第93話 フランからの呼び出し
慣れない操船で苦労している騎士たちにとっては、訓練のようではあるが、ノロノロと船団に見つからないよう距離を取りながらこちらに向かってくる船団に付いていった。
それから、本当に暇な時間を潰さなければならなかった。
騎士たちは、操船にかかりきりで余裕など無いようなので暇そうでは無いが、俺は別だ。
とにかく何もすることがない。
いや、探せばいくらでもあるが、今のところここで急いでするようなものはないはずだ。
なので、俺はただただ船団の様子をドローンから送られてくる映像で眺めていた。
船団は2時間かけて浜のある湾のそばに停泊し、一隻だけが湾内に入っていった。
俺は何度も無線でフランに連絡を取りながら船団を監視するためにドローンを飛ばしているが、とにかく時間がかかるので、途中で別のドローンと入れ替えたりなどしながら時間を潰していった。
湾内に入っていった一艘の帆船は湾中央付近で停泊して錨を下ろし、ボートで浜に近づいていく。
その様子は、ドローン映像などを通して俺達にも見えているが、湾中央からボートを下ろして浜まで行くのにも時間を要し、結局船の発見から5時間かけて浜にいるフランたちと合流できた。
時間にして現在が午後の三時だ。
俺達は途中で昼食を摂ったから良いようなものの、浜にいる連中は無事に食事を摂れたのだろうか、少し心配になる。
「守様。
昼に食事を摂る習慣は少なくとも我々にはなかったので、問題はないでしょう」
俺の心配をケリーが見抜いたのか、俺に教えてくれた。
「ありがとう、ケリー。
だが、これから会談するとしても大して時間は取れないだろう。
日没まで後三時間しか無いし、彼らも日没までに一度は船に戻るだろうしな。
話し合うとしてもせいぜい2時間程度か。
フランはなにか言ってきたか」
「はい、守様。
すぐに、相手の敵対意思の確認をされたようで、我々には警戒解除の要請がありました」
「判った、ありがとう」
とりあえず、無事にフランは実家からの使者と邂逅はできたようだ。
相手が誰かは知らないが、フランたちを引き取りにでも来たのだろう。
……あ、俺達の存在を知っているのならば祖国開放に協力の要請もあるか。
そのあたりは、フランの判断に任せるが、俺としては武力介入だけは避けたい。
この船の実力を正確に知れてしまえば、下手をすると魔王認定されなくもない。
何せ遠くから簡単に城くらい破壊できるのだからな。
エルフや獣人のいるファンタジー世界ならば魔王くらい居ても不思議がない。
その魔王に間違われるだけは避けないと、あのカミサマに何と言われるか知れたものでもない。
そういえば帝国だっけか、その国を興したのは魔王討伐した勇者だった。
なら、魔王復活なんてことにならないように、こちらの行動だけは十分に注意しないとまずい。
カミサマからの依頼は、とにかく平和と文化だったかな。
話が長くて要領を得ないからよくわからなかったが、そんなことを言われたような気がする。
まあ、間違えてもそのうち夢に出て嫌味の一つも言ってこよう。
今のところ何も言ってこないので、このままの方針でいくつもりだ。
幸い、フランも祖国開放にはそれほど興味も無さそうだしな。
「ケリー。
フランからは警戒解除の要請を受けたのだよな」
「はい、先程かっきりとそのように申されました」
「なら、俺達の警戒は必要がなくなったというわけだから、俺達も浜に戻るとしよう」
「あの浜で無い方ですよね」
ああ、またここでもややこしい会話になってしまった。
本当に急ぎ名前の件を皆で検討しないといけないな。
「ああ、そうだ。
いつも停泊しているフェリーの隣にな」
「判りました」
ケリーは返事後とすぐに部下たちに何かを命じて、すぐに船は動いた。
今までイライラするくらいの低速だったのが嘘のように巡航速度だが、やたらと早く感じるくらいの速度で浜に帰っていった。
時間にして30分とかからない。
そのうち湾内に入ってからの時間が20分だから、あの浜からは沖に停泊している帆船までは10分あれば船で行けるというわけだ。
あ、それならばここでの待機でも良かったかな。
今更だが、この船とこの世界の常識とでの時間の感覚の違いに驚かされる。
風まかせの帆船ならば、風が吹かないとどれほど時間がかかるか知れたものでもない。
そういう意味でも、動力船はそれだけでもチートだな。
俺は、巡視艇から降りても、浜には立ち寄らずにフェリーに向かいそこでフランからの連絡を待つことにした。
俺達が戻ってきてから1時間ほどした後、一人の兵士が俺の元を尋ねてきたようだ。
断定的な表現でないのは、その兵士にはこのフェリーに乗船する資格を与えていないので。浜から小舟でフェリーに近づいてから大声で俺のことを呼んでいると、先程連絡を受けたばかりだ。
俺はその彼をフェリーに乗船させて、デッキで報告を受けることにした。
「守様。
フラン様、ダーナ様からの伝言です。
『至急こちらに来て頂けないでしょうか』と」
え?
それなら無線で呼び出せば良いだろうが……
俺はそう思いながらもケリーともう一人の騎士を護衛として浜に向かった。
浜ではダーナの部下で兵士たちが隊列を作って俺達を待っていた。
彼らが俺の護衛として浜に連れて行ってくれるそうだ。
俺は、この状態に困惑していると、ケリーは既に状況を悟ったようで俺に小声で教えてくれた。
「守様。
これはフラン様かケリー様が、守様を相手にご紹介したいのでしょうね」
「紹介??」
「ええ、ですが権威をもたせませんと相手の足元を見られませんので、相手の前で俺に伝言を出したのでしょう。
多分、お二人共無線機には近づけていないのでしょう」
「どういう事?」
「フラン様にかなり近い方が浜に来られたのでしょうね。
ですからアテンドからいっときでも離れることが難しいので、それならばと形式を整えてきたのと愚考します」
愚考って、そこまで俺に敬語を使ってこなかったじゃないか。
今更なんだが、ケリーも形式に合わせてことば遣いを変えたようだ。
しかし、面倒だな。
まあ、俺は俺を迎えに来た兵士に囲まれて歩いて向こうの浜に向かった。
もういい加減本当に不便だ。




