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辺境伯カレンツは今日も地味に勝つ ――内政と外交で生き残るVRMMO〈王国統治オンライン〉辺境伯カレンツの穏やかな戦略日誌 Lv56  作者: 柳 陽


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第15話 暮らしと技術と、ひそやかな縁を結ぶ外交







 ――初夏の白水路は、水の勢いを少し増しながらも、

 変わらず柔らかく光を反射していた。


 三谷郷では、畑の葉が大きく広がり、

 工房では鉄槌の音が一定のリズムで続き、

 薬草温室には乾燥棚の薬草が静かに揺れている。


 ログイン完了。

 行政盤が今日の領内を淡く映し出す。


 《白水路:安定》

 《農作物:初夏成長+13》

 《工房:第二炉 稼働率88%》

 《薬草温室:品質向上中》

 《市場:夏衣需要 上昇》

 《外交:東境ハルム領より“相談”》


 レリィが書簡を両手で抱え、静かに言う。


 「東境より、“夏の水害”について相談が届いています」

 「水害……?」


 初夏のこの時期、雨が多い。

 東境は地形の関係で、川が溢れやすいのだ。


 「相談という言い方をしているけれど……

  実際は“助けを求めたい”のだと思うわ」


 レリィが真剣な顔で頷く。


 「……カレンツ様。外交も医療も技術も、

  “暮らしの問題”から生まれるのですね」

 「ええ。だからこそ、内政の延長として扱える」


 淡い初夏の光の中、

 ひそやかな外交がまた動き始めていた。



◆ 第一節:三谷郷の初夏視察 ― 土地が示す安定


 まずは領内を見て回らなければならない。


 三谷郷は今日も穏やかだった。

 土の香りが濃く、

 葉の裏には朝露がまだ残っている。


 「辺境伯様、おはようございます!」

 農民が笑顔で頭を下げる。


 「畑の成長は順調?」

 「はい! 水の量も丁度良くて……

  去年より“土地が軽い”感じです!」


 レリィが畑の端にしゃがみ、土を指で潰した。


 「本当に軽い……三村の土が馴染んでいます」

 「ええ。土が安定すると、“根の深さ”も揃うのよ」


 土台が整っていれば、

 多少の雨でも根が踏ん張る。


 《農業:初夏安定率+15/住民安心+10》



◆ 第二節:工房の技術進展 ― 小さな発想が大きく育つ


 次に工房。


 第二炉は連日稼働し、

 新しい農具の試作が進んでいた。


 職人バロッサが大きな声をあげる。


 「辺境伯様! 新式の“軽刃鎌”が完成しやした!!」


 レリィが興味津々の顔になる。


 「軽刃……?」


 私は鎌を手に取ってみる。

 従来のものより薄く、

 しかし強度は落ちていない。


 「刃を薄くしたのではなく、

  “内側の空洞構造”で軽量化してあるわね」


 職人が驚いて声をあげる。


 「な、なんで分かるんです!?」


 レリィが少し誇らしげに微笑む。


 「カレンツ様は……構造を見るのが得意ですから」


 《工房:農具品質+20/軽量化技術+18》



◆ 第三節:市場と夏衣需要 ― 生活は季節と呼吸している


 市場では、早くも夏衣の試作品が並び始めていた。


 「辺境伯様、見てください!

  “風通し層衣そうい”の試作品です!」


 布は薄手で、

 北方の金属留め具が涼しさを損なわないよう工夫されている。


 レリィがそっと指で触れる。


 「……軽いですね。

  夏でも蒸れにくい造りだ」


 私は布の縫い目に目をやる。


 「風を取り込む縫い方ね。

  これは工房と織師の合作だわ」


 住民たちも市場で嬉しそうに試している。

 生活の息遣いが、確かに明るい。


 《生活品質+15/市場流通+12》



◆ 第四節:東境ハルム領からの使者 ― “相談”という名の外交


 昼下がり。

 迎賓館に東境の使者モルハが訪れた。


 彼は前回よりも疲れた表情をしている。

 しかし礼儀は崩さない。


 「辺境伯カレンツ様……突然のお願い、失礼いたします」

 「いいえ。状況を教えて」


 モルハは息を整え、語り始めた。


 「東境の小川“青谷川”が……

  連日の雨で、水位が上がり続けています。

  水門の石が古く、調整が難しく……」


 レリィが眉を寄せる。


 「……治水の問題ですね」


 私は地図を広げ、

 “青谷川”の流れを指で追った。


 「この川……流れる角度が悪いわ。

  高低差が少ないから、増水すると“逃げ場”がない」


 モルハが驚きの声をあげる。


 「一目でそこまで……!?」


 「治水は“流れを読む”ことよ。

  水は敵ではなく、ただの性質」


 私は静かに提案した。


 「東境へ技術者を派遣するわ。

  ただし、“大掛かりな工事”は不要。

  

  必要なのは――

  水門の角度を三度変えるだけ」


 モルハは目を見開いた。


 「三度……? それだけで……?」

 「ええ。水は“角度”に従うから」


 レリィが補足する。


 「角度を三度調整すると、水の“勢いと逃げ道”が安定します」


 モルハは深く頭を下げた。


 「……助けられました。

  これも外交の一つなのですね」


 私は微笑んだ。


 「ええ。“暮らしを守る”ための外交よ」


 《外交:東境ハルム領 信頼+28》

 《治水技術:共有+20》



◆ 第五節:東境技術者との合同作業 ― 隣領と手を取り合う


 翌日。

 東境との技術者合同作業が始まった。


 白水路の技術者と、

 東境の水路技師が共に地図を広げる。


 「水門の角度を三度……

  しかし、どの方向に?」


 私は木の棒で地面に線を描きながら示す。


 「南西へ三度。

  風の流れと川の曲がり方に合わせて」


 東境の技師が驚いて言う。


 「……南西……確かに、雨のときは風が南から吹きます!」

 「川は風にも影響を受けるわ。

  水だけを見てはいけない」


 レリィが静かに付け加える。


 「自然は“一つの要素”で出来ていないということです」


 合同作業は和やかに進み、

 水門は予定よりも早く調整を終えた。


 《治水:東境小川 安定度+35》

 《外交:東境との協力体制 固定化》



◆ 第六節:帰路のモルハ ― 感謝の言葉と“ささやかな提案”


 作業後、モルハは深く頭を下げた。


 「カレンツ様……あなたは、

  “争わぬ強さ”を持っておられる」


 レリィが静かに言う。


 「カレンツ様は、自然のような方ですから」


 モルハは小さな箱を差し出した。


 「東境の陶工たちが、

  あなたへ贈りたいと作ったものです」


 箱の中には、

 青く澄んだ小さな陶器の花瓶が入っていた。


 「……きれい」

 レリィが息を呑む。


 「これを、薬師ギルドに飾っていただければ……

  我が領の誇りになります」


 私は穏やかに微笑んだ。


 「ええ。大切に使わせてもらうわ」


 《外交:東境文化交流+20》



◆ 終章:初夏の夜風と、“今日も地味な勝利”


 夜。

 白水路に初夏の風が流れ、

 薬師ギルドの窓が優しく光っている。


 レリィが静かに言う。


「……今日の外交、完璧でしたね」

「地味な作業の積み重ねよ」

「その“地味”が、どれほど難しいか……皆知りません」


 私は夜空を見上げた。

 雲はゆっくりと動き、

 星は柔らかく瞬いている。


 「――今日も、地味に勝ったわね」

「はい。

  静かで、穏やかで、確かな勝利です」


 初夏の風が、水面をひっそり撫でていった。






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