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魔女のご主人様  作者: きいまき
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カジュ家の三人

 午前中はニコとビスに挟まれる形で鍛錬を終えて、今度はカジュ家でユイナ・ホルマ・サッドからの話が待っていた。


 昼食を食べ、その後のお茶が運ばれて来て、一息つき。

 まずユイナが話し始める。


「シャリ様は、ゴトルー様がお好きなのですよね?」


 唐突な質問に、それでももちろんと頷いたものの何だろう?

 今更やはり魔女では困るという話ではなさそうなのだが……。


「……もう嫁がれて来られた日の様に、出て行かれ様とはなされませんよね?」


 それにも頷く。


 ニコとビスからのものとは違い、是か否かで答えられる質問は簡単でいいと思う。

 するとユイナはにっこりと笑ってくれた。



「良かったですわ、それを聞いて置かなくては安心して謝れませんもの。もうシャリ様も分かっていらっしゃると思いますが、ゴトルー様は何があってもわたくし共を鞭で打つ様な方ではありません。あの時、嘘をついて申し訳ありませんでした」


 ユイナに続いて、ホルマも頭を下げて来る。


「確か自分がそう言い出したんですよね、すみませんでした」


 そういえば嫁いで来た日、そんな風に引き留められたのだと思い出す。


 確かにゴトルーは見た目通りに怖い面がある人間に違いないのだが、ユイナやホルマに体罰を与える事はないだろうとシャリは思う。



 だからユイナとの約束はちゃっかり覚えていたが、体罰云々の方は忘れていた。

 謝られて、結局午前中の様に困ってしまう。


 だが今はこうして元の姿で喋れるのだし、この際シャリも今まで言えていなかった事をちゃんと伝えて置こうと思った。


「魔女なんかを、そこまでして引き留めてくれて……ありがとう」


 もしユイナやホルマが反対していたなら、ゴトルーも無理に黒を家に入れようとはしなかったはずなので、お礼を言う。



「……。……ゴトルー様には内緒ですけれど。わたくし、シャリ様はやはり少し人とは違うと感じる時があるのです。不思議な力の事以上に、その御心がとても無垢で清らかに見えて。魔女というより、聖女の様だと」


「……聖……女……」

 魔女としては拒絶反応を示すべき言葉だと、シャリは凍り付く。


 それに気付いている様なのに、ユイナはここぞとばかり続けて来た。


「これまでとてもお辛い目に合われていたはずですのに、歪まれていなくて。悲しい環境でお育ちになったのに、どうしてシャリ様の様な心根を保っていられるのか……わたくしにはその方が不思議ですわ」


 ゴトルーとビスから続けて好戦的と称されてしまったし、ユイナが言っている様な事はないと思うのだが……そう見えてしまっているなら。


「……もっと魔女らしい言動がとれる様に、頑張るっ」

 と、シャリは意気込んで見せた。



「まぁっ」

 しかしユイナはまるで怖がる様子もなく、むしろ楽しそうな声音を上げる。


「でも、そうですわね。ゴトルー様がお変りになられたのですから、シャリ様だって悪女になれるかも知れませんわね」


 魔女の前に、悪女? 悪女って、具体的にはどんな風にすれば?

 と聞いてみたい気持ちもあったが、ゴトルーの事の方に興味がある。



「ゴトルー、変わった?」


「ええ、それはもう。ゴトルー様が猫の姿のシャリ様を連れてお帰りになった時も驚きましたが、ここ最近のご様子といったら……うふふ」


 その言葉にホルマも賛同した。


「自分は旦那様と幼馴染ですが、少なくとも小動物を可愛がろうとする様な奴ではありませんでしたし、ターブ一帯の事は考えても、それ以外に対する独占欲なんてこれっぽっちも持たない奴だったんです。

 それがシャリ様に頬は緩む、自分達に嫉妬はする。ユイナさんはシャリ様と何を約束したんだって、睨まれてましたしねぇ」



「睨まれたといえば、シャリ様が敬称を取って欲しいとわたくし達に願われた時も。頷いたら、それこそどうなるか分からない様な鋭さで……うふふふふ。それにゴトルー様はあんな風にお話になる方ではありませんでしたのよ」


「そうそう。あの外見でそれを苦にもせずやってる調子がまた、涙ぐましいというか。とにかくシャリ様に好かれようと自動的になっちゃってる旦那様が、もう自分的には笑えますけど」



「一度シャリ様をお返ししてしまった時のゴトルー様といったら……。ですからもう一度シャリ様を王宮から拉致して、ショウプの家まで攫いたいと相談された時は……やはり、と思いましたの。そう仰るに違いないと思っていたとっ」


「ホント……それでこそ、旦那様! でしたよっ。このままシャリ様を捨てて帰ったら、もう旦那様とは呼んでやらねぇと内心思ってましたからね。

 あ~しかしそうなったらそうなったで、ゴトルーの奴は余計に喜びそうだなぁ。結果的には行動に移す前に、望んでいた通りに落ち着いたわけですが」



 そこまで黙っていたサッドがむっつりと口を挟む。


「全く儂の料理には相変わらず表情一つ変え様とせんのに、けしからん」


「まだそれを言っていたの、サッドは。あれはもう仕方ないわよ」

「逆にどんなに不味くても、食えれば何でもと表情を変えない奴です」


「ふんっ。いや、儂は諦めんぞ」



 カジュ家の面々の新たな一面を見せてもらった気がした。


 小さい頃から、そして小競り合いの最中にも側にいたのだろう三人にとっても、ゴトルーは決して怖がるだけの対象ではなく、むしろ好かれているのだと分かってシャリは嬉しくなる。


 そしてきっとそんな外見通りの言動しかして来なかったゴトルーが始めて連れて帰って来た猫だったから、黒でもシャリはカジュ家に受け入れられたのだろう。



 しかも当然の様に、サッドの矛先はシャリへと向けられて来た。


「シャリ様にも。これからまだまだ、美味しい物を知ってもらいますからなっ」


 そうか、まだまだなのか……楽しみの様な、お手柔らかにと言って置くべきなのか。

 何だか考えるだけで、お腹がいっぱいになりそうだった。



二章続けて、和気あいあい。

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