ACT:05 今が輝く時なのか!? スズキタロウ!
おまたーせ。
さて、全く相手にされない日常が始まって早くも三時間目の授業直前の休み時間だ。
「元気出せよ……タロー」
「そういうお前が暗いぜ? ローよぉぉ~……」
「皆俺からしたら暗い暗い。俺の明るさを見習えぇぇぁぁぅぁぇ……」
おれ達三人は結構な精神ダメージを受けていた。
「次の授業はなんだっけ?」
「あれだよ、あれ。ほら、プロジェクトを利用した地球外惑星での実習」
「あーあれか。あれはいいよな。相手にされない学校よりも、気の向くままにぶらつけるあっちのほうがいい……もしかして俺達地球産の人間じゃないんじゃね?」
『んなワケあるか!』
相手にされないとかいうな! されとるわ! ただ一人ひとり細かく認識されとらんだけだ! いや、十分ダメだな……。
とりあえず、五感リンクシステムなど必要なものが揃えられた実習室へと向かう。
教室に入っていつも通り部屋後方の場所を三人で確保する。まだ休み時間は残ってるので雑談を続けるおれ達。
「てか一応称号として、魔王認定はされたわけだから、通称はどんなふうになんのかね?」
「ローの言うことももっともだ。ちょっと調べてみようぜ」
キタちゃんがズボンのポケットからクエストカードを取り出す。プレイヤーの人間は各アバターの手元に一つずつと、自分に一つ持っているのが基本だ。あまりに便利なのでプレイヤーじゃない人も使っている。普通に連絡だってとれるので、携帯ツールとして世間に出回っているのだ。
「どうだ。キタちゃん?」
「……」
「黙ってたらわかんねぇよ」
ローとおれでキタちゃんの手元を覗き込む。
『新たに三人の魔王が認定! 彼らの通称ですが魔王A、魔王B、魔王Cに決定しました』
「……」
「……」
通常、魔王認定されたプレイヤーの通称は〇〇の魔王といったように、そのプレイヤーの拠点の名称や、どんな環境の中で実績を残したのかわかりやすいように武器の名前や、伝記、創作物などから引用もされたりするんだが……。
「抗議しようぜ……」
怨嗟の声とは今のキタちゃんの声のことだろうか……。
そしておれ達の抗議に対する返答は、
『いえ、ちゃんと皆様の通称にも引用させて頂いた元があります。ほら二世紀ほど前でしたか? ド〇クエとかいう、とても親しまれていたゲームです。よく戦闘でスライムの群れが現れた時に、スライムAが現れた! スライムBが現れた! って言うじゃないですか。それを皆様には引用させて頂きました』
というものだ。
いや、おれ達『魔王の群れが現れた!』っていう扱い?
どこまで行っても「群体スズキ」は、所詮「群体スズキ」か……。
沙知のスライム評価は的を射ていたらしい……。
●×●×●×●×
チャイムが鳴り、先生も教室に入ってきて授業が始まった。
「よーし、今日の実習だが月にあるルナティックフォレストに行ってもらう。課題はそこにいる地球外生命体、月生息のうさぎ〝ジャンプ・ザ・ホッパー〟の捕獲、そして同じく月分布の植物、〝月虹の花〟の採集。三人、もしくは四人で一パーティーを作ったものから順次月へとコネクト・インしてくれ」
ほう。今日の課題はなかなか難易度を上げてきたじゃないか、シゲちゃん(徳田 重雄 三二歳 独身 我らが担任である)。
ジャンプ・ザ・ホッパーはその名の通り半端なく跳ねる。重力が六分の一なので当然と言えば当然なんだが、もうジェット並みに跳ぶ。というか飛ぶ。そりゃあもう飛ぶ。
開拓が進んでいる地域は重力も整備されているのだが、採集などに向かうエリアは大抵が本来の重力なので、なかなか動きに慣れることが難しい。
で、もう一つの月虹の花だが……。これはかなり珍しい地球外植物だ。その花は月の光を浴びると虹色に反射するというとても幻想的かつきれいな花である。普通に買おうと思えば初期アバターの半分くらいはするという高級品である。
しかも準備を怠ればまず見つけられないんだが……。学校の課題程度でこれほど高難度の案件が課せられるとは意外だな。クラスメイトも詳しく知らない奴や、さっさと月へ行って時間一杯捜索しようというやつが大半である。
「タロー、まだ行かないのか?」
