覗き見
魔剣がシャリの気配を完全に覚えたという言葉は伊達ではないらしく、意識を集中しさえすれば、シャリは剣達が近くになくても意思を交わし合える様になっていた。
しかも王都への道中からも剣達は音や香り付きという、まるでその場にいるかの様な光景をシャリの思考へと送り届けてくれる。
『ふふっ、我らと我が姫の間に貴様ごときでは割り込めんのだっ。貴様、何をする! 我を壊す気かッ!』
どうやらゴトルーが魔剣をきつく握っている様だ。
ゴトルーと魔剣の仲良さそうな雰囲気に、シャリは笑ってしまう事が多々あった。
魔剣聖剣が発見されたとの一報は、王都の上層部に大騒ぎを引き起こしていた。
王都に到着したその日のうちにゴトルーとビスは、近衛騎士に連れられて、最優先で国王への謁見を果たした。
もちろんシャリは、その様子もリアルタイムで見せてもらっていた。
「カジュ。アレといい、魔剣といい、そちは魔に縁があるのだな。何の因果で王族として生まれたのかは知らぬが、余もアレのお陰でいらぬ苦労を背負わされた。全くもって忌々しい。アレは不浄よ、汚らわしい存在……」
アレとはシャリの事だ。
王の口から出る魔への嫌悪の数々をシャリは久々に聞いたと、懐かしくさえ思っていたのだが、魔剣としてはそうとは思えなかった様だ。
『おのれっ! 黙って聞いておれば、我が姫への数々の暴言……許すまじっっ』
魔剣が怒りで震え、ガシャガシャと不吉な音が謁見の間に響き渡る。
魔剣の声は聞こえていないのだろうが、その音に気付いた人々が息を飲んだ。
「「やめろっ!!!」」
ゴトルーとビスが叫ぶが、魔剣はゴトルーが押さえ付けた鞘から抜け出し、王に向かって飛んで行く。
「駄目っ!」
実際その場にいないと分かってはいたが、思わずシャリは大きな声を出してしまった。
そしてそれと同時に、魔剣の進路を聖剣が塞ぐ。
『耐えるのだ、魔よ。これ以上お立場が悪くなって困るのは、シャリ姫ぞ。その男もそれを思って耐えておるではないか』
『……っ』
動きの止まった魔剣の柄をゴトルーは掴んで、再び鞘へと戻す。
魔剣が鞘に戻されたのを見て、逃げ出し掛けていた王や、重臣達もざわめきは残るものの落ち着き得た。
「陛下、御覧の通り、この魔剣は魔女に懸想しております」
「懸想だと?」
「はい。此度の事は、魔女を貶めたが故に魔剣が暴れたのです。やはり王宮では少々私の魔を封じる力が弱ってしまう様ですね。
ショウプでは魔剣がこの様に暴れる事はありませんでしたので。正直、日々魔剣が暴れては私の体が持たなくなります」
「……」
「やはり魔剣もある以上、ショウプから離れるのはよくない様です。ショウプで私は日々歩き回り、息の掛っていないものはございません。
魔女と魔剣、合わせて封じるのは難しいと存じますが、幸いビス殿が聖剣を手に入れられました。聖剣さえ側にあれば、魔を封じる力も強まるでしょう」
同じ様にビスも聖剣の柄を手にし、国王に向かって敬礼した。
「私もゴトルー殿を助け、この聖剣と共にショウプの地で魔の力を封じる所存です、陛下。魔女を含め、二振りの剣をショウプに置く事をお許し頂ければ、必ずや御身、引いては我が国へ災いが降り掛るのを防ぎましょう」
謁見に参加した貴族達からも、同意の意見が出始め、王も心を決めた様だ。
どうやら全て無事に収まりそうだと、シャリは詰めていた息を長く吐き出した。