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2.暗い洞穴



 森に入ってから二時間くらい経っただろうか。

テンネは結構森の奥の方に進んでいた。

いつも薬草採取をするのはもっと木の間隔がまばらな辺りなのだが、そこは日の光も差し込まないほど森が茂っている。

いつもとは違う景色に新鮮だとは思うが、同時に言いようもない不安感が湧いてきた。

「ランプでも持ってくれば良かったかな・・・」

 他の冒険者と違い、テンネは夜目が利かない。

日は暮れていないがとにかく視界が悪いということだけは感じていた。

 そろそろ引き返そうかと思った頃、茂みがガサゴソと動いた。

 「ヒィッ」と情けない声を上げるも、縋りつく相手も助けてくれる同行者もいない。

 茂みの隙間から無数の赤い光が覗く。

見たことはなかったが、それらは確かに魔物の目だと思った。

 テンネが何もできず固まっていると、茂みを揺らしながら数体の魔物が姿を現した。

子犬のような姿をしているが、逆立った毛やむき出しの牙、血走った目からは確かな凶暴性を感じる。

「こ、コボルト・・・!」

 実際に遭遇したことはなかったが、口から自然に目の前の魔物の名前が出た。

図書館に通って勉強した成果なのだが、今そのことを喜んでいる暇はない。

 杖を構えるか、逃げるか。

冒険者として、魔法使いとしては前者が正解だろう。

 コボルトは下級の魔物である。

スライムほどとはいかずとも駆け出しの冒険者の良いカモとなる。

そして倒してもほとんど何も残らないスライムとは違い、その毛皮は金になる。

テンネの所属するギルドでも、コボルトの毛皮を使った装備を身につけている者はもちろんいる。

普通の冒険者ならば迷わず狩る選択を取るだろう。



 そう、普通なら。



(逃げなきゃ!!!)

 テンネが選んだのは後者だった。

テンネに自分を守る力はないし、今まで魔物と遭遇したこともないためその時の正しい対処法も知らない。

そんな絶好のカモを逃がすはずもなく、後ろからコボルトたちが追いかけてくる。

二足歩行と四足歩行、お察しの通り走力はテンネの方が不利であるため、次第に距離が詰められていく。

荒々しい鳴き声や足音が近づいてくる。

頭が真っ白なはずなのに、身体を引き裂かれるような嫌な想像が頭から離れない。

(死んじゃう!死んじゃう!!死んじゃう!!!)


 視界が涙で滲む中、ふと植物の蔦や苔で茂った洞窟の入り口が見えた。

周囲は森で視界が悪く、他に逃げられそうな場所もない。

ただ、洞窟の中が行き止まりではもう逃げられない。

「バゥッ!ガゥゥウガァァァァァ!!」

「ヒィィィッ!」

 後ろからコボルトの近づいてくる気配を鮮烈に感じ、急かされるように洞窟の奥へ走った。

後ろを振り向かずに走って、走って、走って・・・




「い”たっっっ!」

 洞窟の壁に突き当たり、頭をぶつけてしまった。

激痛に思わず倒れ込むと、走ることに集中して閉ざされていた感覚が解放されていく。

「あれ・・・」

 地面を引っ掻く足音も、獲物を口に入れようとする荒い吐息も、耳が痛くなるような咆哮も聞こえない。

魔物の血走った目も、逆立った毛皮も、肉を裂く剥き出しの牙も見えない。

追跡してきたコボルトの群れはいなくなっていた。

テンネはほっとした。

よかった。食べられなくて。死ななくて。


 しかし、苦難は続く。

「私、どうやって来たんだっけ・・・?」

 それもそのはず。

我武者羅に走ってきたため、来た道も帰り方も分からない。

おまけに明かりもないため森の中よりさらに暗い。

脳内地図?スキルによるマップ?テンネにとっては知らない子である。

 ゆっくりと起き上がり、洞窟の壁に手をついて歩く。

一縷の望みを掛け、(しかし、まだコボルトがいたら怖いため控えめな声で)暗闇へ声を掛ける。

「だ、誰かぁ・・・いませんか~・・・・・?」

 返事はない。森の中の洞窟に冒険者がいるとは思えない。

「コボルトさ~ん・・・食べないでくださ~い・・・・・」

 咆哮はない。もしコボルトがいるなら応える前に食らいついてくるだろう。

 壁伝いに道を歩く。

何度か手を切った。

凸凹の道のせいで結構健脚なはずの足が疲れた。

 我慢できず座り込もうとしたところ、一筋の光が見えてきた。

(外だぁぁぁぁ!!!)

 テンネは叫び出したいのを抑えて光の方へ向かった。



 

「い”ッ・・・!!!」

 額に鈍い痛みが走る。

思わず後ろに倒れ込み、痛みに悶絶する。

「い”っつぁぁ・・・!!」

『何、びっくりしたんだけど』

「ごめんなさい・・・え」

 誰かが脳内に直接語りかけてきた。

男性かも女性かも分からない不思議な声だった。

自分以外がいるはずもない洞窟内でフリーズする。

視界には洞窟の赤茶色の岩壁ではなく、純白の羽毛のようなものがいっぱいに広がっている。

ゆっくりと頭を持ち上げると、それは巨大な鳥の翼のようなものだと分かった。

翼がゆっくりと動くと、翼と同じ色の鱗に覆われた巨体、青い脈が通ったような金色の鋭い爪、黄金をはめ込んだような瞳、燃えるような青い鬣・・・。



「ドラゴン・・・?」




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