第17話 強襲
何でもない日
今日は帰ったら新しい能力の使い道でも考えようかと思いながら一日を過ごす。
もしハイネから依頼が回ってきても無視してやろうかと思いながら午前の授業を受けていた時、
クラスメイトの数人が倒れる。
クラスがザワザワし始める。
何か持病が同時に発動でもしたのか。
まあそれは無いとしても...
あの数人に共通することはなんだろうか。
特徴などを考えてみる。
性別...男女共に倒れている。
体力...特段低い訳でもない。
思いつかないな。
ふと外を見る。
そこには、なぜ気付かなかったのか疑問になるほど異常な光景が映っていた。
"学校の外"が無い
学校の敷地内まではいつも通り何も変わらない。しかしその先、本来街があるはずの場所には何も無い。地面すらも。ただただ虚無が広がっている。
間違いない。これは外部からの攻撃だ。
同時に先程倒れた数人の共通点が分かった。
"探知系能力"だ。
きっと大量の情報を流し込まれたか、妨害する能力なんかがあるのだろう。
ここで放送が流れる
「この学校は襲撃を受けている!全員体育館に避難しろ!戦闘力に自信のあるものは体育館の守護、避難誘導、そして敵勢力の撃破をしろ!絶対に死ぬんじゃないぞ!」
これは、鈴先生の声だ...!
しかし、言い切ると同時に爆発音が響き、放送が切れる。
音の発信源は...放送室だ。
(死んだ?鈴先生は?いやそんな...……)
直ぐに教室はパニックになる。
その状況が逆に私を冷静にさせた。
周りがパニックになるほど逆に自分が冷静になれるというアレだ。
こんな放送が流れれば誰だって恐怖する。
今私がするべきことは鈴先生の安否を心配することでは無い。
「聞け!キミたちは心配することはない。何故ならこのクラスには、この私がいるから!」
途端に全員が落ち着きを取り戻す。
当然だ。このクラスには金虎がいるのだから。
何処からか戦闘音が聞こえる。各地で襲撃者との戦いが勃発しているな。
とにかく、私が今考えるべきことは、どうやってクラスメイトたちを無事体育館まで送り届けることだ。
この学校は同じ場所にクラスが固まっている訳では無い。クラスによって、階が違うし、なんなら棟まで違うクラスすらある。だから体育館へ集合というのは各地から集合するような形となる。
あと、なぜ1箇所に集めるのかというと、恐らく、政府から潜入してる教員の中に不可侵の領域を作る能力者がいるのでその能力で守るためだろう。
廊下に出て様子を確認しようとドアに近付いた時、ドアが破壊され何かが突っ込んできた。
"灰色がかった白い油ぎった肌はまるで目のないヒキガエルのようで、その皮膚は伸縮自在に形を変える。鼻にあたるであろう部分にはピンク色の短い触手が生えている。"
この特徴...聞いた覚えがある。
なぜこんな所にいるのか分からないが...なるほど、これを使役してるやつが黒幕だな。
さっさと倒すか。
ドアに近付いた時点で窓越しに認識はしていたので、応戦が間に合う。肘と膝で槍を受け、そのままへし折る。
カエル野郎が驚いている間に、拳を叩き込み、その勢いのまま風で遥か彼方へと吹き飛ばす。
そして、廊下に出てみるとなんとそこには数十体の化け物がいた。さっきのカエル野郎だけじゃない。不定形の生物かも分からないようなやつや、甲殻類のようなやつ。まあとにかく多種多様なやつらがいた。
そんな馬鹿なことが有り得るのか?
ウチに偏ってる場合を考えなければ、馬鹿みたいに広いこの伊古奈特設学校全域に、この量をお届けしていることになる。
通常の能力では不可能だ。
しかし、現に数十体が廊下に居る。
実際に出来てしまったのだからまあ、出来る能力があったんだろう。
クラスの奴らを1列にして護送しながら...と最初は思っていたがこの量では、前後を守りきるのは不可能。それに私がこの量と戦って勝ち切れるかどうか分からない。私を突破されたらあとは蹂躙だ。自信が無い訳では無いが、リスク管理ってものがある。40人程の命を預かるのだ。安全策を取るべきだ。
そういえばこのクラスにはもう一人戦えるやつが居たな。レーズン、ちょっと前に戦ったことがある。レーズンに殿を務めさせれば...あれ、いないぞ。
……ああ、確か21組の八重とかいうやつにストーキングしてるから多分そっちに行ったな。
これは困った。
廊下を通るのは諦めるか。
「うわぁ、校庭にも大量にいるぞ」
誰かがそう呟く。
いや、そうか。そもそも陸路である必要は無い。
私が選んだのは空路だった。風で体育館まで安全にお届けだ。
人を風で運びながら時折教室に入ってくる化け物との戦闘。かなり疲れたがやり切った。
体育館には既に何個かのクラスが到着していたようだが、それほど多くない。
避難誘導を手伝った方が良いな。
少し、休憩したら行こう。そう思い、廊下に座り込む。
外を見れば、鳥みたいな生物が空を飛んでいた。
あんなのが来る前に空輸を済ませて良かった。
というか倒しても倒しても、数が減るどころか、増え続けている。このままでは物量で押されるてしまう。元を絶たなくてはならない。
どれだけの人数が戦っているのか知らないが、きっと負傷離脱で今も数が減り続けているだろう。私も休んでいる場合では無いな。
そういえば鈴先生は生きているのだろうか。
そう思い立ち上がったところで視界の隅に人影を確認する。
ピンク髪の少女だ。逃げ遅れだろうか。
「逃げ遅れたのかい?お姉さんが体育館まで連れて行ってあげよう」
反応が無い。顔を伏せているため表情が読み取れない。
何か...不気味だ。
ピンク髪の少女は動き出す。
それは蒼く、虚ろな眼をしていた。
「その身体……あなた...ダレ?」
私の全ての感覚が逃げろと告げている。
こいつは……ヤバい!
