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辺境伯カレンツは今日も地味に勝つ ――内政と外交で生き残るVRMMO〈王国統治オンライン〉辺境伯カレンツの穏やかな戦略日誌 Lv56  作者: 柳 陽


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第9話 暮らしと技と外交の調和






 ――春の光が、水面の上で震えていた。

 凍土温室から伸びる緑の芽は力強く、

 三谷郷の畑にも、やわらかな風が吹き抜けている。


 ログイン完了。

 今日もまた、地味な数字の並ぶ行政盤が光を放つ。


 《白水路:水質良好》

 《簡易水路港:稼働率65%》

春衣はるごろも普及率:82%》

《三谷郷の人口:微増》

《外交:北方ドワーフ王国より“挨拶状”》


 「……挨拶状?」

 「はい、カレンツ様。北方からの使者です」

 レリィが柔らかい声で言う。

「レドール侯国に続いて、今度はドワーフ王国。

 ――外交が静かに広がってきています」


 外交が増えるのは良いことだ。

 だが、穏やかな領地は「取り込まれやすい」。

 それが少しだけ心配だった。


 「北方ドワーフ……鉄と鉱石の国ね」

 「ええ。彼らが“挨拶状”を送るのは珍しいです」

 「まずは話だけ聞いてみましょう。……内政の合間にね」

 「はい。外交と内政の両立は、カレンツ様の真骨頂です」


 レリィの言い方は静かだが、どこか誇らしげだった。



◆ 第一節:北方ドワーフ使節団 ― 武骨な礼節


 迎賓館。

 春の花が咲く庭に、重たい足音が響いた。


 「……ほう。これが“カレンツの城”か」


 現れたのは、大柄なドワーフ族の使者――

 胸当てに紋章、背中には鉄槌。

 見た目は武骨だが、態度は奇妙なほど丁寧だった。


 「辺境伯殿。北方の王より伝言を預かってきた」

 「ご苦労さま。内容を聞かせて」


 使者は文書を開く。


 《我らが北方の鉄道を延ばす計画が進んでいる。

 貴領との間に“物資転送の小ルート”を作れぬか。

 交換条件は、鍛造技術の共有。》


 レリィが驚いて目を瞬いた。

 「……鉄道、ですか?」

 「ええ。北方のドワーフ族が考案中の、大規模輸送技術よ」


 使者は言う。

 「我らの鉄技術は誇りだが、水路に関してはそちらが勝っている。

 互いに補い合おう、との王の意志だ」


 ――なるほど。

 ドワーフ族が“対等な交渉”を仕掛けてきたのは大きな意味がある。


 「条件は悪くないわ。ただし」

 使者が身構える。

 「なんだ?」


 「我が領に“鉄道建設隊”を常駐させるのは不可よ。

 軍事利用の可能性があるから」


 使者は意外そうに笑った。

「賢明だな。兵を置かずに交渉する女領主は、そういない」


 レリィが小声で。

「……カレンツ様、誉められてますよ」

「ありがたいけれど、油断はできないわ」


 私は続ける。

「道具だけ貸して。技術者は必要最低限で。

 そして――完成した道具は双方で共有する」


 使者は深く頷いた。

 「王も納得しよう。……良い交渉だった」


 《外交:北方鉄技術協定/鍛造技術+15/関係改善》



◆ 第二節:外交の余波 ― 技術が揺れ、内政が動く


 迎賓館を出ると、レリィが控えめに言った。

 「……カレンツ様。鍛造技術の改善で、工房から“嬉しい悲鳴”が届いています」

 「悲鳴?」

 「はい。“新しい道具を作りたい!”と……一斉に」


 確かにドワーフの技は強力だ。

 だが、急激な技術導入は“予算”を圧迫する。


 「レリィ、工房の予算は?」

 「春期予算の“自由枠”がまだ残っています。

 ですが、鍛造炉の改修は高額に……」


 私はすぐに判断した。

 「――工房の予算を二割増やすわ。その代わり、

 “領内で共有する道具”を作ること”を条件にする」


 レリィの顔がほどける。

「さすがです……個人技術ではなく、領地全体の生産力強化ですね」

「ええ。技術は“分けて広げる”ものよ。

 独占は退化につながるわ」


 《内政:工房予算+20%/鍛造効率+18/共有技術システム開発開始》



◆ 第三節:三谷郷の春 ― 外交の影が生活に落ちる


 春の市場。

