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1.ポンコツ魔女 テンネ

「魔王」という存在に魅力を感じ、作品を書き始めました!よろしくお願いします!

 Fランク冒険者テンネ・グラティアスは困惑していた。


 ダンジョン都市ヒルエスタの冒険者ギルドは今日も活気に溢れている。

冒険者達は依頼用紙がちらほら添付された掲示板を眺めていたり酒を飲み交わして談笑したりしていた。

ギルド職員はやや粗暴な冒険者に苦言を呈しながらも、実は非常時には彼らをとても信頼していることは暗黙の了解として誰もが理解していることだ。

町の一般市民もギルドに頼り、今日も依頼は途切れていないことは依頼内容の掲示板を見れば明らかだろう。

 冒険者も、ギルド職員も、一般市民も自由に交流できる空間。

この賑やかで自由な空気感がテンネは好きだ。

それと、受付の優しくて可愛いお姉さんと話すのが好きだ。

最近は「やっほー」と気軽に話してくれるようになって嬉しい。

早くお姉さんのカウンターに行って癒やされたい・・・。


 それなのに、テンネは今、ギルドの厄介事の渦中にいる。


 目の前には四人組の冒険者パーティーらしき人達がいて、忌々しげにテンネを見ている。

ギルドの有力冒険者パーティー『追駆の杖』。

最近実力をつけてきた、ギルドの代表的パーティーの一角・・・らしい。

周囲の冒険者がヒソヒソ話しているのが耳に入ってきたから分かったが、テンネからすれば完全に初耳だった。

 その四人の中で一番前にいるのはリーダーなのだろう。

テンネと同い年ほどの顔立ちだが、見上げる首が痛くなりそうな程背が高い。

そしてその分威圧感が凄い。少し伸びている赤い髪に、葡萄のような紫色の瞳をしている。

濃い緑色のローブはテンネの物よりもずっと大きなサイズで、もしテンネが着ればきっと地面に引きずってしまうのだろう。

杖も一目で良い素材が使われていることが分かる。

杖の先にはめ込まれた髪と同じ色の魔石は、この町の杖を売っている店で見たことのあるどれよりも大きかった。

 しかし、そんなことよりも、特徴が全く気にならないほど目つきが悪くて怖い。

四人いるのに他の三人がかすんで見えるほど格別に憎悪を込めていそうな鋭い目で睨みつけてくるのである。

 怖い。逃げたい。

私、何かしたっけ・・・。

 テンネは必死に記憶のページを手繰るが、残念ながら思い当たる節はない。

「オイオイ、テンネの奴何したんだよ・・・」

「知らねぇよ・・・」

 皆から見てもテンネが悪いことしたように見えているようである。心外としか言いようがない。

 テンネは心の中で叫んだ。

 「何かしたか」?こっちも知りたいよ!分かったら何が悪かったか判断できるのに!!悪いことしたんだったら真っ先に謝りたいのに!!!

 


 でもなぁ・・・・・・・


 本当に知らない人達なんだよね・・・・・・・・・。



「だ、誰ですか・・・?」

「ハァッ!?知らねぇのか!?」

「はい・・・」

「ギルドの一角を担うパーティーだぞ!?」

「はい・・・」

「マジなのか!?最近ダンジョンの最深到達記録も塗り替えたのに!!?」

「ごめんなさい・・・」

 ダンジョンに潜る機会のないテンネには、到達記録などどうでもよかった。ご近所の家の晩ご飯くらいにはどうでもよかった。

どうしても思い出せないほど忘れているだけという線も捨てきれないが、仮に知ってたって言ってもテンネにプラスになる情報ではなかった。

 しかし、そう思うと同時にテンネは感心した。

 想像以上に凄いパーティーなんだ・・・。

 ダンジョンの到達記録更新がなかなかできることではないことは、実力のないテンネでさえも察しがつく。

加えて、周囲の冒険者たちが誰一人訂正したり文句を言ったりしていないということは、それほど有名で本当のことなのだろう。

 それを知らないって・・・・もしかして私、世間知らずすぎなのでは???

