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辺境伯カレンツは今日も地味に勝つ ――内政と外交で生き残るVRMMO〈王国統治オンライン〉辺境伯カレンツの穏やかな戦略日誌 Lv56  作者: 柳 陽


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18/23

第18話 夏の風と生活技術、そして薄く揺れる外交のしるし









 ――夏本番の気配が近づきつつあった。

 白水路の水温は少し上がり、

 水面を渡る風は軽やかで、微かに湿り気を帯びている。


 三谷郷の畑では、

 初夏の実が膨らみ、葉は濃く力強い色へと変わっていた。

 工房の煙突はゆるい煙を上げ、

薬師ギルドでは乾燥棚の薬草が静かに揺れている。


 ログイン完了。

 行政盤が今日の領地状況を淡く映し出す。


 《白水路:水量 安定》

 《農作物:夏前 成長+14》

 《工房:軽工具シリーズ 生産拡大》

《薬師ギルド:巡回医療 報告待ち》

《市場:夏衣 人気上昇》

《外交:南境フィルノ村より“相談”》


 レリィが書簡を抱え、静かに告げる。


 「カレンツ様……南境のフィルノ村より“相談”です。

  “干し草の保存技術について見せてほしい”とのことです」

 「干し草……?」


 レリィは頷いた。


 「どうやら、南境では“夏の湿気”のせいで

  牧草が傷みやすく、困っているようです」


 私は空を見上げた。

 夏前の空は軽く、薄く、風がよく通る。


 「生活の問題ね。

  外交として扱うより、“生活支援”に近いわ」

 「はい。カレンツ様らしい判断です」


 今日もまた、静かに、地味に、領地が動き出す。



◆ 第一節:三谷郷の夏前視察 ― “暑さに負けない土作り”の成果


 三谷郷の畑では、農民たちが汗をぬぐいながら作業していた。


 「辺境伯様、おはようございます!」

 「今年の初夏芋、すごい勢いですよ!」


 レリィが葉を撫でながら確認する。


 「……色が良い。

  この季節に“葉焼け”が出てないのは珍しいわね」


 農民の一人が鼻をこするように言う。


 「白水路の“石角いしかど”のおかげです。

  堤に置いてある石が影を作ってくれて、

  水の蒸発が抑えられたんですよ」


 私は水路の端に並ぶ小石群を見て、頷いた。


 「……良い仕事ね。

  あの“石角”は本来、風よけのために置いたものだけれど、

  この季節は“日よけ”にもなるわ」


 レリィが感心したように笑む。


 「一つの手段が、複数の効果を持つ……

  カレンツ様の内政らしいです」


 《農業:夏芋 増収+18》

 《住民安心+10》



◆ 第二節:工房の“軽工具”がさらに進化する


 工房では、第二炉の前で

 職人バロッサが腕を組んで立っていた。


 「辺境伯様……見てくだせぇ。

  あっしら、ついに“夏仕様の軽工具”を完成させやした!」


 レリィが目を輝かせる。


 「夏仕様……?」


 バロッサが取り出したのは

 軽工具の持ち手に細かな穴が開いたものだった。


 「手汗を逃がす“通風穴”でさ。

  暑い作業でも滑りにくいようにしてみたんで」


 私はハンマーを握りしめ、重心と感触を確かめる。


「……確かに。


  握った瞬間、空気が抜けるわね。

  手汗で滑らず、怪我も減るわ」


 バロッサが照れくさそうに笑う。


 「へへっ、領民の声を聞いて改良したんでさ。

  “生活のための工具”ってやつです」


 レリィが丁寧に頷く。


 「技術は、人の暮らしを支えてこそ意味がありますね」


 《工房:夏仕様軽工具+20/安全性+22》



◆ 第三節:市場の活気 ― 夏衣の新色と、生活の彩り


 市場の通りには、

 夏衣が色鮮やかに並んでいた。


 「辺境伯様!

