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愛すべきお嬢さん
あの日、貴女は風のように駆けていた。
一歩でも前へと……。
勝利へ向かって。
鬣に着けられたポンポンが弾む。
その背中に信頼する騎手を乗せて……。
突然、貴女を襲った痛み。
転倒してもおかしくないスピードだった。
でも……貴女は襲いかかる痛みを堪えてスピードをゆっくり落とした。
鞍上を守るかのように……。
下馬した彼は人目も憚らず泣いていた。
彼の一面だけを見て批判する人も多いが、涙もろく笑顔が多いのを貴女も知っていたよね?
貴女の勝利を涙を流して喜んでいたのだから……。
もう貴女の走る姿を見る事は出来ない……。
貴女の仔の誕生を今か今かと待ち望む事も出来ない……。
今はただ、貴女の冥福を祈る事しか出来ないのが悲しくてつらくてどうしようもないけれど……。
たくさんの花の咲く天国で思いっきり駆けていてください。
貴女の背にいた鞍上の無事と勝利を見守ってやってください。
たくさんの感動をありがとう。
強く気高く美しい貴女を忘れない……。