ACT:03 誕生! 魔王スズキタロウ!
密猟者を捕えた日が明けた。おれは朝食を採りながらニュースを見てるところだ。
えらいだろう? 社会情勢を常に気に掛ける男です。
…………嘘です。すみません。
このニュースは各惑星の情報を確認するために見てる。別にネットでも見れるのだが、やはり情報を扱うプロがまとめた情報は、要点がまとめられていてわかりやすい。
いつも通り情報を収集していると、「今日の称号授与者」のコーナーが始まる。このコーナー、毎日新しく称号をもらったプレイヤー(おれたちアバターを使って開拓や調査などをしている人間)をピックアップしていくコーナーだ。
まぁ、大体が人型アバターのプレイヤーなんだけどね。人外型アバターに贈られる称号は「魔王」一択なので滅多に現れないのだ。
また人外型アバターが主な活動としている、調査や収集、自然保護などは人型アバターの開拓に比べてインパクトが弱い。悪く言えば地味。
なので地球外移民プロジェクトの顔は人外型アバターの称号持ちが大半だ。
有名どころだと、開拓者集団「キングダム」の幹部三人かねぇ。
お、そろそろ今日の称号授与者が発表だ。このプロジェクト、世界規模なので参加人数も多い。だから称号持ちと言っても全く無名であるのが現実だったりする。悲しいな……。
今日この場だけの一発屋にならんよう祈ってやろう。
「なんと! 今日はちょ~久しぶりに魔王の称号がでましたぁ! し・か・も! 三人もいるのです!」
ほほう。それは珍しいどころじゃないな。魔王自体が稀なのにそれが三人とは。今日この場で発表される奴はほぼ間違いなく有名になるのではないか?
「アバターは、スライム、天狗、ゴブリンをお使いになられているお三方ですねぇ」
アバターの写真がぱっと出てくる。
そこでおれは口に含んでいた牛乳を思いっきり噴いてしまった。
あ、朝はやっぱり牛乳ですよね!
いやそんなことよりも!
あの少しマスコット風にデフォルメされたアバターは、見覚えがあるというレベルじゃ済まねぇぞ!?
「このお三方は以前から地道ながらも、着実な調査で新種植物の発見や保護指定区域の巡回に定評があったそうですが、決定打は昨日。密猟者からの地球外生命の保護、密猟者の捕縛に成功しております。またそれが大規模な密猟者グループのメンバーであったため今後の大規模な摘発が見越されております。まさに大手柄といったところでした!」
……マジか。あのアバターはどう見てもおれたち三人のアバターだ。流石に個人情報などまで公開されることはないが、ある程度の身分は公開されている。いまもテロップで霧ケ峰高校一年の男子生徒三名という身分だけは明かされているので、これはもしかしたら学校での認識が変わるんじゃね?
とか思っていると目の前から、
「……お兄ちゃん、わたしに何か言うことがあるんじゃない?」
牛乳まみれの妹から睨まれた。
紹介しよう。妹の鈴木 沙知だ。
妹と言っても同学年である。おれが四月生まれで、沙知が三月。うちの両親がお盛んに頑張ったんですね、ハイ。
気が強いやつで、ざっくばらんな性格をしている。そのせいか、髪の毛も生まれた時からずっとショートだ。
沙知曰く、「手入れが面倒」らしい。
「……そう。何もないのね。遺言くらいは言わせてあげようと思ったのだけれど……」
「マジすんまそん」
「誠意が微塵も感じられないけどっ!?」
「ごみん」
「さらに誠意を削ぎ落してるよ、それ!」
だってなんだかんだで許してくれるじゃん、お前。
「はぁ。もういいよ、全く……。お風呂に入ったあとで遅れて学校に行くから。で? なんで牛乳なんか噴いたの? なんか気になることでもあった?」
ほらな。と、そこでおれは沙知が後ろのテレビを振り返ろうとするのを制する。
「いや、早く風呂に行けよお前。悪かったな、ほら」
そういいつつ布巾で顔を拭いてやった。
「自分でできるからいいよ! いつまでも妹扱いしないでよ!」
妹だろうに。それにそう言いつつなぜされるがままになっている?
