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魔女のご主人様  作者: きいまき
26/29

終わり

 ゴトルーとビスが二振りの剣と予定通りにとんぼ返りして来た。



 安心したシャリはそわそわせず、のんびり散歩へと出る様になり、山からの帰りらしい子供達と出くわした。

 シャリに気付いた子供達が駆け足で群がって来る。


「あ~っ! シャリ様だ!!」

「わ~いっ! シャリ様~っ!」

「シャリ様、お忙しいの終わりましたか……?」


 どうやら、ここ最近シャリの様子が変だと、子供達にまで心配されていたらしい。


「シャリ様っ、これ食べられますかっ?」

「これはっ?」


「こっちはっ?」

「シャリ様っ!」


「「シャリ先生っ!!」」


「……っ!」

 相変わらずの猫姿の為、言葉は出せないが、自分が先生と呼ばれる様になるなど想定外もいいところで驚く。


 子供達から次々と採って来たばかりの物を見せられ、シャリは頷いたり、首を振ったりした。



「シャリ先生! これとこれ似てるけど、どこが違うんですかっ?」

「もし食べちゃったら、……どうなっちゃうんですか?」


 と、終いには是非で答えられない質問まで出る。


 しかも、もし元の姿だったとしても「勘で」という答えでは納得してもらえそうにない。



 先生(師)と呼ばれるからにはっ、出来る限りの事を……という思いから、シャリは至急動植物辞典を取り寄せてもらい勉強していった。




 そうして子供達と遊ぶ事が多くなったある日。


「シャリ先生っ! シャリ先生みたいに小鳥になって飛んでみたい! あたしも魔女になれますかっ?」


「……っ!?」


 魔女は、黒だから魔女なのだが……。

 よもや魔女になりたいなどと言い出す子まで出て来るとは……。


 これが所変われば品変わるというものなのだろうか? 



 早速シャリは魔女や魔法についての異端本も探してもらえるかどうか、ターブの見回りから帰って来たゴトルーに尋ねてみる。


「封じている事になっている以上、その実態に関する知識を得たいからという名目で集められなくはないと思いますが……」


『我が姫っ! 我が魔剣という事をお忘れではありませんかなっ?』


「?」

 ここぞとばかりに口を挟んで来た魔剣に、シャリは首を傾げたのだが……。



『書物など取り寄せずとも、我がお答えします、我が姫。

 そもそも我が姫におかれましては黒という色が持つ意味をご存知ですか? 夜、暗闇、影の色というのはもちろん、黒は吸収の色なのです。

 黒という個体でも充分強い色にも関わらず、更に外からどの様な力も取り込める。魔だけではなく、聖の力もです。

 ですから昔は黒を魔ではなく、聖とした国もありました』


 その内容に途中からシャリは完全に耳を奪われ、苦々しい表情のゴトルーに微塵も気が付かなかった。


『全く黒を魔とするなど、嘆かわしい限りですな。あぁ講釈が過ぎました。我が姫はどの様な事をお知りになりたいのでしょう?』


 そうして再び尋ねられた時、シャリは意識をすっかり定めていた。


「魔剣様! 師、とお呼びしてもよろしいで、……っ!?!?」


 ところが言い終わる間もなくシャリは、魔剣を側にいたビスに有無を言わさず押し付けたゴトルーにその場から掻っ攫われて、自室へと運ばれてしまった。




「ゴトルーっ! 何? 何、す……る???」


 そんな突然の行動にシャリの心臓はバクバクである。


 するとゴトルーがシャリを下ろし、目の前に膝を着いた。

 更には文字通りの怖いくらい真摯な表情をしたゴトルーから、ふいに手を取られる。


「シャリ、我が姫」


 悪い事などしていないはずだ……と、驚きとは違う意味で心を動揺させながらシャリは不服を返す。


「ゴトルーまで。私、魔女なのに……」


「男にとって愛する女性はいつまでも姫なのですが……では、我が魔女。私と生涯を共にして頂けますでしょうか?」



「……。……いいの? 魔女にそんな事、言っていいの? ゴトルーに言われたら、信じてしまうかも知れないのに。私、本当はずっといたかったから。後から遠ざけ様としても無理になる……」


 かろうじて言葉だけは疑問形にしたが、シャリはもう信じてしまっている。



 ずっと欲しかった夢の様な場所。

 黒が居てもいい場所、帰る家。

 そして、そこにいる大好きなゴトルー。


 涙が滲んで来た、悲しい涙ではなくて、嬉しさから。



「すみませんでした、シャリ。私は夫という言葉に甘えていた様です。剣にまで嫉妬して妙な事を言い出したとまた笑われるか、今更どうしたのかと不思議そうにされるくらいだと思っていました。

 ……ここにいて下さい、愛しいシャリ。ショウプに、この家に、私の側に」



 もちろんと頷いて、いつもの様にシャリはゴトルーに抱き付いたのだった。





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