小話その一
王都の屋敷にいた頃、魔女らしい言動をっと意気込んで見せたシャリだったが、ショウプに来た今でもその気持ちは変わっていない。
計画その一、ホウキに乗って空を飛ぶ!
「……っ」「……何で?」「…………」
残念ながら、シャリは飛ぶ=鳥の姿に変化する、と体内に組み込まれているらしい。
鳥になってしまうたび、元の姿に戻っては服を着直し……を何度も繰り返して頑張ってみたが、ついに成功しなかった。
計画その二、火の周りで怪しい踊りを踊る!
計画その一の様に比較的親しみやすそうな魔女を目指したのが、そもそもの間違いだったのだ。
夕暮れ時、刈った下草等を燃やしている焚き火を発見したシャリは大急ぎで駆け寄った。
その周りで、目論見通りにぐるぐる回って飛び跳ね、くねくねする……注・猫の姿で。
「楽しそうですねぇ、シャリ様っ」
「私らも混ざろう交ざろうっっ」
わ~い!!
どこからか楽器まで持ち出して、踊るわ歌うわ。
ついでに晩御飯まで持ち寄って、と。
なぜか周囲はお祭り騒ぎになってしまった。
ちなみに唖然とするシャリの側には、いつの間にやら現れたニコが手をうずうずとさせており、むしろ恐怖を味わう結果になった。
計画その三、何か煮込みつつヒヒヒと笑う!
シャリとて別に王宮での様に、嫌悪されたいわけではない。
しかしっ!
このままでは何か悔しい。
どうにも納得がいかず、魔女の沽券に関わる気がして仕方ない。
その日シャリは頑張って、多種多様な物を狩ったり採ったりした。
そして台所の片隅を借りて、お湯が煮立った鍋に全てを放り込み、おもむろにかき混ぜる。
もちろん笑みを作るのを忘れずに。
台所の主であるサッドを始め、鍋の中を覗いて来た面々の反応に気を良くしていたシャリだったが……。
「いないと思ったら、こんな所に……どれどれ?」
横から伸びて来たスプーンが煮汁と具を掬っていき、それがゴトルーの口の中へ……。
もぐもぐ、ごっくん。
食中毒による下痢や嘔吐、最悪を想像し、固唾を飲んで見守られているゴトルーに、とうとうシャリは文句を言った。
「どうしてゴトルーはそんなに警戒なしに食べるの?」
「シャリが楽しそうだったので。いけませんでしたか? それに私が貴女の手料理を一番に食べたかった」
「……ゴトルーの馬鹿っ」
そんな下らない理由で、またも計画頓挫……拗ねたシャリは鳥になって窓から飛び出した。
見た目はどうであれ、ちゃんと? シャリが勘で毒のない物を選んでいた為、倒れなかったゴトルーを見て、その鍋をサッドが改良し、ショウプの新たな珍味になったのだった。
もちろんシャリはちゃんと家へ帰って来て、計画の続行を密かに誓った。