員が来るのを待ちました。
●×●×●×●×
「さて残るは〝月虹の花〟だが……」
「てか、シゲちゃんもこれを課題にするのはおかしくね? 普通だと一日じゃ見つからないぞ?」
「だよな。噂の彼女にでも贈るんじゃね?」
「……ねぇ。いま結構重大なこと言わなかった? 鈴木君たち」
「え?」
「ん?」
「お?」
「シゲちゃん、彼女いるの?」
『そっち!?』
この瞬間羽場下に、見かけによらずぽわぽわ娘疑惑浮上である。一日じゃ見つからないってとこに食いつこうよ、ここは! まぁとにかく、それだけ珍しい花なんだよ。この花の分布は現在このルナティックフォレストしか確認されていないのも一つの理由なんだが、もう一つ最大の理由がある。
「月虹の花は別名、空飛ぶ虹の架け橋って言うんだけど聞いたことある?」
「……ない。なんか素敵な名前だね」
その通り。その光景はまさに圧巻と言うべきである。地球ではまず見られない光景。テラフォーミングにより地球とは異なる生態系を形成した各惑星の中でも、知る人ぞ知る花である。
「月虹の花。じつはこれも通称であって本来の名前は遊覧飛草。この名前を聞けばある程度は予想できるんじゃないかな?」
キタちゃんの言葉を聞いて羽場下もわかったようだ。
「まさか、宙に漂ってるの?」
「そう。しかも遊覧と言うだけあって規則も何もなく漂っているからまず見つけることはできないって言われてる。じつはこれを見つけたのもオレ達がはじめてだったりするんだよね」
さりげないローの自慢に羽場下は驚くが、これは全くの偶然である。まぁ調査を主な仕事としてるおれ達は新種の生物もいくらか見つけてるんだが、これはその中でもかなりの高評価をもらった発見だった。見つけられたのがおれ達の悪ふざけではなければもっと高評価だったであろうことが悔やまれる……。
そんなわけでおれ達も何度も見つけられるとは思わない。当時と同じように行動するくらいしかないってわけだな。
「というわけで始めますか。おい、ロー」
「おう。〝大吸気〟使うからちょっと離れてろよ」
いきなりのことに戸惑う羽場下を促し離れるおれとキタちゃん。大体十メートルくらい離れたところでローを見つめる。
そのローのアバターであるチビ天狗の胸が少しずつ膨らみ始める。そして徐々に、徐々に周りの木々がざわつく。
「凄い……。息を吸うだけでこんなことできるの?」
そういうインストールウエポンだからね。ただこのインストールウエポン、実は結構使い勝手が悪いものが大半である。武器やラインストーウエポンやらもサポートセンターが開発、供給しているのだが、ゲームのモンスターのような身体機能や能力を再現するという「遊び」の色が濃いものなので、基本ある特定の場合にしか使えなかったりするし、無駄にアバターが使いづらくなったりする。
因みに今のローの「大吸気」の場合ホントに大量の空気を吸うだけ。実際あれを使ったのはおれ達が「誰が一番使えない存在」なのかを押し付け合うために役に立たないだろうインストールウエポンを見せ合って他の二人よりはマシだということを確認するためだったりする……。なんと人の器の小さい奴らよ……おれも……。
●×●×●×●×
ローが「大吸気」を使い始めてそろそろ五〇分が経とうとしている。「ジャンプ・ザ・ホッパー」の捕獲完了までに四五分使っているのでここまでで一時間三五分経過したことになる。
おれ達が通う霧ケ峰高校は授業一コマに五〇分使っている。今回の実習は授業二コマ分。そして間に休み時間が二〇分もある(超マンモス校のためトイレに行っても並んでいる間に時間が無くなり、また五〇分我慢しなければならないという、のっぴきならない問題が多発したためだ)。つまり最大一二〇分の時間が与えられているわけなので、残るはあと二五分である。
ローが頑張っている間、おれ達三人はクエストカード内臓のゲームで遊んでいる。
以下今までの経過報告。
一〇分経過。
「……うぷ。いまなら〇ー・ド・〇ァンなみのゲップが出せる……」←ロー
「右上下左左右上PPK下! 喰らえ! 超・暗黒滅殺降竜暗殺拳!!」←おれ
「なんの! キャンセル技の早さをなめるなよ!? あと滅殺なのか暗殺なのかはっきりしろ!」←キタちゃん
「ちょ、ちょっと二人ともやりこみすぎじゃない!? COM以外でその技初めて見るし、しかも防いでるよ!?」←羽場下
二〇分経過
「……オ、オレのアバターが、破裂しそうだ……。な、なぁ? ちょっと一旦休憩させてくんね?」←ロー
「ここだ! 右左右左上下上下右PKPP上! 激・漆黒絶滅純白掌!!」←おれ
「ぐっ……! まずは黒いのか白いのかどっちなのかが気になる……!」←キタちゃん
「……しろくろ付けるぜ……?(にやり)(超かわいかった……)」←羽場下
三〇分経過
「…………う……空気漏れが……ちょ、マジ限界……」←ロー
「な、なにぃ!? そ、その技は……!?」←おれ
「くくく。とくと見るがいい! 真・魔哭惨殺狂喜烈蹴拳!!」←キタちゃん
「……哭くのか喜ぶのかわかんないね……」←羽場下
四〇分経過
「………………ちょ…………き、聞いてくんない……? オ、オレ、マジもう無……うぷ」←ロー
「な、なんてことだ……」←おれ
「あぁ……。まさか俺達が初心者と比べても遜色ない実力である羽場下に、あの技で敗れるとは……」←キタちゃん
