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ACT:02  ふははは! 最も栄えた一族を教えてやろうか? スズキだよ!! (いいえ佐藤です)

 おれだよ、鈴木だよ!

 みなさんこんにちは。いまおれを含めローとキタちゃんの三人で金星にある熱帯雨林地域、ベヌスのジャングルに来ています。

 さて、みなさんおれ達のアバタ―がどんな姿か気になりません? なるよね? ふふふそうだろう、そうだろう。教えてしんぜよう。

 おれの姿は透き通っているが、どこか深い海を思わせる蒼、そして少しの振動で「ぷるぷる」と波打つ身体。ただしちっちゃい。

 ローは赤みが強い顔をしており、鼻が長い。背中には羽がある。何かの漫画で読んだが山伏だったか? その服装を真似ている。ただしちっちゃい。

 キタちゃんは鉤鼻をもつ顔。尖った耳を持ち、手には棍棒。とんがり帽子とシャツに短パン。ただしちっちゃい。

 おわかりだろうか?

 俗にいうスライム(ちゃんと人の形はしている)、天狗、ゴブリンである。

 ……。

 …………。

 ………………。

 なんで人じゃないってか? ていうかそれゲームで言う敵じゃね? いうな! わかってる。わかってるんだ!

 説明するから聞いてくれ。この惑星開拓、娯楽という性質も含んでいるため、遊びの部分も結構ある。世界規模のプロジェクトなのに、だ。

 まず人型のアバタ―だが、あれは主に未開拓地の探索というゲームで言う冒険者的な役割をする人たちが主に使うアバタ―だ。凄い手柄を立てたり、実力が半端じゃなく強かったりすると「勇者」だとか「聖人」だとか「第六天魔王」とかよばれる。あれ、最後の歴史の人物じゃね……?

 そして実は開拓するだけが全てではない。自然の調査や自然保護、貴重である資源などの守護なども役割があるのだ。そういった人たちは大体人外型のアバタ―を使っている。

 こんな時代でも密猟など犯罪行為をする輩はいる。まぁ地球外生命体だからね、あいつら。珍しいんだ。そういった犯罪者との戦闘もおれ達人外型の役目である。

 ちなみにおれ達人外型の称号は「魔王」一択である。魔王大量生産しちゃうよ? てか「第六天魔王」はこっちの称号じゃね?

 ウォッホン! じゃあレベルアップとかあるの? と気になるだろうが、レベルなんて概念はないしスキルなんて概念もない。基本己の実力。ただアバタ―はサイボーグなど最先端技術の粋である。それだけで普通の人間よりは遥かに運動能力が高い。

 そして仕事の達成率などで電子マネー的なポイントをもらえる。このポイントを使ってアバタ―のチューンナップができる。これで性能アップ。ゲームで言うレベルアップと考えてもらえばいいだろう。武器や服などアクセサリーも買えるぞ。

 最初から高機能なアバタ―は与えられない。仕事をこなし信頼を勝ち取ると同時にポイントをもらう。ポイントを持ってるやつはそれだけ貢献してるってわけだ。

 死んだらどうなる? いわゆるアバターの破損だが、ペナルティがある。

 三か月間のアバタ―の使用停止だ。めっちゃ高いからね、アバター。アバターの破損記録も残るのでこれもまた信頼関係にひびく。

 ここまで聞いてもらえばわかるだろう? おれ達は開拓よりも調査や保護、警備などを主な役割にしているのさ。

 以上スタジオでした。現場の鈴木さ~ん?

 はい、こちら現場、ベヌスのジャングルにいます、鈴木です。

 おれたち三人でジャングルの中をいろいろ探索中である。植物の採取や生物の写真映像を撮ったりいろいろしてる。

 ゲームみたいに持ち物を見えないところに収納とかはできないので皆ふつうに鞄を持っての探索だ。容量はもちろん鞄の分だけ。

 写真を撮ったりしている機械はアバターには全員渡される端末で、クエストカードとか呼ばれてる。タッチパネル型の機械でカードみたいな端末だ。これにポイントや自分の情報などすべて入っている。こなした仕事の数、現在所持しているポイント、今までの累計ポイント、アバターの破損回数などなど。立体投影もできる優れもの。

「やっぱりジャングルの気候には来たことないから、初めて見るようなものが多いよな」

「あ、ローもそう思う? やっぱり開拓よりもこうやっていろんなものを調べたりするほうが俺は好きなんだよね」

「キタちゃんらしいぜ。おれは開拓も楽しそうだと思うけど……開拓に行くような人数は揃えられんからな、おれたち……」

「タロー……。金星に来てまで悲しい事実を言うなよ……」

 開拓はかなりの大人数になる。おれたち調査組は何を隠そう、一回開拓組が探索し、切り拓くよりも残したほうがいいと判断された場所を回っている。

 切り開く土地は凶暴な生物がいたりと危険が多い。誰も知らない土地を慎重に進むので大人数で互いをフォローしながら進むのが基本となっているのだ。

 所詮、群体「スズキ達」も、開拓するには中途半端だということさ……。

 取り留めのないことを考えながらもおれ達三人は調査や採集などをこなしていく。やがて三人とも鞄がいっぱいになってきたところで、次回来た時のためのマッピングや記録などの確認を行っていく。

 今まで来た道を戻り記録したマップと比べる。目印などを記入し、このジャングルの注意事項なども意見を出し合いまとめていく。そんなことをやっていれば一日の探索などすぐに終えてしまう。

