表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秋、空高く…。~あの日の君を忘れない~  作者: アオハルだってキライじゃない
『…って、スーパーバイザーさんは言ってる。』
20/22

二〇、、、


 スーパーバイザーは説明を始めた。

「穴はコチラで塞げるんですけど、問題はスグにまた開きかねないってことなんスよ」

 が、説明を始めてすぐ、厭味な表情を浮かべて岬と鈴華を見る。

「なにせコチラの岬悠人さんが、鈴華さんの想いに反応して、ふらふらとスグに現世(うつしよ)の方に出て行っちゃうもんスからね…――」

 岬と鈴華が返す言葉もなく固まってしまうとスーパーバイザーは、ウンウンと一人で納得したふうになり、それから真面目な顔になって続けた。

「――冗談ぬきに、〝穴〟が塞がらないのは岬悠人さんが原因です。

 本来〝常世(とこよ)〟に()るはずの岬悠人の像が、アナタに呼び寄せられて〝現世(うつしよ)〟に在る……」

 鈴華も真面目な表情をスーパーバイザーに返した。

 スーパーバイザーは続ける。

「だから〝常世(とこよ)〟に行って、精神エネルギーの源を封じて、岬悠人さんが〝現世(うつしよ)〟に……アナタの側に出現できない(でてこれない)ようにする必要があります」


 こちらの側(現世)に、()()()()()()()()…――その言葉の意味する先は、〝岬が()()()()()〟ということ……。

 鈴華は、少なくともそれを受け入れる理由を理解はしていると、そう自分を励ましてスーパーバイザーの言葉に耳を傾けた。


「これはアタシら現場管理(スーパーバイザー)には出来ない作業なんスよ。アナタの精神界のお話です……アナタにしかできません」

 鈴華がスーパーバイザーを見返す。

「それにこれは……」 スーパーバイザーは、チラと、岬を見て言う。「…――岬悠人さんの〝願い〟でもあります」

 鈴華がそれに応えるのに、数秒はあった。


「わかった」

 なんとか岬が口を開く前に、鈴華は頷いて応えることができた。

 岬の方を見ることなく、スーパーバイザーに訊いた。

「それで、わたしは何をどうすればいいの?」

「それは〝行ってみないと〟わかりません」

 鈴華の問いにスーパーバイザーは申し訳なさそうに笑って言った。

「でも、行けばわかるハズなんです。アナタが行けば」



「…………」

 ここでさすがに鈴華は身構えてしまったが、そんな鈴華にスーパーバイザーは追い撃ちをかけた。

「あ、それと例の〝影〟……、アレも手薬煉(てぐすね)引いてうろついてます。捕まったら〝じ・えんど〟なんで、アレからも逃げながら、ってコトになりますかね」 ……まったく他意はないように。

