第二話 倒れた橋
カルマ村の朝は早い。太陽が昇る頃には、村人たちは畑や家畜の世話に取り掛かっている。シンもまた、その一員となりつつあった。
「シンさん、ちょっと!」
小屋の掃除をしていたシンに声をかけてきたのは、村の若者リークだ。額に汗をにじませ、何か焦った様子である。
「どうしたんだ?」
「村の東にある橋が壊れちまったんだ!昨日の雨で流されたらしいんだけど、あそこがないと川を渡れなくて困るんだよ!」
リークの話によれば、その橋は村人が自力で作ったもので、近くの森から木を切り出して架けていたらしい。しかし、老朽化もあって耐えられず、増水した川に流されてしまったのだという。
「このままじゃ、畑の収穫物を運ぶのも一苦労だし、他の村との交易も止まっちまう!」
「なるほどな……」シンは腕を組んで考え込む。橋を直すには、まず流された材木を回収し、新たな木材を集めなければならない。しかし、それだけでは強度の問題が解決できないだろう。
「わかった。俺に任せてくれ」
シンは早速、現場へ向かうことにした。
壊れた橋を目にしたシンは、思わずため息をついた。想像以上に大きな被害だ。橋は完全に崩壊しており、材木の一部は川下に流されている。
「これ、結構手間かかりそうだな……」
リークと他の村人たちも集まり、材木を回収しようと川に入るが、水流が強くて苦戦している様子だった。
「よし、まずは材木を確保しよう。俺が何とかする」
シンはスキル「何でも屋」を発動させる。頭に思い描いたのは、簡易的な水流を遮るためのバリケードだ。川辺に転がる大きな石や木の枝を使い、シンは手際よくそれを作り上げた。
「これで流れが少し緩くなったはずだ。さあ、今のうちに材木を引き上げよう!」
村人たちはシンの工夫に感心しながらも、一斉に材木の回収を始めた。
材木の回収が終わると、シンは次の計画に取り掛かった。単純に元通りの橋を作るだけでは、また同じように壊れてしまう可能性がある。
「強度を増すには、どうしたらいいだろう……」
頭の中で考えを巡らせた末、シンは答えを出した。「木材だけじゃなく、石を組み合わせて支柱を強化しよう」と。
彼は村人たちと協力し、森から丈夫な木を切り出し、川辺の石を集め始めた。切り出した木材を加工し、石を積み上げて橋脚を補強する。スキルを駆使して、シンは作業を効率的に進めていく。
数時間後、新しい橋が完成した。それは以前のものよりも丈夫そうで、村人たちも大満足の様子だった。
「シンさん、ありがとう!これで安心して使えるよ!」
リークが満面の笑みで感謝を述べる。シンもまた、初めてこの世界で「自分が役立った」という実感を噛みしめていた。
「大したことはしてないさ。でも、これで少しは村の役に立てたなら嬉しいよ」
「いやいや、大したことだ!あんたがいなかったら、どうにもならなかった!」
村人たちは口々にシンを称賛し、彼への信頼が一層深まった。その夜、村ではささやかな宴が開かれ、シンはその中心で祝福を受けた。
その夜、月明かりの下で一人静かに空を見上げるシンは、自分のスキルの可能性を思い描いていた。
「これからもっと色々なことができるようになりたいな……」
まだ見ぬ世界に思いを馳せながら、シンの「何でも屋」としての成長は、少しずつ始まっていた。