 今日もそろそろ終わりにして続きは明日にしようと話がまとまった。

「ここはどれくらいで回り終えるかね?」

「俺達はジャングル初めてだし、いつもよりは長く見積もったほうがいいんでない?」

「キタちゃんの言うとおりだな。ローもちょっとながく見積もったほうが――っ!」

 おれはとっさに手をあげ皆の動きを止める。ジェスチャーで静かにするように示してから周りを見渡した。この一連の動作でおれの身体が「ぷるるんっ」と震える。緊張感を削ぐな、このアバター……。

「……どうした? タロー」

「誰かいるぜ。このジャングル……」

「調査の申請を見る限り俺達以外にはいないはずだけど……?」

 調査、探索などあらゆる仕事をこなす際には申請を出す必要がある。申請の記録で同じ場所に大勢いる場合は気にならないが、今日このジャングルにくる申請を出しているのはおれ達だけだった。ほかに誰かがいるはずがないのだ。

「おそらく、密猟者だろうな」

「戦闘は久しぶりだな……」

「やべっ! 俺今日の棍棒木製だ。金砕棒(かなさいぼう)持って来れば良かった……」

 とりあえず気配を感じたほうへ二人を先導しながら向かう。やがて鬱蒼とした植物の蔓が視界を狭めるなか、前方に人型のアバターが三人こそこそしているのを発見した。

 地球ではまず見ない虫や動物などを乱暴にツッコんである袋がその足元には見えた。密猟なのは確実だな。仕方ない、戦闘を避けることはできそうにない。

「すいませ~ん。金星政府保護区域指定ベヌスのジャングルで採集するには許可が必要ですけど、ちょっとクエストカード見せてもらってもいいですかぁ?」

 おれがそう声をかけると素早い動きで振り返り、こちらを睨んでくる。あれま、好戦的なみなさんだこと……。

「……今立ち去れば、お前たちはアバターの破損ペナルティを受けることはないが?」

 相手の三人のうち一人が、微妙な遠まわし発言で脅してきた。だめだこりゃ。話し合いする気ゼロだね相手さん方。

「おっさんたち、自分たちがやっていることわかってっか? オレ達容赦なく捕まえっけど、恨むなよ」

「俺の棍棒のサビにしてやんよ!」

 ローは意外に思えるが、犯罪行為をおれ達のなかで一番毛嫌いしてる。あと、キタちゃん、棍棒はサビない……。

 そんなことを心中で思っていると、相手の三人が一気にこちらに襲い掛かってきた。向かって右をロー、左がキタちゃん、真ん中がおれという形で迎え撃つ。

 ローが相手のナイフを危なげなく躱す。引き戻そうとする前にその腕を掴み肘部分を膝で蹴りつける!

 耳障りな音とともに相手の右腕が砕け散る。相手がかなり驚いているのがその表情からわかるが、おれたちにとってそれくらいは当たり前だ。

 なにも密猟者と戦り会うのは初めてではない。我流ではあるが場数は踏んでる。

 キタちゃんも相手の攻撃をコマのように回って躱す。その勢いのまま野球の打者のように棍棒を、攻撃後の無防備な相手へとフルスイング!

 頭がどっかへ飛んでった。一人終わり。

 その間にローが相手の背後をとっている。そのままチョークスリーパーで締め上げる。やがて鈍い音とともにその首が歪な角度で折れ曲がる。二人。

 え? 説明なんかしてる暇あんのって? おれはもう終わってるからね。相手の攻撃を受けるまでもなく刺さったナイフがおれの身体に沈む。それだけ。

「……」←おれ。

「……」←密猟者。

「じゃ、終わりにしますか」

「え、えぇ~!? なんで何ともないんだ、お前!」

 たかが固形物が液体であるおれに通じると思ってか! 愚か者めが。物理的耐性に関しては全アバター中 最強どころか、無敵ですよ?

 右腕を変形させて針状にし、相手の顔を貫く。三人目。

「今回の奴らはあっけなかったな……」

「ロー、そんなこと言うな。俺達が強すぎたのさ……」

「なにそれ、イタイ……」

 とりあえずこのアバターの残骸を持っていけば、アバターの記録から本人までは辿り着けるだろう。問題は……

「誰がこのアバターを運ぶかだな……」

 そう、おれたち採集で既に身重なのだ。そんななかこんな重いもん持ちたくなんかない。

「ついに、俺達も雌雄を決する時が来たようだ……」

 キタちゃんの言葉で方針は決まった。戦闘による敗者への罰ゲームですね。わかります。

「ふふふ……。貴様ら、日本で最も栄えた一族を教えてやろうか? 鈴木だよ!」

「黙れよ。数ある鈴木(汎用型)の一握りが」

「そのたとえはひどくね!?」

 そんなやり取りの後、三つ巴の戦闘が始まった。密猟者とは違い長くなりそうだ。

 皆手の内は知り尽くしてるからね。決定打どころか攻撃が当たらん……。

 勝負の分かれ目は生贄を誰にするか、二人でアイコンタクトし結託するところだ。いつもこうだしね、決着方法。

 そんなこんなで、時間の無駄遣いが始まりました。以上、現場の鈴木でした。


 ●×●×●×●×


 勝負の結果、罰ゲームはキタちゃんだった。

 というか今回あいつら、液体である俺に通じる武器を持ってきてなかったのでおれの負けはなかった。あとはあいつらのうちどちらと結託するかという、おれ次第だったのだ。

 密猟者のアバターと採集物や映像記録などを提出すると思いのほかポイントをくれたので、ちょっと理由を聞いてみたが受付のお姉さんはにこにこと「当然ですよぉ」と言うだけだった。

 絶対なんかある……。

 その笑顔に何かを感じながらも結局は答えがわかるはずもなかったので、その日は解散となった。

 ちなみに。

 家に帰って日本で一番多い苗字は何かを調べてみた。

「佐藤」。

 ……鈴木ぇ…………。

次回予告。

「誕生! 魔王スズキタロウ!」

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