表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境伯カレンツは今日も地味に勝つ ――内政と外交で生き残るVRMMO〈王国統治オンライン〉辺境伯カレンツの穏やかな戦略日誌 Lv56  作者: 柳 陽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/23

第20話 暮らしを整える風と、小さな縁が揺れる外交の一日









 ――盛夏に足を踏み入れようとしている。

 白水路の水は陽射しを反射し、

 風は重たくもどこか光を含んだ匂いを運んでくる。


 三谷郷の畑は、

 深い緑と影のコントラストがはっきりと見える季節になった。

 工房では軽工具の槌音が高く、

 薬師ギルドでは夏期の巡回準備が慌ただしく進んでいる。


 ログイン完了。

 行政盤が今日の領地状況を淡く映す。


 《白水路:水量 安定》

 《農作物:盛夏前 成長+17》

 《工房:夏仕様軽工具 生産継続》

 《薬師ギルド:夏期巡回 計画可》

《市場:夏衣 需要ピーク》

《外交:東境より“小報告”》


 レリィが書簡を抱えて近づいてきた。


 「カレンツ様……東境から“小報告”が届いています。

  “水門三度”の効果で、川が想像以上に安定したそうです」


 私は少し微笑んだ。


 「それは良かったわ。

  三度変えるだけで、流れはかなり変わるのよ」


 レリィが淡く笑う。


 「“簡易な案ほど効く”……これは領地運営の真理ですね」


 今日も領地はゆっくり、しかし確実に前へ進んでいる。



◆ 第一節:三谷郷 ― 盛夏前の畑に現れる“影の美しさ”


 三谷郷の畑には、

 盛夏特有の強い光が落ちていた。


 農民たちが額の汗を拭いながら言う。


 「辺境伯様、今年の“初夏芋”、根がぐんぐん伸びてまして」

 「去年より実が一回り大きいですよ!」


 レリィは影の入り方を確認しながら呟いた。


 「……葉の重なりが綺麗ですね。

  影が“涼しさ”をつくっている」


 私は畝の端の土を掬い、香りと湿りを確かめる。


 「この土、良いわね。

  根が深く潜れている証拠よ。

  影の効果で地温が上がりすぎていない」


 農民が誇らしげに胸を張る。


 「水路沿いの“石角”も効いてます!

  陽射しが強い時は、影が広がるので!」


 《農業:盛夏前収穫量+20/土壌安定+15》


 レリィは、風に揺れる芋の葉を見つめながら言った。


 「カレンツ様……

  “植物が影を活かして育つ”なんて、

  自然は本当に賢いですね」


 「自然に抗わず、

  自然の性質を“味方につける”――

  それが領地づくりの基本よ」



◆ 第二節:工房 ― 夏仕様軽工具の“握り感”がさらに進化する


 工房の中は熱気で満ちていたが、

 職人たちは軽快に作業を進めていた。


 バロッサが嬉しそうに駆け寄る。


 「辺境伯様、見てくだせぇ!

  “通風柄”の改良版が完成しやした!」


 レリィが手に取って目を輝かせる。


 「手に馴染む……!

  持ちやすさが一段と良いですね」


 私は柄の穴の形状を確認しながら言った。


 「……丸ではなく“楕円”にしたのね。

   掌の動きに合わせて空気が逃げるわ」


 バロッサは鼻をこすりながら照れる。


 「へへ……南境の農具からヒントを貰いやした。

  あっちじゃ牧草を使うから、

  “手のひねり”が大事なんでさ」


 レリィが柔らかく頷いた。


 「技術は……結び合うんですね」


 《工房:軽工具進化+22/作業安全+20》



◆ 第三節:市場 ― 夏衣が暮らしに涼しさを運び始める


 市場では、夏衣の販売がピークを迎えていた。


 「この浅緑、似合うんじゃない?」

 「風層衣は涼しくて助かるよ!」


 レリィが布の裏地を触りながら言う。


 「肌触りが軽く……“風の膜”があるような感じですね」


 私は留め具の角度を確認する。


 「……次は“背の上部”にも留め具をつけると良いわね。

   風を肩から抜けやすくなる」


 織師が目をぱっと開く。


「なるほど……!


