小説 原子爆弾
原子爆弾
目覚ましがヂリヂリ鳴って、私は目を覚ます。目覚ましを布団の中に引きずり込んで、ボタンを押して、安眠。
起きた。なんだか寝足りない。多分原因はこれ。
あーあ、とあくびをする。いつの間にか開いた携帯電話。表示されているのは、一通のメール。一昨日から朝一番に開くのが日課になっている。……もう昼だけど。それに、朝だけじゃない。昼も、夜も、ふと気になれば開いてみてしまう。開くとさわさわとした気分が、……ああいけない、いけない。そんなんじゃいけない。もっとしゃきっとせねば。ちなみによくその前後のメールをえっちらおっちら見直していたりもする。
目をこすりながら、下へ降りて、リビングのソファに寝っ転ぶ。部屋が暑い。クーラーをつけ、壁の時計を見あげると十一時。まだ明日まで十三時間もあるじゃねえか、このー。朝までさらに七時間もあるじゃんか。死ぬわー。いっそ、時間が縮めばいいのに。五分くらいに。嘘、それじゃ短すぎ。せめて一時間、いや二時間。
でも本当にどうしようか。
Wiiは昨日やって、腕が痛いし。テレビなにかやってないかなー。あ、ブログみよう。携帯を開いて、ブログを読む。だいたい大した日記はないけれど、私は感心しながら読んで、ほう、と息をついて、携帯を投げ出した。そこで、あ、と気が付いて、大したことない○ちゃんのブログの記事を探して読んでみたけれど、参考になるものはなかった。
はあー、とため息をついて、メールをしたためる。××へ送る。一昨日から頻繁に送っている。一昨日は夜遅くでもすぐ返してくれたけど、昨日はぼちぼちで、無視されることもあった。だからこその親友。今日もいろいろ送ってやるぜと決意する。
下らないメールを送ると、意外と早く帰ってきた。服装は何がいいかと聞いてみると、返信が来なくなった。仕方ないから、髪型は何がいいと思う? ピンだけにしようか、しばっていこうか聞いてみる。返信は来ない。
今日の昼は一人なので自分でご飯を作る。と思っていたら、台所にチャーハンがあった。ウインナーと卵焼きとレタスの盛ってあるお皿もある。テーブルに持って行って、麦茶を冷蔵庫から取ってきて、いただきます。そこで携帯が着信音を鳴らした。見てみると、
「本命でもないのに、一昨日からすさまじい頑張りようね」
ぐは。なんか突かれた。いい返信が思い浮かんだ。
「だからこそ、気合が入ってないように見せるために、気合を入れてるの!」
これでどうだ、××。しばらくして着信。
「そう。なら寝起きの髪に、化粧をしないで、顔を洗って、一番上にある服を取ればいいんじゃない?」
ひどい! 中学からの彼氏持ちは私の気持ちなんて分かってくれないんだ。
でも、一昨日からしつこくメールしてるのは、自分でも分かってる。仕方ない。後でまたメールしよう。
タモリさんがテレビで笑っている。いいともは興味がない。面白いけど、キムタクは年がいってしまってる。私は魅力があまり感じられない。
することもないから、wiiをつけて、マリオカートをする。総合三位だった。CPが強い。もう一戦を挑んでいると、二時になったのでやめてドラマをつける。
相棒。右京さんが渋い。眼鏡が印象的で、頭が良く器用な所がいい。でも、亀山さんのほうが目につく。
終りまで見て、メールを何の気なしに開いて、眠いから、薄い掛け布団を取ってきて、もぐって寝た。
弟が帰ってきて、友達を連れてきたようだ。億劫だけど、仕方ないから布団を体に巻きつけて、二階へ行く。階段で布団を捨てる。ベッドで寝た。
お母さんに起こされた時、六時だった。ご飯らしい。下へ降りて行って、テーブルについて、食べる。バンバンジーだった。そんなに好きじゃない。
食べ終わって、しばらくテレビを見て部屋に引っ込む。机についてみたけど、特にすることもない。宿題しようかな……。すぐにやめた。明後日からにしよう。それにした。
あ、八時。
何もやってない! 落ちつこうとしすぎた!