その場から飛び退く。
しかし、右足が動かない。
見れば私の右足にはリボンが結び付けられていた。
「逃が...サナイ...!」
気付いた時には両腕両脚にリボンが巻き付けられ、大の字の状態で拘束を受けていた。
...オイオイオイ、認識出来なかったぞ。
「この拘束、解いてくれないかなぁー。お姉さんちょっと苦しいな〜」
相手が人間ならまだやりようがあるはずだ。
能力を使うべきか?使ったところで逃げ切れるのか?そもそも何処へ逃げる?
「その顔、その声で喋るなッ!」
首にリボンがかかり、一気に締め上げてくる。
即座に能力を発動し拘束から逃れ、床をすり抜けて1つ下の階に行く。
1分以内に撒かないとまた捕まるな。とりあえず別の棟に移動するか。
そう思い1歩足を踏み出そうとした時、全身に鳥肌が立つ。
「嘘...だろ...!」
今確かに能力を発動し、私の体はあらゆるものがすり抜けるようになっているはずだ。
この状態の私は、なににも干渉を受けない。
そのはずなのに...
なんで足にリボンが巻かれている...!?
「違う能力なんだ。じゃあ、あなたは...なんなの?」
破壊の痕も無く1階分下に降りてきてやがる。
能力者なのは間違いない。だがなんだ?この異様な雰囲気は。
ダメだ。リボンが振りほどけない。能力ですり抜けることも出来ない。
拘束が全身を覆っていく。
ここまで何も出来ず敗北するのは始めてだ。
スラム街で戦っていた日々でも、賭博試合でも、ハイネとの戦いでも、一方的にやられたことは無かった。
でもこのピンク頭は格が違う。
ハイネを見た時、あいつは別格だと思った。だがこいつはそれ以上だ。
そもそも人間なのか?分からない。
私...俺はこのまま死ぬのか?
新しい人生を始められたことで調子に乗っていた天罰が下ったのだろうか。
いやそれでも、俺はこのまま死ぬほど諦めがいい訳じゃないぞ!
ここで俺は俺自信の限界を超えてやる!
もうすぐ能力使用限界の1分がやってくる。
この1分という制限時間は、それ以上使うと存在が不確定性が強くなり、俺が消えてしまうのだ。
だが、今ここでその限界を超える。
「賭けようぜ...どっちの運が上か!」
1分だ
俺の身体がどんどん透明になっていく。
同時に拘束が解ける。
「自滅?まあいいわ。偽物は速く消えなさい」
抗え...!
イメージしろ!
限界を超えた自分を!
「グッ...ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッ!!!」
身体中に激痛が走る。痛みのあまり視界が狭窄していく。耳鳴りもする。意識が飛びそうだ。だけど、ここで倒れるな!こんなもの乗り越えろ!
「ッ!?その眼!まさか、そんな!?」
ピンク頭がなんか言っているが聞こえない。
視界が...景色が暗くなっていく...
意識が持たない...ああ、俺はダメだったのか。
結局何も出来ないまま俺は...
気が付くと俺は廊下に立っていた。
「俺は何を...俺?」
...一人称が元に戻ってる?
ここはどこだろうか。
辺りを見渡せば、ここは空き教室の前だ。
そして、丁度俺の教室の真下だな。
空が赤く染まっている。どうやら夕方のようだ。
俺は今まで何をしていたんだろうか。
今日あったことを思い出してみる。
朝、上機嫌に登校し、午前中の授業を受けていると……そうだ。数人ほど倒れたんだ。
そして、学校が襲撃を受けているという放送...ああ、俺がクラスメイトを体育館に運んだんだったな。
それから……それから…………?
記憶が...無い?
襲撃が大体10:00くらいで、運び終えたのが10:30くらい、そこから今17:00までの記憶が丸ごと無い。
襲撃はどうなった?鈴先生は生きてるのか?
良く考えれば自分以外の心配事がポンポン出てくる。とりあえず、何処か人がいる所へ行こう
校舎を出ると何人か話し合っている人達がいる。
その中にはハイネの姿があった。
「ハイネ!無事だったんだ!」
「アキラ!?お前...!今までどこ行ってたんだ!?」
とんでもない驚き方をしている。
この世のものとは思えないもの見たような顔をしている。
「心配してたんだぞ!」
「鈴先生は?放送室が爆発したけど鈴先生は生きてるんだよね?」
「鈴?五体満足で生きてるし、怪我人の治癒をしてるが...、いやそうじゃなくてお前はどこに行ってたんだよ。行方不明者リストに入ってたんだぞ」
これは落ち着いて状況を整理した方がいいな。
俺の記憶がない内に結構色んな事が起こってそうだ。