 テンネの情弱には本人でさえ呆れるばかりである。


「冷やかし・・・じゃねぇのか・・・!?」

「は、はい・・・」

「だ、大丈夫か、お前・・・そんな情弱じゃ冒険者として生きてけねーぞ・・・・」

 赤髪の彼は驚愕したような顔をして、その頬には冷や汗が伝っている。

目つきも心なしか少し柔らかくなっているような気もする。

 もしかして心配してくれてる・・・?あんなに敵意の籠こもった目で見てきてたのに・・・?

敵認定してる相手を心配するなんて・・・面倒見は良いのかな・・・・・。

 こんな時でさえテンネは呑気であった。

「ッ・・・いやいやいや・・・・・情弱だろうが関係ねぇ」

 何かを振り払うように頭を振ると、もう一度こちらへと向き直った。

その目は先程までと同じとはいかずとも、再燃した敵意を宿らせている。

「お前みたいな落ちこぼれが、先輩と関わるなんて・・・我慢ならねぇ」

「せ、先輩・・・?」

 彼の呟きが耳に届いた。

『先輩』、その存在との関わりが今回彼の逆鱗に触れたようである。

 テンネが思わず口に出すと、誤魔化すように「なんでもねぇ!」と吐き捨てられた。

「テンネ・グラティアス!お前に命を賭けた決闘を申し込む!!

一週間後、このギルドの闘技場で待つ!!逃げられると思うなよッ!!!」

 そう言うと、『追駆の杖』は鼻を鳴らして去って行く。

「ま、待って!先輩って・・・」

 宣誓に出てきた『先輩』という謎の存在について聞こうとした。

しかし、四人とも驚きの早さで視界から消えていく。

いや、全員がその早さというより、早歩きの足長リーダーについて行こうと他のメンバーが頑張って追いかけているようである。

思わずテンネも「足早っ」と感嘆の声を漏らしてしまった。

 足が長いと歩幅も変わるんだなぁ・・・。


 嵐は過ぎ去った。

しかし、一部始終を見ていた冒険者達は「なんだ?喧嘩か?」と好奇の視線を送る者や、「オイオイ、かなうわけねーよ・・・」と同情を禁じ得ない者など、さまざまな感情でテンネを見ている。

さらに遠くで見ていた受付嬢はどこか心配そうである。


「なんでぇ・・・?」

 

