第13話 激突
「...なんで、鈴先生が?」
「今回ばかりは死人が出そうだから」
まさか鈴先生が立ち合い人をするとは思わなかった。
校舎の中から大量の生徒が中庭を見ている。
ここまで人が集まったのは初めてだ。
「それで新聞部長さん。銀狼は?」
「もう現れるはずだよ」
重役出勤かよ。
ていうか、今回も仮面付けて戦うのか?
新聞部長は銀狼の正体知ってるんだよな。私も知りたくなってきたぞ。
「待たせたな。」
目の前に狼の仮面をつけ、銀色のセミロングの髪をたなびかせた女が立っていた。
周りから今日一番の歓声が上がる。
やっぱ人気はあっちが上か。
賭けのオッズも私の方が高いらしいしな。
「その仮面付けたまま戦うつもり?」
「いや、今回は取るぜ」
会場がどよめいた。
まさかアイデンティティの仮面をとるのか!?
銀狼が仮面を投げ捨てる。うつむいていて顔が見えない。
銀狼が髪をかき上げる。
その顔を見てこの場にいる全員が驚愕する。
そこにあったのは私の顔だった。
「どうだ?驚いたか?」
「どういうこと?」
「はっはっは、知り合いに顔を変えてもらっただけだ。もちろん本当の顔はこれじゃない」
しかし本当に驚いた。突然美少女が現れたから。そこらの一般少女だったら卒倒してたところだ。
冗談はさておき、私は鈴先生に目配せをする。準備OKだ。
「じゃあ、準備はいい?」
「ああ、いいぜ」
「いつでもどうぞ」
「じゃあ、笛の合図で」
ポケットから笛を取り出すと思いっきり息を吸い込み、ピィィィーーーー
目の前にはすでに銀狼がいる。
腕を前でクロスし、防御の姿勢をとる。
アッパーで腕を吹き飛ばされ、追撃が飛んでくる。
防御は間に合わない。回避だ。
銀狼の右ストレートを大きく体を仰け反らせて何とか避ける。
一旦態勢を立て直したい。そのまま蹴りで牽制をしながら、バク転で大きく距離をとる。
当初の見立て通りこいつはスピード系だな。ぎりぎり最初の接近が視認できた。
歓声があがる。
「銀狼が一撃で倒せないなんて!」
ああ、そういえばこいつは今まで全部一撃で相手を倒してたらしいね。
「初撃はしのぎ切ったけど、どうかな?」
「どうって...まあ、この学校じゃ初めてだな。できれば一撃で決めたかったけど...な!」
言い終えると同時に高速で移動し始める。
速い。が、見えないほどじゃない。全部対応して見せる。
右、後ろ、斜め上、左後ろ、全方向から神速の攻撃が飛んでくる。
対応するので手一杯...でもないな。こいつの拳はあまり威力が乗ってない。
その程度なのか...いや、どちらかというと、手加減をしている?
少しづつだが威力、速度ともに上がっている気がする。
そろそろ危険域に入りそうだ。
反撃の時間だぜ。
防御の代わりに銀狼をつかむ。
心底驚いたような顔をした。
片手を掴んだまま顔面を連続で殴る。
スピードタイプの能力者ならこのラッシュで倒せるはずだ。
しかし、この違和感はなんだ?
気絶するどころか...笑ってる?
突然、とてつもない力で投げ飛ばされる。
ああ、痛い。私の身体が校舎の壁にめり込んでいる。
どうやら見立ては外れたらしい。
銀狼の能力はただのスピード系じゃなった。
上昇幅の大きい身体強化だったのか?
しかし、まともに貰ったのはこの一撃だけなのに、私のダメージは半端じゃない。同じくらいの攻撃を一撃でももらえば、私は気絶するだろう。
「何故能力を使わない?無敵になるんだろ。使うつもりがないのか?使えないのか?使う度胸もないのか?」
「...」
急に煽ってきたな。
誰がそんな見え見えの挑発に乗るかって。
「駄目か、なら本気にさせてやるよ。」
次の瞬間には拳が目の前にあった。
これを食らえば確実に死ぬ。
回避も、防御も、何も間に合わない。
「やっと使ったか」
「まさかこういう形で使わされるとはね...」
周囲に乱気流が発生する。
「金虎が嵐王モードを発動したぞ!」
周囲からまたも歓声があがる。
「さっさと決めさせてもらうよ」
「かかってきな」
周囲の風にのり、最短ルートで距離を詰め銀狼の顔面に向けて拳を放つ。
銀狼は私の攻撃に上手くカウンターを合わせてくるが、それが私に当たることはない。
銀狼の攻撃はすり抜け、私の攻撃だけが当たる。
このまま勝負を決めさせてもらう。
私はノーガードで銀狼を殴り続ける。
顔面からボディまで全てに全身全霊のラッシュを叩き込む。
銀狼の足に力が入る。これは...バックステップか!
「逃がさない!」
銀狼の足元の地面がすり抜け、足首まで埋まったところで止まる。
「こいつは、やばいな。」
ガードの態勢をとるが、私の攻撃はそのガードをすり抜けしっかり人体の急所へと突き刺さる。
ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ。
私の一方的な攻撃は1分間続く。
この戦いを見ていた観客は、誰もが勝負が決まったと思った。
しかし、1分が経ったとき、銀狼の手が私の首を掴む。
「継続時間は1分か?長かったぜ。」
「がっ、あっ...!」
気が付けば周囲に風は吹いていない。
とてつもない力で首を掴まれ、とても振りほどけない。
顔面が血だらけの銀狼はそれでも覇気を纏っていた。
このまま首を折られる...?
必死にもがくがどうにもならない。
「降参するか?」
「は、誰が!」
銀狼は私を地面に叩きつける。
衝撃で銀狼の周りの地面が壊れ、拘束は解除される。
意識が朦朧とする。
今私は倒れているのだろうか?平衡感覚が無い。
「私の、勝ちで良いか?」
「はぁ……はぁ...」
声が出ない、負けたくない、いやだ!
「ゴフッ」
突如銀狼が大量の血を吐き出し地面に倒れる。
どうやら、かなりダメージは入っていたらしい。
両者は互いにゆっくりと立ち上がる。
この戦い、最後まで立っていた奴が勝ちだ。
絶対に倒れない!勝つまで!
「はーい、そこまで。それ以上は先生として、見逃せないかな」
声の方を見れば鈴先生が立っている。
「おい!邪魔すんのか?」
「一応、先生だからね、私は。悪いけどここまでだよ。ハ...銀狼ちゃん。」
「チッ」
「アキラちゃんも、それでいいね」
声を出す余裕もなく、頷くだけしか出来ない。
「それじゃ、保健室行くよ2人とも。」
そう言うと、鈴先生は2人ともを担いで保健室まで運んでいってしまった。
かくして、世紀の対決"金虎"vs"銀狼"は引き分けで終わった。
引き分けと言っても、ほとんど銀狼の勝ちだ。
銀狼は戦いの後、話す余裕があった。
それに対し、私は意識を繋ぎ止めるだけで精一杯だった。
実際世論もそんな感じだ。
「そう...前に……てた、……さんに瓜………、あ、起きちゃ…………。うん、じゃあね、私も…してるよ。」
「え、鈴先生彼氏いたの?」
「ノンノン、彼氏じゃない。旦那さんだよ。私は既婚者だからね。」
そんな……脳破壊だ。