「わー……。なんか出たねぇ。なになに? 極・聖光微笑恐怖鉄槌……? このゲームの技名、全部変じゃない……?」←羽場下
そして五〇分。
現在おれ達の前には、三メートル大の球が鎮座している。ここまでの経過を知っている者ならだれでもわかると思うが、馬鹿でかい風船と化したローである。周りに落ちていた石や落ち葉はきれいさっぱり奴の腹に吸い込まれたことだろう。よく見ると周りの木の葉もここに来た時より数を減らしたように見える。流石別名「意志ある掃除機」と言われたインストールウエポンである。
ローはいまだものすごい勢いで空気を吸い込んでいるのだが……
「虫の息だね、鈴北君……」
……息だけに? ただローの尊い犠牲も今回は報われたようだ。
「し、死んで……ね……ぇ、よ」
しぶとい。とりあえず羽場下とキタちゃんに教えることにしよう。おれは二人に無言で空を指す。
「お」
「……虹だ……でもぼやけたような希薄感が感じられない……」
宙に漂う虹色の花の群れ。月光を淑やかに反射し煌めくそれは、互いの蔓で手を繋ぐがごとく一つになっている。弧を描きながらローによりこちらへと徐々に近づいてくるその花は全長五〇メートルはありそうだ。
遊覧飛草。通称、月虹の花。別名、空飛ぶ虹の架け橋。名のごとく宙を自由に漂い、通称のごとく月光を月虹へと反射して、別名のごとく人が渡れるのではと思わせるくらいに繋がる地球外植物。
「すごい……きれいだとかそんな表現しか出来ないのがもどかしい。地球ではまず見られないよね……。手で触れられる宙を漂う虹色の花なんて……」
なんて幻想的なんだろうと呟く羽場下の横顔を見て「ふっ。君の方がきれいだよ、それに幻想的だ」と言えたら……って、言うかぁ!! アホなの!? そんなセリフ言ったらおれの評価は一体どうなっちゃうの!?
神『ただのイタイ男じゃな。もしくは、え? なに? キモ……みたいな?』
てんめぇぇぇ!!
「おいタロー。ぼけっとすんなよ。そろそろ俺達も準備したほうがいいぜ?」
――はっ! 見ると月虹の花は大分近くにまで迫っている。キタちゃんの言うとおり準備をした方がよさそうだ。
キタちゃんが槌を取り出し右手に握る。
「俺の〝空震鎚〟はスタンバイオッケーだ」
「じゃあおれも準備しようかね」
おれのスライム型アバターの腕がびろ~んと伸びる。そして見るからに粘着性を伴い始めた。インストールウエポン「ホイホイロープ」。このインストールウエポンがどれだけ遊びの要素が含まれているかを知るにはサポートセンターの発行している「武器大辞典」の説明を見ればわかる。因みにこう記されている。
「これをつかえば気になるあの娘もホイホイゲッツ!!」
ゲッツじゃねぇよ。犯罪じゃねぇか……え? なら何故持っているだって? ……漢には叶わぬ夢と知りながらも縋りたくなる時があるのだよ……。
とりあえずこの実習を終わらせよう。サポートセンターか宿屋(あくまで通称で役割は民間が経営するアバターの保管施設)に行きコネクト・アウトすればちょうどいい時間だろうから、この実習での群体「スズキ」の評価は間違いなく最高評価だ。これは個人認識も見えてきた。
「タロー、花の確保は頼んだぞ! そりゃあぁぁ!」
キタちゃんが「空震鎚」を振るう。ローがすぐ傍で空気漏れして萎んでる。どうでもいい。
「……オレを労われよ……」
無視。さてキタちゃんがあの槌を振るった瞬間、甲高い音が鳴り響き――ぽすっという音がして繋がっていた蔓がやさしく解かれる。
それを見ていた羽場下が目をぱちくりさせる。気持ちはよくわかる。あの槌、仰々しい名前、空気を振動させその衝撃を対象にぶつけるという聞くだけならすごいように思える武器だが、如何せんしょぼい。どれくらいしょぼいかというとその衝撃はかるく頭をたたく程度と言えばおわかりだろうか。まぁそれくらいの衝撃でも蔓を解くくらいには役に立つ。
ローの「大吸気」、キタちゃんの「空震鎚」そしておれの「ホイホイロープ」もそうだが使われている技術などは半端なく凄いので値が張るのだが、全く使いどころがなく、持たされる効果があんまりすぎるという、はっきり言って不良品である。
「ほいっ」
そして最後におれの伸びた腕が解かれた花に「ぴとっ」とくっついてゲッツ。引き戻した粘着性の腕(どうでもいいがその他にもいろんなものがくっついて汚い……)には間違いなく幻想的な地球外植物がくっついていた。
おれ達も偶然この道具の使い道を見つけた時は驚いたものである。それが新種の植物だったのだからなおさらだ。いまはあまりに使えなさすぎて供給が停止しているため、現存する物はおそらくおれ達が所有する物のみ。
「……それって」
帰る途中、そんな説明を聞いた羽場下も悟ったようだ。つまり今回の実習、おれ達群体しか達成できなかったのだ。だからこそおれ達も評価を改めるチャンスだと思ったワケである。
「鈴木君たちってすごいね。どうして学校じゃおとなしいの?」
ぐさっ! 大人しいわけではないのです。騒いでも後になると「あれって誰だったっけ?」というように印象が薄いのです……。
さりげない一言に傷つきながらも、羽場下の評価はうなぎのぼったこと間違いないだろう。あとはこの調子でまずクラスの評価を上げるとしよう。
待ってろよ、シゲちゃん! この課題を唯一クリアしたパーティーメンバーの中にいた三人の魔王認定のプレイヤーをついに知ることになるのだからな!
