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ACT:01  お~い! スズキたち三人!

 今日は前回の小テストが返ってくる日だった。

 おれは担任に呼ばれたので席を立って取りに行く。しかし一人じゃない。

 鈴北と珠洲も一緒だ。

 おれ達が呼ばれるときはまとめて呼ばれる。これ常識。(どこの?)

 ちなみに授業で当てられるときはこうだ。

「あ~。え~と……、スズキのうち一人、ほらそこの並んでるうち一番前のやつ!」

 先生、一番前は珠洲です……。

「おい、タロー。お前何点だ?」

 そうおれに話しかけてきたのはいつもつるんでいるうちの一人、鈴北 楼。通称ローだ。

「ふっ。四九点」

「また平均よりは下だけど、補習を受けるほどでもない、何とも言えない数字だな……」

 そう言うのはいつもつるんでいるうちのもう一人、珠洲 喜太郎。通称キタちゃん。

「そんなこと言うローとキタちゃんはどうだったんだよ?」

「四八点」

「五一点」

「……またクラスで一番はとか、平均ぴったりはとか、言われずに埋もれるようだな」

 席に戻ると早速クラスで一番はとか担任が言っていた。一番は速水とかいうイケメンだ。

 周りからスゲーとか言われてる。

 一番点数低かったやつも、またお前かとか言われているし、平均ジャストだったやつもぴったりって狙えんの、とか言われてる。

 そしてその他の奴らも点数を聞きあっているなか、おれ達は何も聞かれない。

 名前が似すぎているという最大の理由に加え、身長も大差なく、顔立ちも似てるわけじゃないけど、皆ある程度整っているため三人の内イケメンのやつとか、普通の奴とか、ブサイクの奴とか区分けが出来ないため、個人として認識されていないのだ。

 一度、クラスの女子が話していたのを聞いたことがある。おれ達は三人で「スズキ達」という群体なんだそうだ。

 なにそれ、ひどい……。

 とりあえず答え合わせが始まったので担任の解説を聞きながら、赤ペンで直していく。

「ここの答えは第一次エンドレスマジパナイパナイ論争、だ」

 ……そこのあなた引かないで。これマジであったことなんだぜ?

 きっかけは地球外移民プロジェクトだ。

 いま現在二三〇〇年代だが、二〇〇〇年代から始まった今なお続く、有史以来初の全人類共同プロジェクトだ。

 テラフォーミングの技術を使い、太陽系の惑星に地球以外にも住める星を作ろうという計画だ。候補は火星、金星、月そしてエウロパ。

 そして二二三六年。各惑星の様子の映像を見た地球政府総統が言ったのだ。

「自然、マジぱねぇ」

 各惑星の自然系は予測をはるかに超え独自の生態系をすでに形成していたのだ。住める環境を通り越して、未知の生物が闊歩しているのだから気持ちはわかる。

 問題はそのあと。そのコメントを受けてとある専門家がこう言った。

「そんなコメントを発表できるあんたが、ぱねぇ」

 そして、その専門家に対しとある教授がいった。

「感想にそんな言葉を使うあなたも十分ぱねぇ」

 そして、その(以下、とある子どもがぱねぇって何? と質問するまでエンドレス)という論争があったのさ。不毛だ……。

 そして気づいただろうか? これ、「第一次」である。恐ろしいことに。現在「第三次」が進行中である。もはや「大惨事」だよ……。

「ここの地球政府が発足した理由を述べよという問題だが……、羽場下(はばした)、言えるか?」

「はい」

 おれは返事をした女子生徒に目をやった。

 ……羨ましい。本気で思う。呼ばれた女子生徒、羽場下(はばした) (かなう)。 身長は一七〇ちかくあるのだ。さすがバスケ部。その身長をください……。髪の毛は長くないのだが、肩ぐらいまでにしかない髪の毛を後頭部で一つに結っている。美人とか、かわいいというよりも格好いいという印象をおれは彼女に持っている。

「地球外移民プロジェクトにおいて、各惑星に移民が済んだあと各惑星独自に政府を作るべきだという意見があり、移民に先立ち各国政府の上位組織として発足されました。その背景には惑星単位の大型組織のモデルケースとして、問題点などを洗い出すという目的があります」

「うん、よろしい」

 羽場下の声はちょっとハスキーなのでおれにとっては耳に心地が良かった。

 その後も答え合わせは続いていく。

「じゃあ、ここは……スズキタロウ。え~、そこの真ん中のヤツな」

 先生、テストの答えより個人として認識される方法を教えてください……。


●×●×●×●×


 なんだかんだで今は昼飯直前の体育の授業。

 時代は進めど教育に関しては特に変わった変化はないらしい。そんな昔のことはさすがに知らんが。

 今日の体育は「ドッジボール」。喜べ、諸君。このスポーツは二三〇〇年代にすら受け継がれているぞ。

 二クラス合同で行っているため、おれ達群体(涙目)の存在感はさらに希薄になっていく。いまはローとキタちゃんの三人で女子の試合を眺めている。

「この二クラスだと容姿含めて、羽場下(はばした)上代(かみしろ)南野(みなみの)の三人が目立つな」

 ローの言うとおりこの三人はおれ達のクラスを含めた二クラスどころかこの学校でもレベルが高いのだ。

 同じクラスでバスケ部所属の、羽場下(はばした) (かなう)

 隣のクラスで剣道部所属の、上代(かみしろ) 弥生(やよい)

