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辺境伯カレンツは今日も地味に勝つ ――内政と外交で生き残るVRMMO〈王国統治オンライン〉辺境伯カレンツの穏やかな戦略日誌 Lv56  作者: 柳 陽


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17/23

第17話 暮らしに風が通り、外交がかすかに揺れる日








 ――初夏から盛夏へ移ろうとする季節。

 白水路には透明な水がゆるやかに流れ、

 三谷郷の畑では、緑が風に波のように揺れていた。


 ログイン完了。

 行政盤が静かに光り、今日の領地状況が映し出される。


 《白水路:水量 安定》

 《農作物:初夏後期 成長+15》

 《工房:軽作業工具 生産拡大》

《薬師ギルド:巡回医療 予定準備》

《市場:夏衣 需要高》

《外交:レドール侯国より“小規模交流”の打診》


 レリィが書簡を片手に、穏やかに報告する。


 「カレンツ様……レドール侯国より、

  “技術担当者の小規模交流”の打診が届きました」

 「小規模交流?」


 レリィが首を傾げながら続ける。


 「“実情視察ではなく、知識交換をしたい”とのことですが……

  本音は“あなたの領地の安定の理由をもう少し見たい”でしょうね」


 私は淡く笑う。


 「いいわ。交流を受けましょう。

  ただし、あくまで“生活のための技術”に限ると伝えて」

 「了解いたしました」


 外交はあくまで、

 この穏やかな日常の“風の一筋”で良い。



◆ 第一節:三谷郷の初夏後期 ― 土は静かに応える


 三谷郷の畑は、初夏の盛りに入りつつあった。

 葉の色が濃く、実は硬さを持ち始めている。


 農民が駆け寄ってきた。


 「辺境伯様! 今年の“初夏芋”の出来が良すぎて……!」

 「食べきれない量になりそうです!」


 レリィが畑の端にしゃがみ、根を確認する。


 「根の伸び方、均一ですね……」

 「水捌けもいいわ。

  今年の雨は多かったけれど、

  水路の調整が効いているのね」


 農民が笑って言う。


 「水路の角度、去年とまったく違いますもん!

  あれで水が暴れなくなりました!」


 《農業:初夏収穫量+18/食料余剰+12》


 レリィが立ち上がり、

 日差しを見ながら呟いた。


 「……本当に“土地が応えている”ような感じがします」

 「土地は正直よ。

  丁寧に扱えば、丁寧に返ってくる」



◆ 第二節:工房の技術開発 ― “軽工具”が生まれる


 工房へ向かうと、

 第二炉の火がひときわ明るく燃えていた。


 バロッサが得意げに駆け寄る。


 「辺境伯様、ついにできやした……

  “軽工具シリーズ第一弾”、完成でさぁ!」


 レリィが目を丸くする。


 「軽工具……?」


 バロッサが小型のハンマー、細身のノミ、軽量カッターを見せる。


 「重い工具を使うと手首を痛めやすいんでね。

  夏の作業でも疲れにくくなるようにしてみやした!」


 私はハンマーを手に取り、重心を確かめた。


 「……重さのバランスが良いわね。

  振り抜きやすい」


 レリィが感嘆した声をあげる。


 「これなら女性職人や年配の方も扱えますね」


 バロッサが鼻をこすりながら照れる。


 「へへ……“使う人”のことを考えたら、

  こうなったんでさ」


 《工房:軽工具生産開始/作業効率+20/疲労軽減+18》



◆ 第三節:市場と夏衣の本格展開 ― 涼しさを運ぶ技術


 市場では、夏衣の販売が本格化していた。

 風を取り込む“風層衣ふうそうい”は、

 軽さと涼しさで評判になっていた。


 住民が手に取りながら話す。


 「風が通る感じがいいねえ!」

 「北方の金属細工の留め具、軽くておしゃれ!」


 レリィが夏衣の背中部分に指を当てる。


 「……留め具の角度、よく考えられていますね。

  風が背から抜けていくようになってる」

 「ええ。日中の暑さを和らげるための工夫よ」


 人々の暮らしに技術が浸透していくのを見ると、

 それだけで胸が温かくなった。


 《市場:夏衣需要+25/生活快適度+15》



◆ 第四節:薬師ギルドの小さな挑戦 ― 巡回医療の試験


 薬師ギルドでは、

 初めての“巡回医療”に向けて準備が整っていた。


 見習い達が荷物を積み込みながら話している。


 「咳止めは人数分……」

 「影薄草茶も忘れないように!」


 レリィが穏やかに言う。


 「みなさん、気をつけて行ってくださいね。

  帰ってきたら、報告をまとめましょう」


 私は巡回一覧を確認しながら言った。


 「この巡回は“治療だけ”でなく、

  “生活の改善点”を見るのが目的よ」


 「えっ、生活……?」


 「井戸の掃除状況、

  食事、寝床、

  家屋の風通し――

  病気の半分は生活から生まれるわ」


 見習いたちは真剣な表情で頷いた。


 《薬師ギルド:巡回医療開始/領内健康指数+12》



◆ 第五節:レドール侯国との“小さな技術交流” ― 穏やかな探り合い


 午後、迎賓館に

 レドール侯国の“技術担当者二名”が到着した。


 彼らは緊張した面持ちで頭を下げる。


 「辺境伯カレンツ様……

  本日は“技術交流”の機会をいただき、感謝いたします」


 私は穏やかに微笑む。


 「こちらこそ。

  難しい話ではなく、

  “生活を支える技術”を見ていただくだけよ」


 レリィが工房と温室へ案内する。


 まず工房──


 「これが第二炉……?

  火の暴れが少ない……!」

 「空気孔の角度か?」


 レリィが説明する。


 「火が自然に“渦を巻く”ように設計されています」


 次に温室──


 「乾燥棚の湿度が……均一だ」

 「陶器と砂利で調整しているのか……」


 彼らの顔には、

 敵意でも警戒でもなく、

 “純粋な興味”だけが宿っていた。


 視察を終えると、

 レドールの技術者が静かに頭を下げる。


 「……争いのためでなく、

  “暮らしのため”に技術を使う領地……

  本当に存在したのですね」


 《外交:レドール小規模技術交流+25》

 《友好度:微上昇》



◆ 第六節:夕刻の白水路 ― 技術が外交になる瞬間


 技術者たちが帰ったあと、

 私はレリィと白水路を歩いた。


 遠くでは、

 軽工具を使う職人たちが作業を続け、

 薬師見習いたちの巡回班が水路沿いを進んでいく。


 レリィが静かに言う。


 「……技術そのものが、外交の“言葉”になるんですね」


 「ええ。

  良い暮らしを見せれば、

  争いたがる者も黙るものよ」


 レリィがほんのり微笑む。


 「カレンツ様の領地は……

  本当に“静かに強い”ですね」


 私は足元の川を見つめた。


 「静かさの裏には、膨大な手間があるだけよ」


 風が吹き、

 白水路の表面に涼しい波紋が広がった。



◆ 終章:夜風と、今日も地味な勝利


 夜。

 迎賓館のバルコニーから白水路を眺めながら、

 レリィがそっと言う。


 「……今日の外交、上出来でしたね」


 「地味な一日だったけど、

  着実に“未来のつながり”が増えたわ」


 レリィが小声で笑う。


 「カレンツ様の地味さは……

  世界を救います」


 「褒め言葉として受け取るわ」


 白水路の水音が

 夜の静けさと溶け合っていく。


 「――今日も、地味に勝ったわね」

 「はい。

  穏やかで、確かな勝利です」


 その声が夜風に乗り、

 ひっそりと領地を包んだ。





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