第112話 短波無線の地上基地
こうして、従者探しのための通信手段確保は、プレアデス領国に新たな建設計画をもたらした。
俺は空を仰ぎ、これから始まるであろうさらなるドタバタに、期待と不安の入り混じった深いため息をつくのだった。
「異世界よ! 人探しのはずが、なんで情報インフラ整備になってるんだ!」
その嘆きは、短波無線のノイズのように、誰にも届かずに空へと消えていく。
そして翌日もまた、笑いと混乱と開発の嵐が俺たちを待っているのだった。
*
翌日、俺はフランたち主要メンバーをフェリーの食堂に集めていた。
短波無線が使えることは分かった。
しかし、安定運用するには、やはりこの島にちゃんとした無線基地を建設する必要がある。この重要案件を話し合うためだ。
食堂のテーブルには、ミーシャやドーラが腕によりをかけて作った料理が並び始めている。
ローストされた巨大な鳥の丸焼き、魚介のスープ、色とりどりの果物。
皆フェリーの食堂調理場で作られたものだが、本当にミーシャたちはこのおフェリーについてだいぶ慣れてきたようだ。
このフェリーを見つける前から、巡視艇の食事を頼んではいたが、今では冷食だけでなく、ここまで調理するようになるとは、人の成長はわかないのもだ。
しかし……、他の連中もだいぶ慣れが出ているかな。
テーブルの真ん中には、ダートン技師長が持ち込んだ樽酒が鎮座している。
「……なあ、フラン。これから重要な会議だって言ったよな、俺」
「ええ、もちろん。ですから皆の集中力を高めるために、最高の食事を用意させましたわ。議論が白熱すればお腹も空きますでしょう?」
フランはにこやかに答えるが、その目は完全に料理に向いている。
集中力の根源が話し合いの後の宴会にあることは分かりきっていたが、まさか会議前からこの状態とは。頭が痛い。
「守様、始めましょうぞ! ワシの喉は、乾ききっておる!」
ダートン技師長がジョッキをガンガンとテーブルに打ち付けながら叫ぶ。
あんたは議論じゃなくて酒が飲みたいだけだろ。
「よし、じゃあ始めるぞ! 静かに!」
俺は声を張り上げ、ホワイトボードの前に立った。
「いいか、俺たちの活動範囲はこれからどんどん広がっていく。獣人の姫の付き人探し、行方不明の人族の姫探し、それに、前にカミサマが言っていた豪華客船の捜索もある。そうなると、この島との連絡手段の確保は必須だ」
皆、神妙な顔で頷いている。よし、掴みはOKだ。
「そこでだ。この島のどこかに、本格的な短波無線の基地を作りたいと思う」
俺がそう言うと、皆の顔がパッと輝いた。
「いいか、これは魔法の道具じゃない! 科学だ! とにかく、安定して電波を送受信するための施設が必要なんだ。場所だが、この島の南側にある一番高い山の山頂がいいと思う。見晴らしもいいし、障害物もない」
俺が地図を指し示すと、ダートン技師長が身を乗り出してきた。
「ほう、あの山の頂にか! よかろう! 任せろい! あの山に生えとる一番デカい木をアンテナにして、その根元に頑丈な石造りの無線室を建ててやろう!」
「おお、それはいいな! ここに書いてあるような感じでアンテナ線を張り巡らせたい!」
「うむ! そこにある大木を使うのはわかるが、長さや距離が大事なのだな!」
話がどんどん詳細に詰められていく!
ただの無線室でいいんだって!
だが、一度火が付いたドワーフの創作意欲は誰にも止められない。
結局、山の山頂に生えている大木をアンテナの支柱とし、そのそばにドワーフ謹製の無線室(神殿風)を建設することで、話はまとまった。
いや、まとめられてしまった。
「よし、話は決まったな!」
誰かが叫んだ。その瞬間だった。
「「「かんぱーい!!」」」
俺の「待て、細かい予算とか人員配置とか!」という叫びは、宴の開始を告げる盛大な鬨の声にかき消された。
ああ、もう……こいつら、本当に大丈夫なんだろうか。
宴はいつものように、はちゃめちゃだった。
ドワーフたちは酒を酌み交わしながら無線神殿の設計について熱く語り合い、いつの間にか腕相撲大会が始まっている。
獣人たちは、自分たちの尻尾の振り方の優雅さを競い始め、サーシャとアリエルは即興の歌を披露している。
俺はフランの隣で、頭を抱えながらローストチキンを頬張った。
まあ、美味いから許す。
「大丈夫ですわ、守様。やる時はやりますもの、みんな」
フランが俺のグラスに神の樽酒をなみなみと注ぎながら言う。
その笑顔に、俺は諦めにも似た信頼を寄せるしかなかった。
*
翌日、驚くべきことに、ドワーフたちは二日酔いの気配も見せず、夜明けと共に建設資材を担いで山へと登っていった。
ダートン技師長に至っては、パワーショベルのバケットに巨大な石材を乗せ、器用に操りながら山道を切り開いている。彼らの仕事への情熱は本物らしい。
無線基地の建設は彼らに任せるとして、俺には俺の仕事がある。海図の作成だ。
「ケリー、準備はいいか?」
「はっ! いつでも出航できます!」
俺はケリーを連れて巡視艇に乗り込んだ。今日の目的は、島の周辺海域の未調査エリアを埋めること。
島を中心に、らせん状に航行しながら、海底地形を探査していく。
獣人国との航路はすでに確立されているが、それ以外の海は、今まで見つけてきた雑な世界地図以外、情報がないに等しい。
フランの兄とのやり取りで、植民都市の方角だけはなんとなく分かっている。
島の周りの調査が一段落したら、無線基地の完成を待って、一度そちらへ向かうつもりだ。
「しかし、守様の船は本当に静かで速いですね。何度乗っても驚きます」
操舵をケリーに任せ、俺はソナーとレーダーの画面を監視しながら言う。
「まあな。これがないと始まらないからな。ケリーもだいぶ操船に慣れたな」
「はい! 守様にご指導いただいたおかげです!」
胸を張るケリーは頼もしい。