そんな風におれのこの日の朝食は過ぎていった。
●×●×●×●×
来ました。魔王鈴木 太郎としての初登校です。個人情報は明かされていないとはいえ話題は魔王が三人同時に誕生したことで持ちきりだろう。
これなら普段個人としては認識されないおれも何か話しかけられるかもしれない。
家を出る際ローとキタちゃんにもそれとなく連絡を取ってみた。すると、
「ついに時代がオレ達に追い付いてきたようだ……」
ロー、遅れているのはおれ達です。一世紀ほどかな……。
「俺達も勝ち組になれるかな?」
キタちゃん。勝つ前に勝負を受けてもらえるようになることが先決です。
だがおれたちが魔王と認めれば今までの扱いが改善されるだろう。そう思うとあいつらの気持ちもわかる。おれだって柄にもなくワクワクしてる。
おれはいつもと違い高揚する気分を抑えることが出来ないままに登校する。校門を抜け玄関で靴をはきかえ、階段を上り教室へ向かう。
おぉ。いつもと違うことが起きるんじゃないかと思うと、緊張するもんだな……。教室の前で軽く深呼吸。
ここからでも朝の魔王の話題で盛り上がっていることが窺える。ふふふ。待ってろ。いまその魔王が行きますよ?
意を決し、ドアを開いた!
「うわっ!?」
なんだ!? もしかしてもうバレていたりするのか?
「なんだ? 急に開いたのに誰もいねぇじゃん。びっくりした。いたずらかよ」
「へんなことをするやつもいるもんだな……」
ぴしゃり。そういって今の瞬間までおれの目の前に立っていた、いや、あいつらは身長が一八〇を超えているから立ちはだかっていた、か。とにかくそいつらの手により目の前のドアが閉められる。
………………。
…………。
……。
えぇ~? ナニコレ? 話しかけられるどころか相手の視界にすら入ってないってお前。だれが想像できるよ?
その後、だれにも挨拶をされることもなくとぼとぼと自分の席に向かうおれ。少し期待してただけに落胆も堪えるぜ……。
おれの後に登校してきたローやキタちゃんもいつも通り、個人で認識されることがなかった。おれ達三人はただクラス中で自分たちの話題を聞いているだけだ。
「いや諦めるのはまだ早い……」
なにかあるのか! キタちゃん。
「さすがに教師ともなるとある程度の情報は聞いているんじゃないのか? それにクラスで誰が地球外移民プロジェクトにプレイヤーとして参加してるかくらい把握はしてるだろ」
「なるほど。把握してるのであれば最良。そうでなくてもオレ達にも話題が振られる可能性は高いわけだな。それにしても……初めて鈴北、と呼ばれるのか……。どうしよ、こっちもスズキ達呼ばわりに慣れすぎて返事し忘れたりしねぇかな?」
やめろ! 聞いてて悲しくなるわ! 見ろ! キタちゃんが「くっ……」とか言いながら顔を背けてるじゃねぇか!
そんな自虐的な話題を繰り広げていると、待ちに待った担任が教室に入ってきた。
「先生! 今日のニュース見ました?」
「先生はこのクラスのプレイヤーも知ってましたよね? 魔王の称号授与者についてっも何か分かってるんですか?」
おぉ! キタちゃんの予想は当たっている。さすがに連絡はなかったそうだがプレイヤーは把握しているらしい。
「はいはい。落ち着け、わたしも驚いたよ。ただ誰が称号をもらったのかということまでは知らんのだ。一応クラスのプレイヤーも把握してるがほとんどみんな参加してるしなぁ。とりあえずプレイヤーとしての評価が高いという報告を受けているのは……速水! 羽場下! お前たちは心当たりがあるのか?」
「あはは。残念だけど俺は人型アバターなんで違うッス」
「私も人外型アバターではないので、心当たりはありません」
先生! ほかにも評価の高いプレイヤーはいるんでしょう? ほら! こっちは準備できてるから、バッチ来い!
「そうか。ということは他のクラスか、他学年だろうな。よしホームルームを始めるぞ……どうしたスズキ達。どこか具合でも悪いのか?」
orz←おれ。
orz←ロー。
orz←キタちゃん。
こうして魔王スズキタロウは人知れず、正体不明の魔王として以後一切話題になることなく静かに誕生することとなった……。
次回予告。
スズキタロウってどんなやつ? (鈴木 沙知編)