第27話 座礁船
船の中に日常と言えるようなルーチンが固まりつつある。
尤も人が増えればまた変えていかないといけないが、騎士たちの面倒は引き続きケリーに任せて、今一緒にボートの訓練をしてもらっている。
なので、艦橋では二人に騎士に実務を任せて、管理者としてフランにお願いしている。
食堂についてもフランの範疇にあるが、二人のメイドも完全に食堂の機器の扱いにも慣れており、だいぶ手も離れたようだからちょうど良かったとも言っていた。
俺がやっとのこの世界に慣れてきたころ、いや、彼女たちを仲間に入れてその生活に慣れたころに事件は起こった。
ちょうど俺がこの世界に来てから10日目のことだ。
昼過ぎにいつものように俺はボートの習熟訓練をデッキから監督していた時に、艦橋から人が走ってきた。
「守様。
レーダーに影がありました」
俺は急ぎ艦橋に戻ると、そこには人が集まりちょっとした騒ぎになっていた。
彼女たちにとってはレーダー画面上に変化が現れるのを見るのは初めてのようだ。
俺は急ぎレーダー操作パネルに駆け寄り確認すると確かに影が出ている。
しかもその影は動いていない、いや、この船が動いているからすぐに画面から消えそうな位置まで移動しているが、これは相対位置の問題で、影は動いていない。
この世界の船は風が吹かなければ船を動かすことはできないようだが、気象情報を確認すると昼間は2-3mの風が安定して吹いているので、動いていないのは停船しているか、動けないかの二択だが、動けないというのも変なので、停船しているものと判断するしかないだろう。
でも、そうなるとなぜ停船しているかということになるが、海賊あたりが獲物でも探しているのか。
少なくとも商船などの様にまともな活動ではなさそうだ。
「あ、影が外の出てしまう」
俺と一緒のレーダーを見ていた騎士のほとりが声を上げた。
おっと、やばいやばい。
俺は急ぎ船を停船させて、この後のことについて、相談するためにみんなに集まってもらった。
流石に艦橋だと狭いので、お隣の海図室に移動して、壁にあるホワイトボードを使って今ある情報を説明して、この後のことについて相談してみる。
「まだ、船だとは言えないのですか」
「ああ、影だけなので、何かしらあるということしかわかっていない。
だから、それを確認するためにも近づくが、その後についてはどうするかは決めていない」
「海賊船かも知れない」
「ああ、それの可能性が高いかな。
少なくとも、今言えることは動いていないということだけだ。
あの辺りに岩礁なんかあるか知らないか」
「いえ、私たちは船には詳しくないので」
フランが申し訳なさそうに答えてくた。
「なら、十分に気を付けながら近づくしかないか」
「私たちは何をすれば?」
「そうだな、騎士の者は近くに詰めていてくれ。
フランはみんなの食事の準備を頼む」
「食事?」
「ああ、この先何があるのかわからないので、できるときに食事をとっておくようにしている。
フランたちを助ける前にも俺とミーシャには食事をとらせたが」
「わかりました、ドーラとミーシャ、食堂に行きますよ」
「出来たら呼んでくれ。
今度は食事をとりながら相談しよう」
「わかりました。
それで守様は」
「ああ、この船を動かして近づくよ」
索敵の範囲は10kmだとして、ここから向かうとなると巡航速度で25ノットだったはずだからこれから向かうとすぐに目標を視認できるはずだ。
俺はすぐに船を動かした。
今度は手動で、影を見つけた方向に船を向けるために舵を切った。
目標手前までは十数分で到着、そこから遠視モニターで影の正体を探ると帆船であることが判明したが、場所が悪そうだ。
白波が目標の近くに波立っていた。
こんな何もない海洋でいきなり岩礁と出くわすとは。
俺はそう思いながらも、海深が気になり海中レーダーの方を確認していく。
過去のログからこの付近から急に深度が浅くなり始めている。
『海底火山だな』
あの様子ならばすぐに沈むことはなさそうだが、さてさてどうするかな。
人がいれば助けないわけにもいかないが、全ての人が善良なる庶民っていう訳にもいかないよな。