●×●×●×●×
「シゲちゃん! なんだよあのウサギ! 危うくペナルティになるとこだったぜ!?」
「月虹の花だってとあるプレイヤーが発見、採集した以外、他のプレイヤーは発見すらできてないじゃない! こんな課題誰だって無理じゃん!」
ふふふ。クラスメイト達が吠えている。誰も課題がクリアできないだと?
おれ達四人が本来の身体に感覚を戻すと騒音もかくやというくらいに騒がしい実習室で締め上げられるシゲちゃん。
助けてやるよ、シゲちゃん。ここに課題をクリアしたパーティーがいるぜ?
四人でシゲちゃんの元に行き羽場下がクエストカードを見せる。その画面には「ジャンプ・ザ・ホッパー」の捕獲と「月虹の花」の採集を達成した旨がサポートセンター名義のメールで示されていた。
「ほ、ほら! いるぞ! 達成は不可能じゃなかっただろう!? いや~流石羽場下だ! 先生もお前の担任で鼻が高いぞ!」
そうだろう、そうだろう。さぁ次はおれ達を褒めるがいい。
「すご~い! 流石羽場下さん!」
「羽場下さん、俺と結婚してくれ!」
「誰だ!? どさくさに紛れて求婚してるやつは!」
「今回の課題達成者は羽場下一人かぁ……」
「俺もダメだったのにすげぇなぁ! 羽場下!」
「速水ぃ! 俺もってなんだよ!」
「速水君はBランク認定なんだから当然でしょ!」
途端に羽場下を囲み騒ぐクラスメイト。それだけのことをしてのけたのだおれ達は。ドヤ顔で自分達が称賛されるのを待ち続ける。
「よし、じゃあ今回の実習は終了だ! 課題達成した羽場下が今回A評価! 残りは全員B評価ということで。今回は俺の事前調査不足だったな、スマン。次回はもっと難易度を下げた実習を考えておこう」
そしてチャイムが鳴り退室していくシゲちゃん。
羽場下を囲みながら興奮して出ていくクラスメイト達。
戸惑った顔で(ちらりとこちらを見たような気がする)連れられるままに出ていく羽場下。
残るのはドヤ顔で固まる群体「スズキ」。
……あれ? ちょっと…………あんれぇ~?
羽場下だけが皆から称賛され、おれ達は結局認識されてないじゃ~ん? 羽場下の存在感が大きすぎて、おれ達は埋もれてたってこと? 実際達成したのはおれ達三人がいたからこそなのに……。
いや! 悪いのはシゲちゃんだ! 一緒に帰ってきたおれ達のクエストカードを確認もしなかったのだから。このままではB評価になってしまう。今回の課題はおれ達の認識を改める数少ないチャンスだったのだ。このような結果に甘んじられるわけがない!
そして職員室に行ったおれ達を待っていたのは……。
「お前ら、メールを偽造してまで評価が欲しかったのか?」
可哀そうな人間を見るような、憐れむような、なんか腹立つ目でおれ達を見るシゲちゃん。
『ち、ちが……』
「だが不正行為はいかん……。お前ら……え~と誰だっけ? そうそうスズキ達だったな。お前ら今回C評価な」
そんな無情な結果であった……。
羽場下と一緒に過ごしたあの時間は夢だったのだろうかと思えるくらい、いつも通りの周りからの扱いである。
神『やっぱり群体スズキはどこまで行っても群体スズキということじゃな。それに人の夢と書いて儚いと言う。そんなオチじゃな。カ~カッカッカッカッカ!』
………………神ぇ……。
認識を改めるどころか評価の下がってしまったおれ達である……。あれ? おかしいな。目から汗が出て何も見えない……。
そんな簡単に報われると思うなよ? by神
次回予告「スズキタロウってどんなやつ?(羽場下 叶編)」