 ただ一言、テンネの気の抜けた声が、大広間に取り残された。




 敢えて言おう。

 テンネ・グラティアスは無能な魔法使いである。

 半年前にギルドで冒険者登録をする際、魔法使いとしての適性を見出された。

魔法を使うのはある程度才能が必要であり、誰しも使えるものではない。

だから結果が出たとき、カウンターの周りにいた周囲の冒険者からは小さくも歓声が上がった。

「わぁ!すごいです、テンネさん!魔法使いって、誰でも慣れる職業じゃありませんよ!」

 金髪で美人な受付嬢に褒められ、いい気になってそのまま申請書の職業欄に『魔法使い』と書いた。

その時のテンネは間違いなく有頂天だった。


 しかし、テンネは知らなかった。

才能だけでは魔法をただ『使う』ことはできても、『自由に扱う』ことができるようになるわけではないことに。


 テンネは冒険者になる前、ヒルエスタで暮らすただの一市民に過ぎなかった。

冒険者に憧れるだけの、力のない一般人。

そのような者達と異なることが一つだけあるとすれば、実際に冒険者登録をしにギルドの扉を叩く行動力があったことだけである。

だから貴族や冒険者のような特別な教育は受けていないし、自分に近しい人に冒険者がいなかったため誰かに聞くことすらできなかった。

つまりテンネは、『魔法使い』という肩書きだけで一般人と何も変わらなかった。


 そのため魔法使いとして一人前になるには養成学校に通うのが一般的であると知ったのも、自分の能力に対して本格的に失望していた頃になってしまった。

 情報を掴んだその夜、一緒に住んでいる養父テオールに平伏さんばかりにお願いした。

「お願いします!私を、魔法使いの学校に入れてください!」

「ダメだよ」

テオールは、微笑みこそ神のような慈悲深さが垣間見えるが、この時のテンネにはまさしく鬼のように思われた。

「お金は返すから!」

「別にいいよ。困ってないし」

「じゃあ、なんとか・・・」

「ならないよ。ばっちいから、床から頭を上げなさい。」

「冒険者になるのはいいのに・・・?」

「本当は反対だったよ。危ないし。君みたいなか弱い子がやることじゃない。」

「か弱くない・・・」

「か弱いよ。でも、君が本当にどうしてもって言うから、『町から離れたところの依頼は受けないこと』『ダンジョンに潜らないこと』って条件で一応頷いて、ローブも杖も用意した。

私に出来るお膳立てはすべてしたつもりだよ。

だから、あとは自分の力でやってみせなさい」

「そんなぁ・・・お父さんの分からず屋!けち!」

「夕飯までには帰っておいでね」

 その後一瞬だけテオールを恨んで家出をしたが、夕食の頃には忘れて帰っていた。

空腹には抗えないし、テオールの作るご飯にはもっと抗えなかった。

大変不服であったが、おかわりを食べる頃にはテオールへの不満は消えていた。


 そういうわけで、大金のないテンネに養成学校への入学は叶わず、町の図書館へ高い入館料を払って勉強に通い、テオールが用意してくれた杖で魔法の練習に励むことになったのだ。

 できる限りの努力を重ねたつもりである。

雨の日も風の日も、休まず魔法についての知識勉強も実践練習もした。

知識を本から書き写したメモ帳は五十冊を超え、グラティアス家の庭を通るたびに魔法の詠唱が聞こえ、通行人がそれを覚えてしまうほどだった。

 努力が周囲に伝わったのか、ギルドの魔法使いの一人だという親切な人に声をかけてもらえる機会があった。

『リチャード』と名乗ったその人は国の首都にある学校を出たらしく、地方の図書館の魔導書には載っていないような魔法の情報や使い方を教えてもらえた。

そのうちリチャード本人の見解や体験も聞くようになり、テンネはまるでその分野の著名人と直接話しているような特別な気分を抱くようになった。

リチャード自身忙しいらしく、直接会うのは一ヶ月に一度、町の片隅の建物も人目もまるでないような場所だったが、それでもテンネにとっては協力してくれているだけでありがたかった。


 しかし、肝心の結果は出なかった。

杖から魔法が出ることはなく、体内を巡っているという魔力を感じることさえできなかった。

 加えて、冒険者ギルドもそう甘くない。

冒険者登録は二週間も依頼を受けなければ自動的に抹消されてしまう。

療養などの特別な事情があればギルドに掛け合うことも可能だが、ただの技量不足で修行中のテンネでは論外だろう。

 そのことについてリチャードに相談すると、

「薬草採取なら魔物と直接遭遇する機会は少ない。

町の外だからもちろん可能性はゼロというわけにはいかないが・・・・・たまにこうして会った時、魔物の少ない穴場を教えよう。

そこで採るといい」

というなんともありがたいお言葉をいただけた。

その日からテンネは、リチャードの言葉に従って魔物と遭遇することのない薬草採取で登録を繋ぎ止めることになったのだった。


 そういうわけで、今日も今日とて薬草採取に励んでいる。

一週間後には命がないかもしれないが、登録がなければ冒険者ではいられない。

実家住まいで経済的に困っているわけではなくとも、厳しくも優しい養父の応援と穴場を教えてくれているリチャードの期待に応えるためにも習慣を欠かす訳にはいかない。


「どうしよう・・・」


 決闘のことで不安で泣きたくなりながらも、とりあえず森の奥に進んだ。




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