第29話 追加物資
俺の乗る船から補給物資を積んだボートはすぐに難破船に近づいた。
補給物資を渡すときにも一応の説明はしておいたが、ドローンを飛ばして、モニター画面上で様子を見ながらケリーに指示を出していく。
「まずは、経口補水液と言っても分からないか、透明な水の入ったものを一人一本づつ渡して飲ませてほしい。
蓋は上にある色の違う場所だ。そこを右に回せば蓋が取れるから、渡すときに蓋を取ってから渡した方がいいだろう」
細々した指示を出しながら、集めた要救助者たちに水を配る。
フランからも水を飲むように呼び掛けてもらい、どうにか飲ませることに成功はしたが、あの様子ならば液体栄養食を飲ますのは至難の業だな。
水だけでも、とりあえずは命は繋げそうだが、あの衛生状況だろう。
弱った体には病気にもかかりやすいし、どうするか……
「守様。
あの色の違う液も飲ませた方が良いのですよね?」
「ああ、そうなのだが、見たこともないのを飲めと言っても素直に飲んでくれるかどうか心配なんだよな。
最悪水だけをふんだんに飲ませて落ち着かせてからかな」
「私から、呼びかけましょうか」
「フランの呼びかけで水を飲ませることができたが、それでもな~」
「私が向うに行って、直接皆に話しましょう。
信じられないようでしたら、あたしが最初に皆の前であの液体を飲んでみます。
健康体である私が飲んでも構いませんよね」
「ああ、あれは薬でも何でもない。
ただの食事だ」
「あの液が食事なのですか」
「ああ、液状に放っているが、食事で必要な栄養だけを液状にしてあるだけのもので、たいして旨くもない。
緊急避難的に利用されるものだ」
「美味しくないのですか……」
流石にフランは顔をしかめる。
「あ、いや、不味くはないぞ。
多分甘いだけのものだ」
「甘いのですか」
今度は偉く食いついていた。
そう言えば昔は日本でも甘いのはごちそうだったっけか。
この世界でも同じようなものか。
なら、決して受け入れられないようなものではないだろう
「うん、大丈夫だ。
悪いが頼めるか」
「はい……しかし、私はどうやって移れば……」
「ああ、それは大丈夫だろう。もう一度騎士たちを呼ぶよ。
あの様子ならば、もう少し水などの補給はあった方が良いからな」
俺はそういうと、ドローンを通してもう一度船に来てくれとケリーに頼んだ。
ボートがこの船に来たので、今度はフランと二人の従者も一緒に水をもう二箱積んで難破船に向かってもらった。
だから、今この船には俺一人だ。
また一人になってしまい振出しに戻る……な訳はなく、目の前で救助作業中だし、あの船はどちらにしても使えそうにない。
今助けている人は、落ち着き次第、こちらに移す必要があるが、もう少し落ち着いてもらわないと大混乱になるだろう。
ただでさえ見たこともないような船が近くにあって、声だけが届くような状況だ。
フランたちの場合には選択肢が無かっただけで、混乱する暇もなかったのが結果から考えると良かったのかもしれない。
多分ケリーが大けがをしたので、他のことが考えられなく、自然に俺とこの船を受け入れてくれたのだろう。
しかし、今助けている人たちは違う。
選択肢がないのは冷静に考えれば分かるようなものだが、その冷静になれればの話だ。
今すぐに命の危険が迫っていなければ未知のものに怖くて近寄れないだろう。
そう、俺たちがいなくとも、今すぐにどうこうなることないのだ。
それがわかっているだけに、素直に俺の言うことに従ってくれるか、それが心配でもある。
俺は一人だし、フランたちを入れても総勢で13名だが、今助けているのはそれよりも多くいる。
やはり怖いのは反乱か。
まあ、最悪反乱者を殺すことが許されれば、簡単に排除は出来るだろうが、殺すことが許されるかという問題だ。
無傷で無力化ははっきり言って難しい。
まあ、そのあたりについても後でフランやケリーと相談しないといけないな。
ちょうどフランも向こうの難破船に乗り込んだところだ。
ドローンが移している画面からは、大した混乱もなくフランが集めたみんなの前で、先ほどの液状携帯食を食べ始めている……いや、飲んでいた。
一口飲んだフランは、表情を変えると、それを一心に見ていた周りの人たちが騒ぎ始める。
……これはやばいかな。
俺はあれを食べたことが無いのでどんな味か知らないけれど、相当不味かった……あ、いや、あの表情はまずいものを口に含んだものではないような。
「美味しい~!」
その次の瞬間フランは叫んでいた。
なんだ、人騒がせな。
美味しいのなら表情を一々変えるなよって、俺はだれもいないことをよいことに大きな声で独り言を言っていた。
次の瞬間、ドローンを通して俺の声が伝わったら大変だと思い、ドローンのマイクのスイッチが入っていなかったかすぐに確認した。
幸いマイクスイッチがOFFだったことで一安心だ。
何を一人芝居をしているんだと、今度は心の中で一人突っ込みを入れる。
「フラン様……」
「甘~い! これ本当に甘くて美味しいですよ。
それに、栄養も豊富で、これだけで食事が足りると大魔導士の守様がおっしゃっておられました」
「フラン様」
フランがみんなの前で補給で渡した液状の携帯食の説明をしていると、先のエルフがフランに話かけてきた。
「あ、先生」
「フラン様。
先ほどは失礼しました。
で、そのお手元の……」
「これですか。
今も説明しましたが、皆さんこれを食してほしいのですよ。
元気になりますから」
「初めて見る物ですから、なかなか口に入れるには勇気のいるものですね。
今、皆の前でフラン様が口に入れたのを見ましたが、それでも不安のある者はいるでしょうから、私が率先して食べてみようかと思います」
「え、先生が最初に食べてくださるのですか」
「ええ、よろしいでしょうか」
「是非にお願いします」
フランはそう言ってから、手にしている携帯食を渡して、食べ方を説明している。
これもスクリュー式の蓋があるので、回してからストロー上の物を吸いながら食べるよ込んでくるので、注意がいるが、そのあたりについても俺がフランに先に説明してあるから、フランも同じようにエルフに説明していた。
それでも途中でむせるようなことがあり、一瞬だが周りに緊張が走った。
だが次の瞬間に、エルフもフラン同様に叫んでいた。
「甘~い!」
咳き込みながらも嬉しそうに叫んでいたので、周りの空気の変わっていった。
そこ後は騎士たちが運び込んでいる携帯食を蓋を外してから要救助者たちに渡していく。
あっちこっちで、せき込む姿が見えたが、皆顔はうれしそうだ。
フランやエルフの様に口々に「甘~い!」「美味しい!」などと話している。




