第47話 遭難者を囲んで
俺は先ほど退治したシーサーペントの肉を使い、浜で助けた人たちをもてなすことにした。
流石にいきなり200名近く船に乗っていたこともあり、いっぺんに料理ができる場所などない。
騎士たちや船乗りたちに協力してもらい、島に転がる石を使い簡単なコンロを作る。
後は固形燃料や、炭、それに島に生えている木々を俺の船から持ち出した工具を使い用意していく。
夕方近くになっての準備だったが、それでも日が暮れる前にはBBQができそうなくらいまでには準備が整う。
後は大盤振舞とばかりに宴会が始まる。
幸いと言えばいいのか、助けた船に酒が積んであった。
久しぶりの酒にありつけたのだが、正直微妙だった。
俺は、フランやエルム、それに船長と、それに高貴な方として貴族夫人と一緒にワインをごちそうになったが、赤ワインだったけどあまり俺の口には合わなかった。
赤ワインは常温でというのが酒飲みの常識と以前聞いたことがあるが、それでも俺は冷えたワインの方が好きだったし、何より少し渋い。
酒飲みとしての経験値こそ低い俺でも、学生時代に学生寮で飲んだどの安ワインよりも俺には合わない。
まずいとは言わないが、それでも俺は遠慮しながら宴会を楽しんだ。
高貴な身分の方とそもそも話が合うはずが無いのだが、酒の話だけは文化が違えども通じる。
あまり政治向きな話を除くと、それくらいしか共通の話題が無く、主に俺が聞き役になるのだが聞いている。
「逃げ出すときに、このワインを積み込むことができたのは、良い話の無かった最近では一番の僥倖だったでしょう」
船長のお話では、頂いているこの赤ワインは相当高価な物らしく、植民地の交易向けに輸出を準備していたために慌てて逃げ出したのにもかかわらずかなりの量を積んでいた。
そのことを話している。
まあ、あまり共通の話題が無かったこともあるが、今後の心配もありどうしても祖国やこの後についての話になる。
フランから先ほど少し聞いたことだが、船は修理が済み次第、本来の目的地である植民地に向け出港したいと言っている。
この地から出て行く時に乗せている人たちをこの地で少し預かってほしいとも言われた。
言外に高貴な方々が定員をかなり超過していることで船内のあまりの狭さに閉口しているらしく、毎日のように文句を言われる。
貴族にしたら文句を言っているつもりも無いようなのだが、聞いている船長はたまらないそうだ。
あと数日で目的地に着けるようならばどうにか船長や船員たちも現状に耐え忍べるようなのだが、ここからでも、目的地までは風に恵まれても20日はかかるらしい。
なので、向かっている植民地についても身の振り方などが決まっていない者たちをここで預かれないだろうかとの提案だ。
別に俺は構わないのだが、フランはどう考えているのか分からない。
この件はフランに丸投げで話を終えた。
あ、フランが船長と交渉してくれたことで、船の修理中に船長室や海図室などの見学を許されている。
なので、明日海図室に伺い海図のコピーなどを頂くつもりだ。
実際には、カメラを使い撮影するだけなので大した時間もかからない。
「修理にどれくらいかかりますかね」
俺が何気なく聞くと、すぐに船長は答えてくれた。
「喫水線よりも下には被害が出ていないようでしたから、10日もあれば」
ほとんど衝撃で折れたマストの交換くらいらしいが、そのマストの交換が大変のようだ。
重いマストを立てるだけでも屈強な船乗り総出で扱っても危険な作業になるし、何よりあの重いマストを立てるだけでも大変なのに、きちんと所定の位置でなるとキャプスタインなどを使うなどしないとできないらしい。
しかし、普通マスト交換では2本以上のマストの船になると他のマストを使って上手にロープを操り行うらしいが、衝撃でマストがおられている以上、他のマストの点検から始めないとその方法が使えないらしい。
なので、明日一日を使って点検と準備に時間をかけることにしていると教えてくれた。
正直帆船なんか、それこそ学生時代にしか乗ったことが無いが、同じ船乗りとしては興味がある。
修理の方法もゆっくり見てみたいが、それだと時間もかかるが、何より危険だ。
なので、俺の方から協力を申し出た。
「明日の修理ですが、マストの交換について私の方で協力ができますが」
「協力ですか?」
そこからケリーの部下の騎士を入れて、クレーンの件を話した。
シーサーペントを倒した時にも使ったやつだ。
船長への説明がどうしてもそれだとわかりにくくなるので、実際に作業を見ていた騎士に説明させると割と簡単に理解してもらえた。
シーサーペントの肉を使って、運んでいたお酒も頂いての食事会は無事に終わった。
何より面倒な貴族の相手をフランが一手に引き受けて俺の方に来させなかったのが最大の功績だろう。
翌日は、朝から船長を訪ねて、この世界、フランの国で使っている実際の海図を全て見せてもらった。
当然、フランに同行してもらったのは言うまでもない。
国の姫様が同行しているのだから、下手な隠し事はされていない……そう思ているだけかもしれないが、今のところは実際に使用される海図を情報として得られただけで十分だ。
俺の作業を見ていたフランは『守様。それだけでいいのですか』なんて疑問に思われていたが、この場で説明するわけにもいかない。
海図をコピーされているなんて、船長が知ればどういう反応を示すかわからない。
この世界の住人ならば、見せるだけなら問題無いと思っている節もある。
海図の他には航海日誌も見せてもらった。
当然デジカメでのコピーは必須だ。
昼食後にマストの修理を始める。
準備が良いもので件の帆船には予備のマストって積んであった。
この世界の常識は理解できないが、ダメコン用の部材もある程度積んでいる。
全部木材なのだが、だからもしもの時の予備と言っても加工前で、まず船から降りして加工から始める、それも俺たちは手伝った。
始め船長は船を浜に乗りあげての修理を考えていたようだが、木材を降ろすのも海上でできると知ると、試しにやってみようとなり、俺は帆船に俺の船を横付けしてクレーンを使った。
クレーンから降ろされた木材は当然海上では浮くので、海に降ろす。
後は降ろした木材をボートを使い浜まで持っていく。
浜ではエンジン着き工具が待ち構えているので、船乗りの指示に従い騎士たちが加工していく。
本当に現代文明は偉大だ。
船長は、作業の進む時間の短さに驚いていた。
木材を降ろすだけでも一日を考えていたようで、夜を徹して浜で加工していこうと考えていたようだ。
とにかく夕方までには加工も終わり、当然、他のマストの確認作業をこれと並行していたのでそれも終えた。
明日の午前中には作業が終わりそうだ。
船長は干潮の時間を見計らってここを離れると言っていたが、俺が船で沖まで曳航することを伝えたら、終わり次第出ていくことになった。




