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魔女のご主人様  作者: きいまき
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飛来

 ずっとシャリは怖かった。


 呼び声の主を探しに行く事は、自分からショウプを出て行くという事。

 出て行ったら、二度と帰って来るなと言われるかも知れない。


 同時にシャリは、悲しかった。


 ゴトルーは行くのを許してくれるに違いないと思っていたが、それは一時的とはいえゴトルーから離れる事を意味していたから。



 でもゴトルーは可能な限り、シャリと一緒に行くと言ってくれた。

 長期間付き合わせるなら、ゴトルーの言う様に、方角だけは分かっている方がいい。


 確実に探しに出発するのが遅れてしまうから、声の主には申し訳ない反面、勝手に一人で出て行かないで良かったとシャリは思う。


 ゴトルーに内心を告げてしまう前に感じていた、焦りや不安が和らいでいたからだ。



 そういえばこうしてゆっくり食後のお茶を楽しむのも、久しぶりの様な気がする。

 安らぎ、そして変化していない時間がここ最近は少なかった。


 そこまで考えて、だから寝ている時ばかり、呼び声は聞こえたのではないかとシャリが思い当たったその時。


『……』


 あの呼び声が聞こえて、勢いよく立ち上がり一番近い窓へと駆け寄った。


 そしてシャリは心の限り、叫ぶ。


「どこッ? 私ならここにいるッ! あなたはどこにいるの……ッ?」


 今まで声を感じ取ろうとはしていたものの、こうしてシャリの方から呼び掛けたのは始めてだった。


 ゴトルーを始め、食後のひとときを一緒にしていた面々が、驚いて心配そうに寄って来てくれた。



 しかし何の反応もなく、届かなかった様だと諦め掛けた時、猛烈な速さで何かが飛び込んで来た……しかも二つも。


『我が姫!! 我らの呼び声に応えて下さったのですね!!』

『我が姫!! あぁようやくお目に掛る事が出来ました!!』


 シャリの目の前に止まったのは、二振りの剣だ。


 口々に言葉を伝えて来る姿に茫然とし、次いでシャリは呼び声の主が魔女ではなかった事に、内心落胆する。



 しかしそれは口に出さず、まず訂正を入れた。


「我が姫? ……私、姫ではありません。魔女です」


 そんな自分の返事を聞いて、ゴトルーがひくっと苛立ったのをシャリは感じる。


「我が姫? この剣がそう言っているのですか……」


 こんなに興奮状態の大音量だというのに、どうやらシャリ以外にこの声は聞こえていないらしい。



『魔女ですとっ? それは正に我の為の姫という事でありましょう。魔剣が愛する女、あぁ、やはり貴女は我が姫に間違いないっ!』

『なんですとっ? では我の為の姫ではないのでありましょうなぁ。聖剣が愛する女、あぁ、我が姫はいずこに……っ?』


「魔剣に、聖、剣? 聖女なら、ニコ……」

「ま。待ってシャリちゃん! アタシは聖女なんかじゃ……っ」


 しかし急激に距離を詰めて来た聖剣を、ついつい反射でニコは手に取ってしまった。



『貴女が、我が姫。ニコ姫っっ』


 直に触れれば、シャリでなくとも剣の声が聞こえる様だ。


「嫌ぁ~!! 止めて!! アタシは何にも聞こえてないから! アンタなんかいらないからねっ。聖女様は神殿にお籠り下さいとか言われて、シャリちゃんと引き離される事になったら冗談じゃないっっ!」


『ニコ姫……』



『おお、我が姫はシャリ姫と仰るのですねっ。さあ、我が姫。我も貴女の手に』


 魔剣も更にずずいと近付いて来たが、シャリは首を横に振る。


「……姫ではないです。それに私も、剣は使えないので必要ありません」

『シャリ姫……』


 ニコとシャリから拒否され、聖剣と魔剣は悲しげだ。



「あぁ、でも。ゴトルーは剣、欲しい?」


 そういえば前に、剣がすぐ刃毀れして困ると言っていた。

 魔剣というからには丈夫だろうし、どうだろうとシャリは思い付く。


『い、いや我が姫。我は姫に……』


「……シャリがそう仰るなら、ありがたく拝領いたしましょうか」

『こら! 貴様! 何をする。我が姫以外が、我に触るな!!』


 魔剣はゴトルーから離れようとしている様だが、なかなか抜け出せずにいる。


「私のシャリを我が姫だと? これ以上、シャリには近付けさせん」


『我の姫で、貴様のではないわっ。貴様こそなんだというのだ、我が姫に馴れ馴れしい!』

「夫だ。こんな剣ごときにシャリの心が煩わされていたとは……全く、腹立たしい」


 険悪な雰囲気を無視して、シャリは嬉しそうに言った。


「やっぱりゴトルーの手にあった方が、絶対に映える」


『むっ? 真ですか、我が姫よ?』

「はい。ますます輝いて見えます」


『ふむ、仕方ない。我が姫がそう仰せなら、我を貴様の手に預けるとするか』



 それを見たニコがニヤリと笑い。


「私も聖剣はパスね、……ビスにっ!」

「なっ! 俺もいらん! 自分がいらんからといって、人に押し付けるな!」


「聖剣なのよ! 聖女は神殿に籠らされるけど、聖騎士はそんな事ないでしょ! ほら、ビスっ、男らしくさっさと受け取って!」

「……聖騎士、か」


 その言葉にビスは心惹かれるものがあったらしい。

 嫌々な風を装ってはいたが、結局柄に手を伸ばした。


『ニコ姫! いかがですか、我が姫よっ? 我もこやつめの手にあると輝いておりますかっ?』

「う、まだ声が……じゃなくてっ。うん、いい! とってもいい! すっごくキラキラしてる~っっ」


「……。……よく言うな、ニコ」


 こうしてゴトルーは魔剣の、ビスは聖剣の使い手となったのだった。




「これで呼び声探索はせずに済みましたが、私は少々王都へ行ってきます。この剣共の存在が国に後から露見でもして、剣の力で謀反を企てているのでは等と、痛くもない腹を探られるのはごめんですから」


 ゴトルーが懸念するのは当然だ。

 二振りの剣を報告しなかったら、わざと隠していたのではないかと国は疑って来るに違いない。


 そしてシャリがショウプにいなければ、剣達はこの地に飛んで来る事はなかっただろう。

 その責任は取らなくてはいけない。


「それなら私も……」



 しかしゴトルーは首を横に振った。


「魔剣はいくらでも没収されて構いませんが、一緒に行ったが最後貴女ごと国へ寄越せ返せと言われたら敵いません。貴女はニコとここに残って下さい、この家に」

「……」


『何だと、貴様……! しかし無駄だぞ! 我は我が姫の気配を完全に覚えたからなっ。例え貴様がどんなに我と姫を引き離そうとも、すぐに飛び戻ってやるわっ』


「ほぅ? その察知力は使えるな。……だそうなので、こっそり付いて来るのもなしですよ、シャリ」


「……」

 魔剣が覚えた気配は元の姿の自分のはずだ。


 だから変化すれば、もしかしたら気付かれないかも知れない……と思ったが、王都へ着くまでに変化が解けない自信はなかったし、ここまでゴトルーが警戒しているのに、それを推してまで行く気にシャリはなれなかった。


「……魔剣様、聖剣様も。申し訳ありませんが、ゴトルーと行って頂けませんか? そして一緒に帰って来て下さい。お願いします」


 一報だけは王宮に先行させ、ゴトルーとビスはそれぞれ剣を下げ、王都へと出発した。




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