正体
結局また、シャリはニコとビスの話をゴトルーに聞いてもらっていた。
「監視者とは、ビスは上手い位置を持って来ましたね。それに……これは内密ですが、私は王への謁見の際に見回りルートも記したターブ地方の地図を献上しました。それが本当か確認する者を国としては遣わさねばならない。
ビスは四男ですが、代々国王から信頼が厚く、覚えも目出度い家柄ですので。彼の希望はそのまま通るでしょう」
今のシャリはというと、ゴトルーの膝の上で横座りをしている。
手櫛で髪を梳かれるのが心地好くて、上体もゴトルーに預け切っていた。
「……内密なのに、聞いてしまった」
「シャリもカジュ家の一員でしょう。問題ありません。……さて、ニコはどう希望を通して来るでしょうね。私としてはビスが貴女に付くというなら、彼女も一緒の方が嬉しいですが」
シャリが首を傾げると、ゴトルーが言う。
「私が側にいられないのに、貴女とビスは部屋で二人きりなど許せませんからね」
ついこの間、ユイナとホルマからゴトルーにも独占欲や嫉妬心があると教えてもらったばかりだったので、シャリは思い出し笑いを浮かべた。
「シャリ、上を向いて……顔を見せて下さい。あぁ、やっぱり笑ってましたね。こんな私が可笑しいですか?」
「ゴトルー、大好き」
ゴトルーの顔が近付いて来て、一頻りキスを注がれる。
「貴女に誑かされる自分を私は良しとしてますけどね。 そんな理由ですが、とりあえず誰かからニコの処遇に対する意見を求められた場合は推します」
「でも、ゴトルー。私に騎士は必要ない。それにニコとビスに、私が魔女だって明かさないと」
ニコが可愛いと表し、ビスがどうやら心配しているのは、あくまでも使い魔なのだ。
その使い魔が魔女本人でも気持ちを変えないでいてくれるか、シャリにはその自信がない。
「無理に主従関係を作ろうとしなくても良いと思いますよ。なんなら私が勝手に扱き使いますし。シャリが構わなければですが、これ以上あの二人が話を進め様とする前に、正体を明かしてみますか?」
派遣先が決まってしまえば、もうやっぱり辞退したいとは言えないだろう。
ただの勘で、楽観的観測かも知れないが、ニコとビスは魔女と使い魔が同体でも、カジュ家に迷惑が掛かる様に騒ぎ立てはしないとシャリは思う。
たぶんゴトルーも同じ様に考えているからこそ、そう尋ねてくれたのだろう。
正体を明かすなら、早く済ませてしまいたかった。
意を決して頷こうとしたシャリに、ゴトルーが意外な言葉を付け加える。
「もしかしたらもう、その必要がなくなっている気もしますが」
「……えっ?」
「ですが今の姿は噂を聞いての想像しか出来ていないでしょうし……」
そこでゴトルーは一度言葉を切った。
更に全身から物騒な気配が伝わって来て、今の会話でゴトルーが怒る様な事があっただろうかと、シャリは考えてしまう。
「……私もシャリに対するあの二人の反応が見たいので、これ以上話が進んでしまう前に明かしてみましょうか?」
早く明かす自体には何の反論もないので、ゴトルーの様子を怪訝に思いつつシャリは頷いた。
結果、ニコとビスが元の姿のシャリと対面した時、「あぁ、やっぱり」の気持ちだったらしい。
鳥か、猫か、それとも大きな化け物なのか……どれが本当の姿なのか……いやもしかするとそれ以外なのか?
魔女に対抗する気はなさそうなのに、逆に従っている感じでもない。
魔女を悪く言っても怒らず、庇う風もなく、苦笑いか居心地悪そうにしているのはなぜ?
何だかまるで自分が言われているかの様に……等々、二人とも思っていたのだ。
ただニコもビスもシャリを挟んでいる時にしか会話をしておらず、相手が本当に信じられる人物なのか確信が持てなかったのだそうだ。
だから意見交換もする事がなく、お互いにこいつの前でシャリに正体を明かさせるのは止めておいた方がいいだろうと、これまで面と向かって「魔女本人?」とは聞けずにいたという事だった。
ゴトルーはビスが横恋慕して来ないかどうかが一番心配でした。