とりあえずヘルプのメール。
「今から何すればいいと思う?」
××に頼る。早い着信。
「勉強すれば?」
違うし!
「明日の準備!」
着信。
「つ落ちついた精神」
いつも思うけど、その『つ』って何?
「持ち物とか、なにかあるでしょ!」
着信。
「(避妊具の名前)」
ひどい! ××、親友じゃないのかも! 黒い冗談が過ぎるよ!
ふてくされて、お風呂へ向かう。携帯電話も持ってった。
湯船に浸かっていると、着信。
「とりあえず明日の服装を決めて、準備しておいて、財布と携帯と、化粧直しできるものを準備しておけばいいと思うけど。あと(避妊具の名前)」
××、やっぱり優しいなあ。
「ありがとう。最後のはいらないけど」
着信。
「そう?」
はてなもいらない。
「そうだよ!」
着信。
「そう」
お風呂からでて、髪を乾かして、肌の手入れをして、テレビをぼんやりと眺める。お父さんが帰ってきていた。しばらく家族団らん。しばらくして番組が終わったので、おやすみーと言って、部屋に行く。
寝よう、そう思った。昼寝をしたからすぐには寝られないだろうけれど、もしかしたら眠れるし。××におやすみのメールを打って、返信が来たのを確かめてから、ベッドに入る。でも、這い出て机の上の携帯電話のメールを開いて、時刻を確認する。緊張する。
再びベッドにもぐる。さわさわする。あれこれと頭の中でめぐる。あー、もう。姿勢を変えたり、じっとしてみたり、せめて、一時間は寝ようとしてみよ。
十一時。やっぱり眠れない。××に電話をしてみた。
「もしもし」
「あ、起きてた?」
「宿題やってたけど」
「私はすぐやめたよ」
「そう」
「今日何してた? 私は十一時に起きてね――」
たわいもない会話を始める。愚痴を始めると、××が言う。
「一昨日から聞いてるわ、その愚痴」
「そう? でも前日には前日の愚痴がある」
「はいはい」
いろいろ愚痴って、××は聞いてくれた。
調子に乗って唐突に私は照れながら訊ねる。
「アレって、どんな感じ?」
「は? 何が?」
「だから、アレ」
「何突然言ってるの? あんた馬鹿じゃない?」
「えっ。馬鹿じゃないよ」
「そんなこと聞くなんて馬鹿よ」
「え~。でも気になるんだもん。雰囲気とか、どんな感じだったとか」
「初デートでするの?」
声がつめたい。きっといつものジト目だ。眉間のしわが思い浮かぶ。
「し、しないけど」
「だろうね」
「えー、でも教えてよ。それくらい」
「なんで教えなきゃいけないのよ」
「いいじゃん。デートの参考になるかもしれないじゃん」
「……」
「いつしたの? 最近?」
「……。最近じゃないけど」
「!? じゃあ中学?」
「別に中学じゃないし」
「じゃあ高校?」
「高校でもないよ」
「ふーん。じゃあまだなんだ?」
「……」
「以外~」
「以外って何よ!?」
「えー。だってもうしたのかと思ってた」
「あんたねぇ~。……っじゃあ。明日にでもあんたはすればいいんじゃないっ? お休み!」
「あっ。待って――」
電話が切れた。
後で、がんばれのメールがきた。
朝、目覚ましより少し早く目を覚ます。顔を洗いに階段を下りて、顔を洗いに行く。お父さんとお母さんが、リビングにいた。弟はもう部活に行ったみたいだ。
「今日は早いな」
お父さんが私に言う。
「まあね。今から出かけるから」
「どこに?」
「××と遊びに行く」
「ふーん」
私は顔を洗う前に、パンと牛乳で朝ごはんを取って、顔を洗って、自分の部屋に戻った。
頭が冴えてきたら、急に緊張してきた。服をせっせと着て、薄く化粧して、髪型を整えて、ヘアピンで留めた。「「描写が手抜き」」これでよし、と思ったけど、あっけなくて心配になってきたから、他の気にかかっていたピンやゴムを試したりして、鏡とにらみ合った。
今日は八月X日。
日にちの候補が思い浮かばなかった人は、要注意です。
調べて、知っておきましょう。