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辺境伯カレンツは今日も地味に勝つ ――内政と外交で生き残るVRMMO〈王国統治オンライン〉辺境伯カレンツの穏やかな戦略日誌 Lv56  作者: 柳 陽


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第13話 薬草連合の研究拠点 ― “薬師ギルド”創設記






 ――初夏の陽が白水路の表面で揺れ、

 三谷郷の薬草温室には青々とした葉の影が伸びていた。


 ログイン完了。

 行政盤には、新しい通知が淡く灯っている。


 《薬草連合:正式発足》

 《三領:薬草供給安定》

 《医療:症状改善率 72%》

 《技術:薬草処理技法の共有進行中》

 《提案:薬草連合“研究拠点”の創設希望》


 レリィが書簡を抱えて近づいてきた。


 「カレンツ様……三領の代表から“研究拠点”の提案です」

 「拠点……?」

 「はい。薬草研究と調合技法、

 そして医療器具の開発を行うための――

 “薬師ギルド”の設立を望んでいるとのことです」


 私は少しだけ驚き、そして微笑んだ。


 「薬草連合が……ここまで広がるとは思わなかったわ」

 「はい。

 その中心にカレンツ様がいらっしゃるからです」


 静かな言葉だったが、

 レリィの声には確かな誇りがにじんでいた。


 「――拠点を作りましょう。

  医療と技術と暮らしを支える場所を」

 「はいっ。準備を進めます」



◆ 第一節:場所の選定 ― “静けさと流れ”が共存する土地


 薬師ギルドを設立するため、

 私は領内の各地を視察することにした。


 薬草温室のそばも良いが、

 研究拠点には“静けさと人の流れ”が必要だ。


 レリィが地図を広げる。


 「候補は三つありますね。


 ●白水路の中流:交通の便がよい

 ●三谷郷の北端:静けさと湿度がある

 ●工房近く:技術者との連携が容易


 ……どれも魅力があります」


 「ええ。でも、一番大事なのは――」

 私は地図の端の部分を指した。

 「ここ、“陽だまり丘”よ」


 レリィが目を丸くする。


 「……丘の上? 水が遠いのでは?」

 「水路を引けばいいわ。

  薬草は湿度の“過不足”が成長に影響する。

  丘の弱い風なら、温室の換気も安定する」


 レリィは感心したように頷く。

 「……すごいです。

  丘の風が“薬草の乾燥工程”を助けるんですね」

 「ええ。薬草連合の拠点には最適よ」


 《研究拠点予定地:陽だまり丘に決定》

 《住民好感度 +12》



◆ 第二節:設計と建設 ― 火と水と風と土の“合奏”


 工房の職人、薬師、北方技師、

 さらに東境の陶器職人まで参加し、

 薬師ギルドの設計図が作られていった。


 ●中央棟:薬草研究室

 ●西棟:調合室

●東棟:器具工房(小規模)

●南庭:薬草試験畑

●北庭:乾燥棚・陶器保管庫

●中央塔:風向計+通風調整装置


 レリィは図面を見つめて、

 ゆっくりと目を細めた。


 「……この場所、“技術の音”と“風の音”しか聞こえませんね」

 「ええ。争いの声が届かない場所にしたかったの」


 石と木を組み合わせ、

 青土陶器で水温を調整し、

 霧吹き管を設置して湿度を管理する。


 工事は静かだが、確実に進んでいく。


 《薬師ギルド:建設進行度 65%》

 《技術:薬草乾燥効率+20》

 《連合評価+15》



◆ 第三節:薬師見習いたちの応募 ― “知りたい”という小さな声


 陽だまり丘の建設現場に、

 若者たちが集まり始めた。


 「薬草を学びたいです!」

「調合を覚えて、村の役に立ちたい!」

「家族を病で亡くして……医療に携わりたくて」


 私は一人ひとりの顔を見る。

 その目は真剣で、曇りがなかった。


 レリィが静かに言う。

 「……この人たちが、次の世代を支えるんですね」

 「ええ。薬師ギルドは、

  ただの建物ではなく“未来を育てる場所”よ」


 《薬師見習い:第一期 12名》

 《教育項目:薬草学/衛生/水管理/調合/食事療法》


 特に、食事療法は重要だ。

 薬だけではなく、

 “生活の中の治療”を覚えることが薬師には必要だから。



◆ 第四節:三領の代表が集う ― “共同拠点の始動”


