第13話 薬草連合の研究拠点 ― “薬師ギルド”創設記
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――初夏の陽が白水路の表面で揺れ、
三谷郷の薬草温室には青々とした葉の影が伸びていた。
ログイン完了。
行政盤には、新しい通知が淡く灯っている。
《薬草連合:正式発足》
《三領:薬草供給安定》
《医療:症状改善率 72%》
《技術:薬草処理技法の共有進行中》
《提案:薬草連合“研究拠点”の創設希望》
レリィが書簡を抱えて近づいてきた。
「カレンツ様……三領の代表から“研究拠点”の提案です」
「拠点……?」
「はい。薬草研究と調合技法、
そして医療器具の開発を行うための――
“薬師ギルド”の設立を望んでいるとのことです」
私は少しだけ驚き、そして微笑んだ。
「薬草連合が……ここまで広がるとは思わなかったわ」
「はい。
その中心にカレンツ様がいらっしゃるからです」
静かな言葉だったが、
レリィの声には確かな誇りがにじんでいた。
「――拠点を作りましょう。
医療と技術と暮らしを支える場所を」
「はいっ。準備を進めます」
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◆ 第一節:場所の選定 ― “静けさと流れ”が共存する土地
薬師ギルドを設立するため、
私は領内の各地を視察することにした。
薬草温室のそばも良いが、
研究拠点には“静けさと人の流れ”が必要だ。
レリィが地図を広げる。
「候補は三つありますね。
●白水路の中流:交通の便がよい
●三谷郷の北端:静けさと湿度がある
●工房近く:技術者との連携が容易
……どれも魅力があります」
「ええ。でも、一番大事なのは――」
私は地図の端の部分を指した。
「ここ、“陽だまり丘”よ」
レリィが目を丸くする。
「……丘の上? 水が遠いのでは?」
「水路を引けばいいわ。
薬草は湿度の“過不足”が成長に影響する。
丘の弱い風なら、温室の換気も安定する」
レリィは感心したように頷く。
「……すごいです。
丘の風が“薬草の乾燥工程”を助けるんですね」
「ええ。薬草連合の拠点には最適よ」
《研究拠点予定地:陽だまり丘に決定》
《住民好感度 +12》
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◆ 第二節:設計と建設 ― 火と水と風と土の“合奏”
工房の職人、薬師、北方技師、
さらに東境の陶器職人まで参加し、
薬師ギルドの設計図が作られていった。
●中央棟:薬草研究室
●西棟:調合室
●東棟:器具工房(小規模)
●南庭:薬草試験畑
●北庭:乾燥棚・陶器保管庫
●中央塔:風向計+通風調整装置
レリィは図面を見つめて、
ゆっくりと目を細めた。
「……この場所、“技術の音”と“風の音”しか聞こえませんね」
「ええ。争いの声が届かない場所にしたかったの」
石と木を組み合わせ、
青土陶器で水温を調整し、
霧吹き管を設置して湿度を管理する。
工事は静かだが、確実に進んでいく。
《薬師ギルド:建設進行度 65%》
《技術:薬草乾燥効率+20》
《連合評価+15》
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◆ 第三節:薬師見習いたちの応募 ― “知りたい”という小さな声
陽だまり丘の建設現場に、
若者たちが集まり始めた。
「薬草を学びたいです!」
「調合を覚えて、村の役に立ちたい!」
「家族を病で亡くして……医療に携わりたくて」
私は一人ひとりの顔を見る。
その目は真剣で、曇りがなかった。
レリィが静かに言う。
「……この人たちが、次の世代を支えるんですね」
「ええ。薬師ギルドは、
ただの建物ではなく“未来を育てる場所”よ」
《薬師見習い:第一期 12名》
《教育項目:薬草学/衛生/水管理/調合/食事療法》
特に、食事療法は重要だ。
薬だけではなく、
“生活の中の治療”を覚えることが薬師には必要だから。
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◆ 第四節:三領の代表が集う ― “共同拠点の始動”
建設がほぼ完成した頃、
三領の代表たちが再び訪れた。
●東境ハルム領:モルハ
●南方沼地領:ラグナ
●北方技師団:グルム
レリィが小声で囁く。
「前回より……皆さんの表情が柔らかいですね」
「ええ。“助け合った経験”があるからよ」
私はギルド入口で彼らを迎えた。
「ようこそ。薬草連合の“心臓部”へ」
三人は建物を見上げ、
深く息を吸った。
「……風が心地よい」
「香りが混ざっている……これは薬草?」
「建物の構造が理にかなっている」
レリィが案内を続ける。
「こちらが乾燥棚です。
湿気は北側から逃げ、温かな風が南から――」
「ここが調合台。火を使う場所は……」
「器具は北方の技術で……」
皆がそれぞれの知識を重ね合い、
自然と会話が増え、笑い声も増えていく。
《外交:薬草連合の結束+30》
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◆ 第五節:連合会議 ― “薬師ギルド規定”の策定
ギルド中央棟の会議室で、
静かな話し合いが始まった。
議題は“薬師ギルド規定”。
私はゆっくりと読み上げた。
1. 薬師ギルドは三領の共同施設とする
2. 技術者・薬師の交流を定期で行う
3. 薬草の供給と品質管理を統一する
4. 戦争・政治利用は禁止
5. 薬師見習いの教育は“基礎生活改善”を重視する
6. 研究成果は三領へ等しく還元する
モルハが頷く。
「分かりやすく、公平だ」
ラグナも胸に手を当てる。
「薬草を武器に変えない……その姿勢が好きだ」
グルムが静かに言った。
「うむ。研究成果が広まれば、
北方でも薬草の価値が上がる」
レリィが細い声で呟いた。
「……本当に、争いのない技術連合ですね」
会議は滞りなくまとまり、
全員が静かに署名した。
《薬師ギルド:正式創設》
《医療技術+30/外交+25/民生+15》
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◆ 第六節:薬草連合の新たな動き ― 影のように広がる恩恵
ギルド創設後、
さまざまな変化が領内に広がっていった。
●薬草試験畑:多品種の栽培開始
●北方式器具工房:小型蒸留器の試作
●陶器棚:青土陶器の保存技術が向上
●見習いたち:基礎医療の巡回開始
●三谷郷:病気の発生率がさらに低下
レリィは帳簿を見ながら目を輝かせる。
「……驚くほど、毎日が良い方向に進んでいます」
「地味な仕事が積み重なっているだけよ」
「でも、その“地味”が領地を変えているんです」
《生活改善+20/衛生向上+18/子ども健康指数+22》
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◆ 第七節:初夏の夕暮れ ― “未来を守る場所”の完成
夕暮れどき。
陽だまり丘の薬師ギルドに、
初めて灯りがともった。
風に揺れる薬草の香り。
火窯の控えめな音。
見習いたちの笑い声。
私はその光景を見ながら呟いた。
「……ようやくできたわね。
未来を守る場所が」
レリィが隣できょとんとした顔をする。
「未来……ですか?」
「ええ。命を守る場所は、未来そのものよ」
「……素敵です、カレンツ様」
私は静かに微笑んだ。
「――今日も、地味に勝ったわね」
「はい。たっぷりと、確かな勝利です」
初夏の風が、
薬師ギルドの屋根をやさしく撫でていった。
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