  “風層衣”に新色が入りましたよ!」


 織師が誇らしげに見せてくるのは、

 涼しげな浅緑色と、光を反射する灰青色。


 レリィが布を指で弾きながら言う。


 「色が柔らかい……夏の光に合いますね」


 私は縫い目を確認する。


 「縫い代が薄くされているわね。

  肌が擦れにくいように工夫されている」


 織師が嬉しそうに胸を張る。


 「はい!

  細工台で“留め具”の角度も合わせてもらって、

  風が通りやすくなりました!」


 《市場:夏衣人気+28/生活快適+15》



◆ 第四節:南境フィルノ村への“小さな支援” ― 外交が生活の形になる


 午後、迎賓館で

 南境フィルノ村からの使者と対面した。


 彼は深く礼をして言う。


 「辺境伯カレンツ様……

  どうか、干し草の保存方法を学ばせてください。

  今年の湿気で、牧草が腐りかけております」


 レリィが表情を引き締める。


 「……家畜の食糧不足は深刻ですね」


 私は短く頷いた。


 「支援は可能よ。

  方法は三つ」


 指を折りながら、静かに説明する。


 「一つ、干し草小屋の“通風穴”を縦にすること。

   横穴だと湿気が溜まりやすいわ」


 「――なるほど……」


 「二つ、床に“砂利層”を敷くこと。

   湿気を吸ってくれるわ」


 「砂利……!?」


 「三つ目。

   屋根瓦を“半枚ずつずらして”敷くこと。

   風が流れるようになるから」


 使者は深く深く頭を下げた。


 「……すべて、なんと簡易で、

  しかし実用的な……!」


 レリィが穏やかに微笑む。


 「この三つで、腐敗は半分以下になります」


 「南境は豊かではありませんが……

  この御恩は必ず――」


 私は手で制した。


 「恩返しは要らないわ。

  生活は皆の基盤よ。

  隣領が困っていれば助ける。

  それで十分」


 《外交:南境フィルノ村 信頼+30》

 《技術交流:簡易保存術 共有+20》



◆ 第五節:薬師ギルドの報告 ― 巡回医療の成果


 夕刻。

 巡回医療班が戻ってきた。


 見習いたちが興奮気味に報告を述べる。


 「咳の薬、子どもたちによく効きました!」

 「井戸の掃除頻度が少なくて……改善指導しました!」

 「寝床の湿気も問題です!」


 レリィは一つひとつ丁寧に記録していく。


 「……生活の細かな問題が多いのですね」

 「ええ。病気は“生活の乱れ”から生まれるもの」


 私は見習い達に向き直った。


 「あなたたちは、“治す人”ではなく

  “暮らしを見守る人”よ。

  それを忘れないで」


 見習い達は深く頷いた。


 《医療:巡回効果+20/生活改善提案+15》



◆ 第六節:白水路の夕暮れ ― 技術と外交の“やわらかな結び目”


 作業を終え、

 レリィと白水路のほとりを歩く。


 水は夏の光を映し、

 風は温かく、静かだった。


 レリィがぽつりと呟く。


 「……外交って、本当に生活の延長なんですね」


 「そうね。

  生活が良ければ、争う必要もないし、

  技術を分け合う余裕も生まれる」


 「今日の南境支援……

  あれも“外交”なのですよね?」


 「ええ。

  でも、大げさに扱う必要はないわ。

  生活を支えれば、それがそのまま人の心を繋ぐ」


 レリィが安堵したように目を細めた。


 「カレンツ様の領地は……

  本当に“静かに強い”です」


 私は風を受けながら言った。


 「静かに、地味に、

  少しずつ前に進んでいるだけよ」



◆ 終章:夜風と、今日もひっそり勝利


 夜。

 迎賓館の窓から白水路を眺め、私は呟いた。


 「――今日も、地味に勝ったわね」


 レリィがそっと微笑んだ。


 「はい。

  穏やかで、静かで、確かな勝利です」


 夏の夜風が白水路に波紋を描き、

 その音が静かに夜へ溶けていった。






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