一夜明けて
いけない、時間!
と思って、目を開いたシャリはいつもと違う天井にまず戸惑い、そして納得した。
手を持ち上げて見ると、毛がなくて元の姿だと分かる。
毎朝シャリは完全に魔と化さない為の儀式として、聖水に身を浸している。
今日からは、いいのだろうか?
それともカジュ家へも誰かが迎えに来るのだろうか、それも毎朝……と心配になった。
とりあえず起きていた方がいいに違いない。
上体を起こして、シャリは自分が服を着せられている事に気付いた。
しかも昨日の夕食に着ていた物とは、また違う物だ。
一体何種何着シャリに用意してくれたのだろうと、不安になる。
きっと寝皺が出来ているに違いない。
「どうしました、シャリエゼーラ。まだ日の出前ですよ?」
静かに動いたつもりだったが、起こしてしまったらしい。
宣言通り本当に、一緒に寝ていたゴトルーから声を掛けられた。
「ごめん、なさい」
「構いませんが、どうしました?」
再び尋ねられて、シャリは質問で返す。
「あの……私の、聖水の儀式、は。どうなるのでしょう?」
「貴女はもう聖水漬けや聖言攻めにされなくていいのです。私が貴女の魔を封じている事になっていますから」
どうやら降嫁の理由と同じで、儀式も必要なくなったらしい。
だが毎朝の事だったので、急になくなるのは、どうも不安だ。
「もう少し横になって、お話でもしませんか、シャリエゼーラ?」
見下ろしてばかりでは不敬になるかと、シャリはゴトルーの言葉通りにした。
すると抱き寄せられる。
「これで良し」
「……」
「そもそも私は貴女に、そんな儀式など必要ないと思っています。毎朝聖水漬けにされる事で、体を清潔に出来たという点だけは認めますが、冬の時期はかなり冷たかったでしょう」
「いえ。私は魔女ですから。何事も、……慣れです」
「貴女を魔女と呼ぶならば、貴女に様々な事を強いて来た者達は皆悪魔になりますね。その点、何人もの人間を切って来た私も悪魔ですが……」
「……貴方が、切った?」
「辺境の小競り合いというのはまぁ、殺し合いの様なものでしたから。私から見れば多くの血を浴びている私などより、シャリエゼーラの方がよほど清らかな存在だ」
ゴトルーに髪の毛を撫でられた。
そういえば元の姿でこうされるのは、始めてだった。
この状態で、何を今更なのだが。
やはりゴトルーに触れられるのは心地好い。
「もし貴方が、私と同じ……魔の、属性なら。それは、とても嬉しい事です」
「……。……貴女がそう思ってくれるなら。私は自分の過去を肯定しようと思います、シャリエゼーラ」
険しかったゴトルーの声が優しくなって、シャリはほっとした。
しかしまたぞろ自分の事が心配になってしまう。
「起きます。やはり朝日ぐらいは、浴びたい……ので」
「では私もお付き合いしますよ。聖水というわけにはいかないが、水も一杯持って来ましょう。……なんて、単に喉が渇いているだけですが」
喉の渇きが本当なのか、それとも気を遣ってくれた言葉なのか……たぶん後者なのだろうなとシャリは思った。
幸せだな~。