 今日も人が多い。


 「北方の鉄器って本当に丈夫なのか?」

 「うちの層衣に鉄の留め具付けたら最強じゃね?」

 「白水路の“水路港”にドワーフが来るらしいぞ!」


 噂は早い。

 しかも、期待と不安が入り混じっている。


 私は広場の真ん中に立ち、皆に呼びかけた。


 「――北方ドワーフとの協定は、

 “暮らしを良くするため”のものです。

 兵でも、税でもありません。

 まずは安心して」


 人々がざわめきのあと、静かになっていく。

 レリィが言う。


 「カレンツ様は本当に……不安を溶かすのが上手です」

 「事実を丁寧に伝えるだけよ。

 不安の半分は“知らないこと”から生まれるのだから」


 《巷間安定+10/市場取引+12》



◆ 第四節:技術と暮らし ― 鍛造炉の改修


 工房区画。

 ドワーフ技術者と辺境の職人が初めて一緒に作業していた。


 「火の扱いが……うますぎる……!」

 「そっちは水の扱いが妙に細かいな……!」


 鉄の音、水音、火の蒸気。

 文化の違いは時に衝突し、時に笑いを生む。


 私は新しい鍛造炉を見上げた。


 「空気孔を斜めにしたのね」

 ドワーフ技師が笑う。

「そなたの言った“風の流れ”を試したら、温度が均一になってな。

 今や工房の連中が“自分の技だ!”と言い張っているぞ」


 「良いことよ。技術は誰のものでもないわ」


 《技術発展:鍛造炉強化/金属加工+30/耐久品質+20》


 レリィが目元を抑える。

 「……カレンツ様が触れると、物が全部強くなりますね」

 「強くなるわけじゃない。

 “本来ある強さ”が、見える形になるだけ」

 「……それが強さだと思います」



◆ 第五節:水路の静かな緊張 ― 外交で影が落ちる


 春の夕暮れ。

 水路港に視察に行くと、二人の男が言い争っていた。


 「北方の木材が流れてくるから、こっちの木材が売れないんだ!」

 「違う! あっちは硬い木を扱ってるだけで――」


 レリィが困った顔で私を見る。

 「……外交の影が出ましたね」


 私は二人の間に静かに入った。


 「木材の種類が違う。

 あなたの木は“家具向け”、

 北方の木は“道具向け”。

 市場を分けましょう」


 二人は顔を見合わせる。


 「ほ、本当か……?」

 「家具用は……俺の木の方が合ってる?」


 私は淡々と頷く。

 「ええ。あなたの木の方が加工しやすい。

 北方の硬い木は、道具の柄には良いけれど、家具には向かない」


 二人はほっとして頭を下げた。


 《市場安定:物流混乱率 −20/職人満足度 +12》


 レリィが言う。

「……外交は、こういう影を落としますね」

「ええ。でも、影が落ちるのは“光がある証拠”よ」



◆ 第六節:夜の執務 ― カレンツの静かな外交判断


 深夜。

 私は灯を小さくし、机の上に三つの書簡を並べた。


 ・レドール侯国:水路協定報告

 ・北方ドワーフ王国:技術進捗

 ・王都:三村統合の報告義務


 「外交は……内政より静かな戦場ね」

 「はい。でも、カレンツ様は強いです」

 レリィが温かな茶を置く。

「言葉の選び方が、どの国よりも丁寧で……優しい」


 私は首を振った。

 「優しいだけでは領民を守れないわ」

 「ええ。でも、“優しさ”と“正確さ”の両方を持つ人は、滅多にいません」


 レリィの言葉が胸に残った。


 《称号更新:穏和の調停者 → “静謐せいひつの橋渡し”》

 《外交効果:多国信頼 +10》



◆ 終章:外交も暮らしも、同じ水路の上にある


 翌朝。

 水路を渡る風が柔らかく、

 三谷郷の子どもたちが春衣をひらめかせて走っている。


 外交の波は静かに広がり、

 技術は火のように工房を温め、

 内政は土のように暮らしを支え、

 人々の生活は水のように流れていく。


 レリィが隣で言う。

「……今日も、穏やかですね」

「ええ。外交も、暮らしも。

 “静かに動く”のが一番強いわ」


 私は白水路の水面を見つめて呟く。

 「――今日も、地味に勝ったわね」

 「はい。静かで、確かな勝利です」


 水音が、春の空へ広がっていった。





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