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第2話 魔女と精霊


「リフィーリアのことを、リフィと呼ばせてもらってもいいかしら?」

「ええ、もちろんです」

 リリアの行き先は、王都から少し離れた領地、ルイーシュ。

 王都の次に美しい景観で有名で、リリアの父がルイーシュの領主なのだとリフィーリアは馬車の中で知った。

「本当は護衛もいたんですけれど、タイミング悪く調子を崩してしまって……迂闊(うかつ)でした、私もまだまだ未熟ですね」

 先程の恐怖心をなかったかのように、明るく振る舞う彼女は気丈なのだろう。

 ──人の世は本当に物騒ですね。

 ふとリリアは薔薇色の瞳をリフィーリアに向け、真剣な顔つきで言った。 

「リフィ。助けていただいたあの時……、あの風は魔法ではありませんでしたね」

 

 (──魔力の流れがないことに気が付かれましたか。

 才能があるのですね。あの短時間では無理だと踏んだ上で風精に協力を仰いだのですが。)


「それは……秘密ということで」

 少し悪戯っぽく微笑む。こうすれば、大体の人には触れてほしくないのだと理解してもらえる。

 長い時を経てリフィーリアは少しずつ、自らの感情も精神すらも全てが人間という存在から変質してしまっていた。

 一時は取り繕うこともせず、ただ一人で全てをこなしていた時もあったが。

 人と触れ合っておいた方がのちに有利に働くこともあると知ったリフィーリアは、今ではある程度の体裁を取り繕うようになっていったのだった。


「あら。……いいえ、いいんです。少し気になっただけなの」

「お気遣い、ありがとうございます」

「恩人に謝らせるほど私は冷たくないですよ」

 その後の会話は他愛もないものが続き、二日かけてリフィーリアとリリアはルイーシュにたどり着いたのだった。


『おかえりなさいませ、お嬢様』

 屋敷に入るや否や、ずらりと玄関に並んだ執事やメイドたちが頭を下げる。

「ただいま帰ったわ、お父様はいらっしゃるかしら」

 リリアの声に一番年長者らしき執事が答えた。

「はい、執務室にいらっしゃいます」

「では呼んできてちょうだい。こちらは客人よ、丁重に扱って」

「かしこまりました、リリア様。エイス、お客人を」

「はい」

 リフィーリアはエイス、と呼ばれたまだ若いメイドに客間まで案内され、そのままお茶を注いでもらう。

 エイスが退室し、部屋にはリフィーリア一人が残された。

 案内された客間は貴族の屋敷にしては質素に見える部屋だが、細かく施された装飾は明らかに職人が施したものだ。

 その繊細な模様と丁寧な仕上げは、価値が分かる人が見れば思わず感嘆の息を漏らしてしまうほどの品だった。

 お茶を嗜み、少しして。

 客間のドアがノックされ、リリアと眼鏡をした柔らかそうな物腰の男性が入ってきた。

「やぁ、初めまして。君がリフィーリアだね、私の娘を助けてくれたと聞いたよ」

 リフィーリアは立ち上がり、貴族の礼をする。

 とても平民とは思えぬその美しい所作にリリアの父は少し目を見張ると、笑顔を浮かべリリアとリフィーリアに座るよう促した。

 そして、リフィーリアに茶色い小袋を差し出す。

 中からは金属同士が擦れる音がする、道中の護衛の給金だろう。

「ありがとうございます」

 こういうものは断るものでもない、リフィーリアは礼を言い素直に受け取った。

「いや、いいんだ。娘を助けてくれて、さらに娘のワガママに付き合って護衛までしてくれた方に何も出さないわけにはいかない」

 

 そうして彼は少しお茶を含み、真剣な顔つきになるとリフィーリアに向き直った。

「さて、本題なのだが。少し君について聞きたいことがあるんだ、いいかな」

「ええ、もちろんです」


「君はなぜ路地裏に居た?」

 それは、と反論しようとするリフィーリアを遮りリリアの父は続ける。

「王都の街外れ、あそこに本来なら人はならず者達しか居ないはずだ。君みたいな旅人の魔術師が居るような場所ではない」

 沈黙を挟み、リフィーリアは少し返答に迷った末に答えた。

「……たまたま迷い込んでしまった、というのもあり得るのではないのですか」

「ああ、そうだね。だがね、まず誘拐しようとする(やから)は必ず音を遮断する結界張るんだ。基本的にそれを貫通して声が聞こえることはない。娘もパニックでそれに気が付かなかったようだしね。だが君は娘の声を聞いて駆けつけた。姿を見ずに魔法を撃ったというのだから間違いないだろう? それを君はどう説明する」


「……そうですね。信じてもらえるかわかりませんが、お話ししますか」

 突然雰囲気が変わり、冷めた目で見つめてくるリフィーリアにリリアの父は怪訝な顔をしつつも、頷き話の続きを促した。


「精霊。分かりますよね? 私は彼らと契約しているんですよ」


 その言葉に、リリアの父は目を見開く。

「まさか、そんな馬鹿な」

「そのまさかですよ。私は魔術師であり、そして精霊使いなんです」


 精霊使い。この世に存在する四代要素の精霊達と契約し、彼らに好かれ恩恵を受ける者達のことだ。

 風、土、火、水。リフィーリアの契約する精霊は最も人間と契約するのが稀であり、お目にかかることすらも幸運だと呼ばれる"風"の精霊。

 精霊は万物に共通する、魔法を貫通するため未知数であり最強だとも言われる。

 風精が届けるのは音であり、人々の話す声達をどれだけ遠くあろうとも風に乗せて精霊使いの元へと運ぶ。


「しかも、風? そんな人間が居るとは、だとしても何の情報も入ってきていない……」

「ええ、だからこのことは内密に。私としてもあまり大事にしたくないんですよ」

 部屋に張り詰めた空気が漂う。

 リフィーリアからの今にも押し潰されそうなほどの空気の重圧感にリリアの父は首を振ると、言った。


「分かったよ、すまなかった。大事な娘を囮に何かしようとする輩の仲間かと思ってね、試させてもらったんだ。だがどうやら違うようだ、失礼した」

「分かってくれたならいいんですよ」

 そう言う彼の隣で、リリアがほっとしたように呟いた。

「ああ、よかったですわ。助けてくれたリフィが変な輩だとは思えませんでしたので」

「……リリアさん」


「そうですわ! リフィ、よければ少しの間この屋敷で泊まっていきませんこと? 魔術に詳しいリフィに先生をしてもらいたいですわ、学園の課題がありますの!」

「リリア……お前はそう何故勝手に」

「何ですのお父様、文句があるんですか? 恩人にお礼をするチャンスを逃すわけにはいきません、いいですよねお父様」

「……リフィーリアさんは、どうだい」


「え、ええ。リリアさんがいいなら別に構いませんけど……」

「やった! リフィ、よろしくね。私のことはリリアと呼んで頂戴!」 


 そうして、リフィーリアはリリアの屋敷に泊まり、魔術の先生として雇われることになったのだった。




 

 




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