完璧な鏡
日常生活のすぐ隣に潜む、不気味な違和感。洗面所の鏡に映る「自分」と目が合ったとき、あなたはその姿が本当に自分自身だと断言できますか?
わずか数分で読める、日常が崩れ去る恐怖をお楽しみください。
朝、洗面所の鏡に向かった時、違和感を覚えた。
自分のまばたきに対して、鏡の中の映像がほんのひとコマ、ほんの1秒だけ遅れてまばたきをしたのだ。
気のせいだと思おうとした。寝ぼけているだけだと。
しかし、じっと見つめ返していると、鏡の中の自分がすっと口角を上げた。
こちらが表情を変えていないにもかかわらず、だ。
鏡の中の「私」は、静かに言った。
「やっと気づいた?……じゃあ、交代ね」
直後、激しいめまいに襲われた。視界がグニャリと歪み、次の瞬間、鼻腔を突いたのは冷たく湿ったガラスの匂いだった。
手伸ばそうとするが、硬い透明な壁に遮られる。
壁の向こう側では、さっきまで鏡の中にいたはずの男が、私の身体を使って満足そうに身なりを整えていた。
彼は振り返りもせず、洗面所のドアを開けて出ていく。
取り残された私は、次に誰かが洗面所へやって来るのを、ただじっと待つことしかできなかった。
【了】
いかがでしたでしょうか?
毎朝当たり前のように見ている鏡の向こう側。もしもあちら側が本物で、私たちが偽物だとしたら……。次に洗面所に立つときは、どうかお気をつけて。
お読みいただき、ありがとうございました!




