表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者協会 冒険録 初期版  作者: 青識
幼少期と訓練生時代

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/10

1-5 夢

冒険者になりたい


父にそう言おうと決めたのは、夕食の後だった。


食器を片付け、暖炉の火が少し小さくなった頃。

父はいつもの席で、地図の写しを見ていた。


「父さん」


声が、思ったよりも低く出た。


父は顔を上げる。

母も、手を止めた。


「……冒険者になりたい」


一瞬、

暖炉の火が爆ぜる音だけがした。


父はすぐには何も言わなかった。

驚いた様子も、怒った様子もない。

ただ、僕をじっと見ていた。


「どうして?」


短い問いだった。


僕は、考えてきた言葉を、そのまま出した。



「誰も言ったところのない場所を行ってみたい」


父の眉が、わずかに動いた。



「でも、帰れないなら意味がない」

「……僕は、地図の先を見たい。でも――」


そこで一度、息を吸った。


「帰れる線だけを、引きたい」


母が、静かに息を吐いた。


父は、しばらく黙ってから、

地図を畳んだ。


「危ないぞ」


それは反対ではなかった。

事実だった。


「それでも、行くか」


僕は、うなずいた。


父は立ち上がり、

棚の奥から一枚の古い紙を出した。


それは、

途中で線が止まった地図だった。


「あの日、引き返した場所だ」


父はそれを、僕の前に置いた。


「ここから先は、白いままだ」

「お前が行くなら――」


一度、母の方を見る。


母は、静かにうなずいた。


「行くなら、覚えておけ」


「英雄になるな」


「帰る人間になれ」


それが、許可だった。


それからの日々は、

静かに、確実に変わった。


朝は早くなり、

走り、木剣を振り、

地図を書き写した。


父は剣を教えなかった。

代わりに、歩き方と戻り方を教えた。


「疲れた時に進むな」

「迷った時は、必ず戻れ」


母は、荷の組み方を教えた。


「軽さより、確実さよ」


「最後まで残すのは、水」


「長剣は取り回しが悪いから冒険者は短剣を使う人が多い」


訓練所へと向かう日父は何も言わず、僕の肩を叩いた。


母は、いつものように笑った。


「帰ってきなさい」


訓練所の門は、

思っていたよりも大きかった。


鎧の音。

緊張した顔。

期待と不安が入り混じった空気。


入学式の日、

整列した僕たちの前で、教官が言った。


「ここに立っているのは、選ばれた者ではない」


ざわめきが起きる。


「生きて戻る覚悟をした者だ」


その言葉を聞いた瞬間、

僕は、父の地図を思い出した。


その父の地図を胸に僕は一歩を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