23
連日遊び呆けたことの代償。
その一つ目はお金の問題である。
「最近買い物しすぎて金欠気味なんだよね……。これまで結構貯金してたんだけどな。美月はどう? お小遣いとか、どれぐらい貰ってるの?」
「一万」
「いっ!?……えっ!? 一万? 一万円?」
「うん」
「年間で?」
「いや、毎月」
「一万!?」
「だからそうだって」
何がおかしいのか分からないという風に美月はコテンと首を傾げた。
「私は、二千円……。一万円は相当多いよ。ちょっと聞いたことない」
「へぇ……。べつにほとんど使ってこなかったから、いっぱい余ってるけどな」
「余ってるって……」
そう言えば、美月のお父さんは育児放棄気味だという話だったが……。
「せめてお小遣いだけでも多く与えて、罪滅ぼしか何かのつもりなんじゃねーの?」
私の思考を読んだように、他人事みたいな口調で説明してくれた。
「お前のところは、親もしっかりしてそうだな」
「ああ、うん。まあ、そうだね」
「……なんか、言ってないか? あたしと一緒にいること……」
自信なさげに語尾がすぼんでいく。
「いや、とくに。友達と遊ぶとは言ってるけど、それ以上のことは説明してないから」
これが二つ目の問題だった。
美月と親しくしているという事実が、私に対する世間のイメージにどんな影響を与え得るか。クラスメイトや部員たちの反応で、それを身をもって知った私には、彼女との仲を親に話すことも躊躇われてしまった。
しかし嘘もつけないので、誰と特定せずにただ『友達』と遊びに行くとだけ伝えていた。幸い今のところ追及を受けてはいないが、何かいけないことでもしているかのような罪悪感は拭えなかった。
それにしても今の発言を聞く限り、美月もその点を心配していたようで、少し驚いた。
「あ、でも、クッキーの時は美月のこと、ちょっとだけ話したよ」
「……話したって、どんな風に」
「んーとね、学校に来てない子、って言ったかな」
「おいおい」
「それは事実でしょ。悪いようには言ってないから安心してよ。あ、クッキーは美味しいって言ってたよ。お店で売ってるのみたいだねって」
「へへ、お前とおんなじこと言ってるな」
照れたように笑う美月の頬が、赤ちゃんみたいにくしゃっとなった。
同時に、あの時のタッパーをまだ返していないことを思い出す。
「美月。明日、お家行っても良い? また美月のお菓子が食べたい」
「ん、うん。良いけど……材料ない」
「今から一緒に買いに行こうよ」
トントン拍子に話は進み、二人で近所のスーパーへと向かったが、そこで第三の問題が表面化した。
今回はタルトケーキを作ってくれると言うので、バターや卵やアーモンドプードルを探して店内を歩き回っていると、クラスの友達である遥香ちゃんと偶然出会ったのだ。
「あ、小夜子ちゃん!」
「わー遥香ちゃん、久しぶり!」
再会による喜びを満面の笑みで表してくれた遥香ちゃんの顔は、その直後には引きつったような表情に変わってしまった。私の後ろから、美月が現れたのを見て。
「あ……」
小さな悲鳴と共に目を伏せてしまった。
そして美月の方も、一気に目を鋭く尖らせて、遥香ちゃんを睨み付ける。ほとんど一ヶ月ぶりに見る、よそ行きの目。
遥香ちゃんは何も言わずに、そのまま逃げるように去っていった。
残された美月の手には、苺にバナナにブルーベリー。私が好きだと言ったフルーツタルト用の具材が抱えられていたが、その手は小刻みに震えていた。
きっと、美月も怖いのだろう。私の友人たちが美月を怖がるのと同じように。
でも、それでも。
せめてあの睨み付けるような目付きだけでもやめてくれれば、どんなに印象が変わるだろうか。
美月と親しくするほどに、他の友達との距離が遠退いていく。夏休みに入ってから、美月以外とは誰とも遊んでいない。
去年の夏はどんな風に過ごしていただろうか。過去を探れば、そこには絵に描いたように健全な『優等生』の姿があった。毎日机に向かって勉強して、時々友達と遊びに行って、門限が定められているわけでもないのにきっかり五時に帰宅して、夜にはまた勉強する。
それが今年は、美月と遊び回ってばかりで勉強は疎かになっているし、他の友達とは疎遠になり、帰る時間も遅くなる日が多い。
周りは三年生になってから、これまでよりも真面目に勉強している人が多いというのに、私は……。
「小夜子」
人目をはばかるように抑えられた小さな声が、私の意識を静かに揺らした。
「レジ、行こう。買って、帰ろう」
美月の手はまだ震えていた。