 建設がほぼ完成した頃、

 三領の代表たちが再び訪れた。


 ●東境ハルム領:モルハ

 ●南方沼地領:ラグナ

 ●北方技師団:グルム


 レリィが小声で囁く。


 「前回より……皆さんの表情が柔らかいですね」

 「ええ。“助け合った経験”があるからよ」


 私はギルド入口で彼らを迎えた。


 「ようこそ。薬草連合の“心臓部”へ」


 三人は建物を見上げ、

 深く息を吸った。


 「……風が心地よい」

 「香りが混ざっている……これは薬草?」

「建物の構造が理にかなっている」


 レリィが案内を続ける。


 「こちらが乾燥棚です。

  湿気は北側から逃げ、温かな風が南から――」

 「ここが調合台。火を使う場所は……」

 「器具は北方の技術で……」


 皆がそれぞれの知識を重ね合い、

 自然と会話が増え、笑い声も増えていく。


 《外交:薬草連合の結束+30》



◆ 第五節:連合会議 ― “薬師ギルド規定”の策定


 ギルド中央棟の会議室で、

 静かな話し合いが始まった。


 議題は“薬師ギルド規定”。


 私はゆっくりと読み上げた。


 1. 薬師ギルドは三領の共同施設とする

 2. 技術者・薬師の交流を定期で行う

 3. 薬草の供給と品質管理を統一する

4. 戦争・政治利用は禁止

5. 薬師見習いの教育は“基礎生活改善”を重視する

 6. 研究成果は三領へ等しく還元する


 モルハが頷く。

 「分かりやすく、公平だ」


 ラグナも胸に手を当てる。

 「薬草を武器に変えない……その姿勢が好きだ」


 グルムが静かに言った。

 「うむ。研究成果が広まれば、

  北方でも薬草の価値が上がる」


 レリィが細い声で呟いた。


 「……本当に、争いのない技術連合ですね」


 会議は滞りなくまとまり、

 全員が静かに署名した。


 《薬師ギルド:正式創設》

 《医療技術+30/外交+25/民生+15》



◆ 第六節:薬草連合の新たな動き ― 影のように広がる恩恵


 ギルド創設後、

 さまざまな変化が領内に広がっていった。


 ●薬草試験畑:多品種の栽培開始

 ●北方式器具工房:小型蒸留器の試作

 ●陶器棚:青土陶器の保存技術が向上

 ●見習いたち:基礎医療の巡回開始

 ●三谷郷:病気の発生率がさらに低下


 レリィは帳簿を見ながら目を輝かせる。


 「……驚くほど、毎日が良い方向に進んでいます」

 「地味な仕事が積み重なっているだけよ」

 「でも、その“地味”が領地を変えているんです」


 《生活改善+20/衛生向上+18/子ども健康指数+22》



◆ 第七節:初夏の夕暮れ ― “未来を守る場所”の完成


 夕暮れどき。

 陽だまり丘の薬師ギルドに、

 初めて灯りがともった。


 風に揺れる薬草の香り。

 火窯の控えめな音。

 見習いたちの笑い声。


 私はその光景を見ながら呟いた。


 「……ようやくできたわね。

  未来を守る場所が」


 レリィが隣できょとんとした顔をする。


 「未来……ですか?」

 「ええ。命を守る場所は、未来そのものよ」

 「……素敵です、カレンツ様」


 私は静かに微笑んだ。


 「――今日も、地味に勝ったわね」

 「はい。たっぷりと、確かな勝利です」


 初夏の風が、

 薬師ギルドの屋根をやさしく撫でていった。






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