表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/34

ACT:04  スズキタロウってどんなやつ? (鈴木 沙知編)

短めです。

 朝食を食べていた私は、いきなり目の前の兄から牛乳を吹きかけられた。

 ………………。

 …………。

 ……。

 なんてことすんのよ! そんな非難を込めて言葉を掛けても返ってくる謝罪は誠意が全く感じられなかった。なによ、「すんまそん」と「ごみん」って……。

 朝からそんなことがあったため、お風呂に入ってから学校へと向かう。もちろん遅刻だ。でも昔から学業については真面目に頑張ってきたため、ちゃんと理由を説明すれば問題ない。この日も先生は遅刻については軽い注意だけだった。

 教室に入るとクラスメイト達から、「どうしたの?」と聞かれるが本当に大したことでもないので適当にやり過ごす。

「全く。お兄ちゃんのせいなんだからね……」

「え? 沙知って兄弟いんの?」

 思わず悪態をついてしまった。そしてそんな些細なことも聞き逃さずに訪ねてくるクラスメイト達。

「え? 前に偶々一緒に歩いてたら、聞いてきたじゃん。隣の人はカレシ~? とか、からかいながら」

「……そうだっけ?」

 まただ。なぜなのか私の兄は極端に印象が薄いのだ。妹としてはちょっと面白くない。あれでも歴とした家族なのだ。

 どうしてそこまで印象が薄いのか確かめてみよう、と思ったことがある。

 とりあえず、三人組ということはわかるらしい。身長一六〇程の男子三人。ただ自己紹介しても誰か誰だかよくわからなくなるんだそうだ。

 みんな「スズキタロウ」だしね。

 でも、それじゃあ顔で判別は? と聞いたらこんな答えが返ってきた。

「いや、あの三人明確に優劣が付けられないから、余計に個人として判別する部分が見出せないんだよ」

 ブサイクでもなく、小さすぎるわけでもなくて、成績も優秀とは言わないけれど許容範囲なのにこの扱いはあんまりだ……。

 そう思った私は一度兄に、この評価とともに「どうにかしたらどうだ」というようなことを言ったことがある。以下その時の会話。

「いいか、沙知。人間というのは目につきやすいものしか中々判別できないんだ。イケメン、ブサイクはわかるだろ?」

「でもお兄ちゃんはそこまでイケメンってわけでもないけど、ブサイクでもないし平均よりは整った顔立ちしてるじゃない」

「よく聞いてくれた、妹よ。いいか? イケメン、平凡、ブサイクっていうのは基準だ。何かを判断する際に、その基準以下かそれ以上かで個人としての評価は分かれる。つまり皆の記憶にはその基準となるやつが焼き付いてるわけだ。そして今お前が言ったように……自分で言うのもどうかと思うが、俺の評価は平均以上イケメン以下。中途半端なんだな。記憶に残りやすいのは平均の基準ぴったりの平凡な奴と、イケメンの基準を超える超イケメン、ブサイクの基準を下回る超ブサイクの奴なんだ」

 ここまで言った兄はフッと自嘲するようにさらに続けた。

「そして俺の場合はそれに加えて埋没しやすい身長に、名前が似通った二人とつるんでる。そしてその二人もおれと同じような身長、同じような評価の外見なんだ。これで他人の記憶に個人として認識されろという方が難しい」

 ここまで理論武装するほどに、存在感の薄さは兄を知らぬ間に追い詰めていたらしい。我が兄ながら哀れすぎる……。

 なに? その平凡よりも目立たない奴がいる理論は? 思わず途中から兄から目を逸らしてしまった……。

「つまりゲームで言う、スライムA、B、Cの認識ってわけね?」

 生まれて初めて兄が「うわぁぁぁん!」と泣きながらどこかへ走り去っていく姿を見た……。以上回想終了。

 あれでも中々頼りになるところはあるし、思いやりだってある。

 それに地球外移民プロジェクトでは、プレイヤーとして結構な好評価をもらっているというから普通にスゴイと言われてもおかしくはないと思うんだけど……。

 やっぱりアバターを誰にも明かしてないのはダメだと思うんだ。私だって知らないし、「スライムの群れ」レベルの存在感だとクラスでは、プロジェクトに参加していることすら知られてはいないのじゃないかしら……。

 つまり私の兄や、その友人たち三人組「スズキタロウ」は。

 全く同じような個性の三人があまりに似通った名前を持ち、なおかつそんな人間で集まって行動を共にするために、もともと微妙な存在感を自ら薄めてしまい、そのことを憂いつつも自らの情報を中々明かさないため知られるきっかけすら生まれない、という知らぬ間に己の個性を自らの手で隠してしまっている可哀そうな人たちなのだ。

 あまりに哀れになってきたので帰ったら何かお菓子を作ってあげよう。

 兄について考えていた私は、妹として慰めるべきだと感じた。ただ思いを巡らせただけでこれだけの憐れみを感じさせるとは、我が兄ながら恐るべしと言ったところかしら。

次回予告。

「今が輝く時なのか!? スズキタロウ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