「ロー、急ぐ必要がないことは知ってるだろ? 準備さえしっかりしておけば、あとは根気だけだ。それで時間が足りなくなるんなら仕方ない。そういうレベルの遭遇率だぜ?」
「たしかにねぇ……。じゃあほかの皆が月へ行ってから俺達も行動開始でもいいか」
「そうそう。むしろ他の奴に情報を簡単にやることはないだろう? ……日頃から認識されてない恨みをここで晴らすくらい誰だって許してくれるさ……」
「……タロー、お前恨みの晴らし方も小っちゃいな……」
「ロー、タローもそれは承知だと思うよ……」
身長も小さいが、器も小さい会話を交わしているとすぐそばに誰かが立つ気配がする。まだクラスの連中が残ってたのかと思いながら振り向くと、立っていたのは羽場下 叶だった。
「ねぇ、鈴木君に鈴北君、それに珠洲君も。よかったら私もパーティーに入れてくれないかな? 今日の実習二クラス合同じゃないからいつもパーティーを組んでる、弥生と夏海がいなくて……」
おいおい羨ましいぞ、鈴木君に鈴北君に珠洲君とやら。羽場下が向こうから一緒に連れて行ってくれと言ってるよ。視線で殺せるならば今すぐ殺してやれたのに。
とか思いながら羽場下の視線の方向へと顔を向けるおれ達。しかし誰もいない。……? ん? あれ……? ていうか……。
思わず顔を見合わせてから、目を見開きそれぞれを指差し合うおれ達。
おれ達じゃん!!
認識されてるよ、個人として! これにはマジで驚き! あまりに名前を呼ばれる経験がないもんだから自分たちが声を掛けられているとは思わなかった。
あっはっはっは! ローとキタちゃんがあんぐり口を開けている。アホ面だ。いや、おれもか、あっはっはっは!
「えっと、ダメ、かな……?」
はっ!! トリップしている場合じゃない。「群体スズキ」緊急会議! (ただのアイコンタクトとも言う)
『おい、どうしよう!? ドッキリか!?』
『いやおちけつ、タロー。ここはオレ達の寛容さを見せるべきだろう』
『お前が落ち着けロー。おちけつってなんだ、おちけつって。ここは自分たちの幸運を信じてもいいんじゃないか?』
『そうか……。おれ達も青春してもいいんだな……?』
『ああ……!』
『そうとも、これが普通の高校生ってやつさ……!』
満場一致で彼女を迎え入れることが決まりました。議長鈴木のそんな判決が聞こえる……(この間〇・三秒)。
「羽場下さんがおれ達と一緒で構わないんなら、こっちに拒む理由はないけど……」
「本当? ありがとう!」
あぁ、普段は格好いい雰囲気なのにそんな笑顔を見せられると、惚れてまうやろ!
「とりあえず月面都市〝月読〟に集合でいいかな?」
「うん、かまわないよ?」
……すげぇ。ローとキタちゃんそれに家族以外でまともに会話できてる……。
いや、すごくねぇよ! これが普通だから! むしろ今までの境遇の方がすごいわ! 畜生、あまりにひどい扱いのせいで人としての感覚がどこかイカレてきてる……。
「じゃあ先に行ってるね? 月読で待ってるから」
羽場下の後ろ姿にただただ手を振るおれ達。
「……これは今回の高難度課題を見事クリアして好感度を上げるべきだな」
「タローは好みだからいいけどオレ達はなぁ……」
「馬鹿! ロー、羽場下は上代と南野と仲がいいんだぞ? ここで好感度を上げておけば彼女たちの話題に俺達が出てくるかもしれない。そうすれば羽場下だけじゃなく、その他の二人にも個人として認識されるかもしれないんだぜ……?」
傍で聞いているとなんて悲しい会話だろうか……。
とにかくここは輝く時が来たのかもしれない。存在感がこれ以上ないくらいに、太陽のごとくなるべき時が……!
考えがイタイ方向へ加速するのが止めらんない。それくらいテンションが上がっていると察しておくれ。
でも羽場下はよくおれ達の名前知ってたなぁ……。自分で言って悲しくなるけれど。
いつの間にかお気に入りが3件も……。正直超予想外。
ありがとうございます!
もう一つの作品のほうに掛かりきりだったので投稿が少し遅くなりました。
時間があり、なおかつ興味がある方はそちらのほうも読んでいただけると嬉しいです。
あ、感想等まっています。よろしくお願いします。