  そうすると背中に熱がこもりませんね!」


 《市場:夏衣人気+30/生活快適度+18》


 レリィが小さく笑う。


 「カレンツ様は、本当に“風の通り道”がお得意ですね」


 「水も風も、

  流れが自然になるように扱えば、

  人は楽になるものよ」



◆ 第四節:薬師ギルド ― 夏期巡回の準備が静かに整う


 薬師ギルドの中では、

 巡回医療班が夏期対策の薬を仕分けていた。


 「影薄草茶、多めに」

 「熱さましは二倍量にしましょう」


 レリィが帳簿を見ながら言う。


 「……夏は体力が削られますから、

  “軽い薬”の方が使いやすいですね」


 カレンツは棚に並ぶ薬を一つ取り、香りを確かめた。


 「香りが飛んでいない。

  陶器水冷の効果が出ているわね」


 見習いが嬉しそうに言う。


 「陶器水冷、東境の技師さんにも褒められました!」


 レリィが柔らかく笑む。


 「薬草技術が“外交の種”になるなんて……

  面白いものですね」


 《医療:夏期巡回準備完了/薬品質+18》



◆ 第五節:東境からの“礼の報告” ― 生活が外交を変える瞬間


 午後、迎賓館に東境からの使者が訪れた。


 「辺境伯カレンツ様……

  水門三度の御助言、

  本当にありがとうございました」


 レリィが穏やかに促す。


 「状況を聞かせてください」


 使者は深く頷いた。


 「川の水量が安定し、

  村人たちの顔が明るくなりました。

  “水が暴れない川は、心まで落ち着かせる”と……」


 私は、胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。


 「自然は、人の心にも影響を与えるものよ」


 使者は少し躊躇しながら続けた。


 「……実はもう一つ、相談がございます。

  “堤の草の管理”について……

  同じ技術で改善できないか、と」


 私は即答した。


 「出来るわ。

  堤の草は“根の深さ”が命よ。

  草の種類を少し変えるだけでいい」


 レリィもすぐ補足した。


 「地を縫う草種を使えば、

  土が崩れにくくなります」


 使者は深々と頭を下げた。


 「……争いではなく、

  暮らしを良くするための知識をくださるとは……

  東境、心より感謝いたします」


 《外交:東境友好度+28/治水技術共有+20》



◆ 第六節:夕刻の白水路 ― 技術と生活と外交が静かに重なる時間


 レリィと白水路のほとりを歩く。


 陽は傾き、

 水面には金色の揺れが浮かんでいる。


 レリィが静かに言った。


 「……外交って派手なものだと思っていましたけれど、

  実際は“生活の延長”なんですね」


 「ええ。

  生活が安定して、

  相手が“安心”すれば、

  争う理由は自然と消えるわ」


 レリィはその言葉を噛みしめるように頷いた。


「生活を良くすることが、


  そのまま外交になる……

  本当に、カレンツ様の領地は不思議です」


 私は白水路の流れを眺めながら言った。


 「不思議なのは、

  “人が自然を正しく扱えば、自然も応える”だけよ」



◆ 終章:夜風と、今日もひっそり積み上がる勝利


 夜。

 迎賓館のテラスから白水路を見下ろす。


 工房の灯りが揺れ、

 薬師ギルドの窓から陶器の影が落ちている。


 レリィが寄り添うように立ち、言った。


 「今日も……静かで穏やかで、いい一日でしたね」


 「そうね。

  生活が一つ良くなるだけで、

  人は救われるものよ」


 そして私は細い風音を聞きながら、

 いつもの言葉を零した。


 「――今日も、地味に勝ったわね」


 レリィがやわらかく笑った。


 「はい。

  静かで確かな、勝利です」


 夏の風は白水路をなで、

 その揺れが領地を温かく包んでいった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