 一気に不安になった。

 何をどうすればいいのかわからないままに、〝常世(とこよ)〟なんて妖しい場所――想像もできないような場所という言葉の響きだ…――へ行かねばならない。

 その上、あの〝影〟……。

 …――わたしの生み出した〝妄執〟だという、不穏で、得体の知れない、〝気持ちの悪い〟モノが、わたしのことを手薬煉(てぐすね)引いて待ち構えているという……。



「…………」

 でも、そんな表情(かお)は、岬には見せられない……。


 すると……、

「だいじょうぶ…――アタシもご一緒しますから」

 スーパーバイザーが、優しい笑いの顔でそう言った。

「え?」

 鈴華はこのとき、はたと気付いた。 ――…スーパーバイザーは〝自分たちには出来ない作業〟とは言ったが、何もしない(ノータッチ)とは言っていなかったことに。

「じゃあ……?」

 そう訊くと、スーパーバイザーはボーラーハット(山高帽)のつばを摘まみ、小さく会釈をして答えた。

「ハイ。直接手伝うことはできないんスけど、案内と、指示の方、サポートさせて頂きますので」 と。



「…――ま、俺も、行くしな」

 となりで岬が、当たり前のことのようにそう言うのが聞こえた。

 岬が、そういうふうに、そう言うのはわかっている。それでも鈴華は、その言い方と言葉に安心を覚える。

 鈴華は、少し落ち着いて覚悟の定まった表情になって、スーパーバイザーに頷いた。


 スーパーバイザーは頷いて返すと、また黒手袋をはめた右手を顔の横に持ってきた。

 そして〝パチン〟と鳴らすと、勿体(もったい)ぶった表情で道を譲るように一歩を退いた。

 斜に構えた案内人の身体の先に、鈴華は()()を見た。

「これが、その〝穴〟ね?」

 直径で一メートルほどの漆黒の球が、収穫を終えた畑の(きわ)に浮いていた。そこだけ墨を流したような球状の空間は、外からの光も逃がさないのか、中は見えない。

 木柱に吊られた裸電球の光に、楕円の影が出来ているのがシュール(奇怪)だった。

「いきます……」 岬の他、息を呑む一行に背を向け……、「付いて来てください」

 スーパーバイザーは先に立って黒い球に近付いていく。と、傍らに立つ間もなく、あっと言う間もなく穴に吸い込まれてしまった。


 ――えっ? ……えぇぇっ⁉


 ちょっと思っていたのとは違った潜り方――もっと自分の動作で入っていくものだと思っていたのに…――に驚く(ひま)もそこそこに、鈴華もまた、球に吸い込まれていた。



 それから、なにが何やらわからない瞬間を()ると、次の瞬間には、一行は薄暗いどこか――おそらくは〝穴〟の中なのだろう…――にいた。

 鈴華が目を瞬かせ、辺りの様子を窺うと、周囲に人影が3つ……。

 え? と、人影ひとりひとりに目線をやって、その中に和子が居ることを確認すると、鈴華は声を上げていた。

「和子⁉ ちょっと、あんたなんで……? なんであんたも来ちゃってるの⁉」

「そりゃ来るよ」

 悲鳴にも似たその鈴華の声に対し、和子の声の方はわりと平静なものだった。


 鈴華はゆっくりと頭を巡らすとスーパーバイザーを見やり、どういうこと、というふうに目で訊いた。

 スーパーバイザーは、え? 何か問題が? と不思議そうに首を傾げ、両手を広げて返してきた。

 鈴華は息を吸うと、声を大にしてスーパーバイザーに詰め寄った。

「この子はダメ! あぶないことに巻き込めない‼」

 言い寄られた方のスーパーバイザーは、え? え? と困ったような表情で鈴華と和子との顔に目線を往復させる。


「鈴華……ねぇ、ちょっと……」 和子はそんな二人に割って入った。「…――鈴ぃ華っ‼」

 けっこう強い語調で割って入られ、鈴華は首をすくめるように和子に向き直る。

 和子は真っ直ぐに鈴華を見て言った。

「あんたが来て、あたしが来ないなんて理由はないよね?」

「…………」

 鈴華が言葉を選び始めると、業を煮やしたように問い重ねる。

「じゃさ、あたしが高橋のためにここに来ることになったら、鈴華は来ない?」

「……来たよ」

 それに対する答えは即答だった。

 和子は頷いた。

「でしょ? だからあたしも来たんだよ」

「…………」

 それでも鈴華が伏し目がちとなると、和子はいよいよしっかりとした語調で訊き直す。

「鈴華。あたしは鈴華の何だ?」

「……〝腹心の友(しんゆう)〟」

 そう応えて面を上げた鈴華の目を念押しするように覗き込んで、和子は確認する。

「やっと思い出した?」

 鈴華は頷いて返した。その目に感謝と涙が浮かぶのを見て、和子ははっきり照れた表情で笑うと、いつの間にか二人から離れてこの先の様子を窺っていたスーパーバイザーの横に立つ人影を指して言う。

「じゃ、いこ。もう来ちゃったし、岬があんたを待ってるし」

 岬は二人を振り見やっている。


 鈴華は、もう一度頷いて、目の端の涙を手の甲で拭って言った。

「和子、ありがと」

 二人はどちらからともなく笑って、それから小走りになって、先で待つ岬とスーパーバイザーに追いついた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