 同じく隣のクラスで柔道部所属の、南野(みなみの) 夏海(なつみ)

 それぞれおれの中では、かっこいいモデルのような女子、意志の強さを感じる凛とした美人、マスコットのようにかわいらしい女の子というカテゴライズである。

 何を隠そうこの三人、霧ケ峰高校男子による地下女子人気投票でベスト一〇〇に入っている。

 そこのキミ。一〇〇って大したことないとか思ったか? 甘い。この高校、超マンモス校である。全校生徒三〇〇〇人オーバー。多っ! と思ったキミ。その通りめちゃくちゃ多いんです。さらに希薄になる群体「スズキ達」。

 なぜこうなったかを説明すると、これはかつての少子高齢化問題に起因するそうだ。

 この問題を深刻に考えた地球政府は何をトチ狂ったのか、ある政策を実行した。

 その名も「人類補充計画」。一文字変えようとか馬鹿な真似はやめてくれな?

 で、どんな内容だったかというと、とある人工島に若い男女をたくさん集めて新しいお仲間をたくさん補充してくださいっていうもの。……それなんてエ〇ゲ?

 とりあえず人口はめっちゃ増えました。どれくらい増えたかというと、

ヒトつなぎの大神秘(ワ〇〇ース)を俺は手に入れる!」

 という参加者の男のセリフに対し、とある政府高官が

「世紀をまたいで語られる名作を、そんな形で倣うとは……。批判も覚悟したそのセリフ、マジぱねぇ」

 というコメントを切っ掛けに第二次エンドレスマジパナイパナイ論争が巻き起こるくらいに認知されるほどの成功を収めてる。

 ちなみにどうでもいいがこんなパナイ発言もある。

「人が繋がると一繋がりになるの、人と一を掛けている……マジぱねぇ」

「その掛詞、どう捉えても下ネタ……世界規模のプロジェクトでその言葉、マジぱねぇ」

 閑話休題。

 とりあえず再び増加した人口。それは今の時代にも言えることで、おれ達の高校もマンモス校になってるってわけだ。

 一学年女子およそ五〇〇人。そのうちで一〇〇位以内の人気なんだから十分凄い。まぁもっと詳しくいうなら十番台だから凄いで済まないんだけど。

「あの三人だと俺は上代が好みだなぁ……」

「ほほう。キタちゃんは上代派か。オレは南野だな。タローは聞かなくてもわかるぞ。羽場下みたいにかっこいい女が好みだもんな、お前」

「まぁな。悲しいことに所詮三人で一セットのおれ達には何の縁もない話だけどな……」

「それを言うなよ……」

 そんな哀愁漂う会話をしたり、男子の試合でスポーツが得意のヤツをアウトにしても「速水君、ドンマイ!」だとか「惜しい惜しい、次は捕れるよ!」だとかおれ達、群体の成果については誰も言及しないままに体育の時間は終了した。

 なに、この咬ませ犬的な扱い……?


 ●×●×●×●×


 さて今日も放課後である。かつては昼からも授業があったらしいが、今の時代授業は大体午前で終わる。

 そのかわり小中学校で習う範囲が増えたんだけどね。

「タロー、今日はどこに行く?」

「そうだなぁ。昨日は月の月読樹海に潜ったんだし、今日は月以外にしようぜ」

「あ、じゃあ俺金星がいいな。あそこには熱帯雨林あったろ? 俺達そういったとこにはまだ行ったことないからさ、どう?」

「いいんじゃね? それで。じゃあ今日は金星に決まりだな。集合はどうする、タロー?」

「そうだな……。金星にはヴェニュス湿原があったな。まずそこに集合してから、ベヌスのジャングルに行くか」

「決まり! じゃあ金星でまた会おう!」

 そう言ってローとキタちゃんと約束し、家に帰る。

 地球外移民プロジェクトで各惑星は驚異的な環境の進歩を見せた。ただその際、独自の生態系までも発達してしまったため、開拓が必要になったわけだ。

 あまりに過酷な自然はいまだにほとんど開拓されていない。そこで地球政府は一般人にも開拓に参加できるようにしたのだ。

 民間の企業も複数参加し官民合同で世界単位の娯楽兼ボランティア? がここに出現したのだ。

 しかしそんな簡単に各惑星間を移動できない。そこで出てきたのが「五感リンクシステム」と「アバタ―」だ。

 アバタ―は各惑星で活動するための生物型アクションツールで、主にサイボーグ技術や液体金属による機械群、医療科学などあらゆる科学の粋を集めて完成した。

 五感リンクシステムも同じようなものだ。首輪型の本体を付け、据え置き型の無線機とつないでスイッチを入れればあら不思議。一旦バーチャル空間にてどこの星のアバタ―と接続するかを選択すれば、選択した星のアバタ―とリンクできるって寸法だ。

 各惑星間に持てるアバタ―は一人ひとつ。どこの星でもアバタ―の外見は変わらない。

 おれは全部の星にアバタ―を持ってるからどこの星でも探索可能だよん。

 そんな誰に説明してるのかわからない説明を終えたおれは、家に帰り着くなり五感リンクシステムを付けて、準備を終える。

 さて、いざゆかん! 金星へ!

「コネクト・イン」

 誰もいない自宅で別に何も言う必要はないのに、イタイセリフを言っておれは金星のアバタ―へと五感を飛ばした。

 あまりに寂しい現実を送ってると、たまに意味なく言葉を発したくなる時って、あるよね……?

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