俺が一人で考えても始まらないか。
俺は皆を集めている食堂に向かった。
食堂では食事の準備がすでに整っているが、誰も手を付けていないようだ。
「あれ、始めてくれてもよかったんだが」
「そうもいきません、守様」
「では、皆で食事を始めようか」
皆で食事をとり始めた。
元々から俺は早食いだったんだが、海上警備庁で訓練されてからはそれがさらに拍車がかかりあっという間に食事を終えた。
他はまだ半分くらいまでしか食べていないようだ。
まあ、食事をとりながらでも状況の説明くらいはできるか。
「食事をとりながらでも、聞いてくれ。
後でもう一度説明するが、先ほど見つけた影だが、やはり船だった。
しかも岩礁に乗り上げて座礁しているようだ」
「座礁??」
ここにいる全員が丘者で、船乗り特有の言葉には理解が乏しいようだ。
それなりの教育はされているはずなのだが、それでも丘者と船乗りとでは使われる言葉も違う。
それは元居た世界もここも変わりがない。
元居た世界ではドラマやニュースなので聞くことがあるので、岩礁や座礁と言った言葉位はほとんどの者が知るところではあるが、この世界ではそもそもそういう娯楽すらありえないので、生活に直結していないような言葉は理解できないようだ。
通商国家だと聞いてはいるが、それでも良い所のお嬢様やそれに使える者たちにとっては船に乗ることはあっても船を動かすことは無いので、船乗り特有の言葉には理解が及ばなかったのだろう。
「ああ、岩礁と言うのは海が急に浅くなっているような場所で、そこに船が乗り上げると、船が壊れて動かなくなることだ。
これを座礁という」
「え、ではあの影に映ったのは船で、その船が壊れていると」
フランが驚いたように声を上げた。
「そういうことになるかな」
「それで、どうするおつもりで」
こんどはケリーが俺に聞いてくる。
「すぐに沈むようなことは無いので、まずは食事を終えよう。
その後は、全員で艦橋に向かい、相談だな。
人がいれば救助しないとまずいだろう」
「「「え??」」」
そうか、この世界は戦争が当たり前だったな。
敵人であれば救助なんかするはずもないか。
まあ、捕虜にでもできるようならば話は別のようだが、どちらにしても人命救助という概念すらなさそうだ。
「救助とは?」
「まあ、食事を終えてからだな。
その後は近づいて様子を探る。
それから決めよう」
俺がそこまで話すと、何故か皆の食事の速度が上がり、すぐに終了となった。
ここでの片づけをドーラとミーシャに任せて残りは俺と一緒に艦橋に、と言っても11名もいるので、隣の系図室に入ってもらいそこでの話し合いとなる。
まずは遠視カメラでとらえた映像を皆で見てもらう。
「あれ、この船……」
一人が声を上げる。
「あなた、これを知っているのですか」
「はい、フラン様。
前に学校の演習などで使われていたものと似ているように思われます」
「そういえばそうだな」
「私も乗ったことのあるものと同じに見えるが、実際に外から見たのは港に停泊していた時だけだしよくわからない」
皆口々に、見たことがあるようなことを言い始める。
俺はよくわからないが、どうもフランたちがいた国には高等教育をする学校があり、騎士や宮廷魔法使いなどはそこでの卒業は必須だとか。
なので、この場にいる騎士たちは見覚えがあると口にしているが、一つには騎士たちはいわゆる丘者で船には詳しくないし何より興味の薄いとのことだ。
それに何より、今見ている映像を見たことがない。
彼女たちが見たことのあるのは港に停泊をした船だけで、海上を移動中の船はほとんど見ない。
せいぜい港から外に出向していく姿くらいだそうだ。
それならば後姿が主になるが、今似ているのはほぼ真横からの映像になる。
俺が真横から観察しやすいようにこの船を移動させたせいでもあるが、それに何より座礁だけでも無さそうなのだが、船が酷く痛んでもいた。
あの傷み具合では印象など違ってみても不思議もない。
むしろ一人が気が付いたことの方がすごいともいえる。




