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黒の烙印  作者: 猫宮三毛
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第三十八話〈力の差〉

「何だこの力は……」


 ルシアの剣を受けるサーライトの表情が歪む。

 光の力をまとったルシアの剣によってサーライトの魔法障壁(マジック・シールド)には亀裂が入り始めていた。

 シオンとシーナもその好機を見逃さなかった。シーナの放った炎の矢にシオンが電撃魔法を重ねると雷光をまとう火竜となってサーライトの魔法障壁を打ち砕いた。


「逃さないわ!」


 シールドを破られたサーライトは後退するがルシアの追撃に追われ、砕け散った窓へと更に後退する。


「⸺!?」


 見えない壁がサーライトの後退を阻んでいた。

 ルシアの放った突きを辛うじてかわしたが、それはサーライト左の脇腹を抉った。


「相手はルシアだけじゃないって言ったはずよ!」


 間髪入れずにシーナが飛びかかりダガーによる連撃を叩き込むがことごとく弾き返される。


「調子に乗るな! 小娘が!」


 シーナの腹部にサーライトの手が添えられたと思った瞬間、部屋全体を揺るがすほどの衝撃波が放たれシーナの背後の壁が吹き飛ぶ。しかしそこにシーナの姿は無かった。

 彼女は衝撃波が放たれる直前で地面を大きく蹴り上げると射線上から外れるように宙を舞って飛び退いていた。


「こっちよ!」


 シーナが複数の矢を同時に放つ。


「そんな物が通じると思うか!」


 サーライトが矢に向かって火球を放つと、彼の足元に真紅の魔法陣が現れる。サーライトが横目にシオンを見た。

 足元に現れた魔法陣は炎の柱となってサーライトを飲み込んだ。シオンの火炎柱(フレイム・ピラー)だった。


「どうだっ!」


 シオンが声をあげる。

 燃え盛る火炎柱の一部が一瞬揺らいだと思った瞬間、シオンは右肩に鋭い衝撃を受けてその場にしゃがみ混んだ。

 右肩を押さえた手の隙間から血液が溢れ出していた。


「シオン!」

「くっ……ダメか」


 地に膝を付くシオンの前にルシアが立ちはだかると、火炎柱が消し飛びサーライトが姿を現す。


「この程度で私を倒せると思ったのか? 笑わせてくれるな」

「そうかしら? 傷が塞がっていないみたいだけど?」


 サーライトが自らの脇腹に目を向けると、ルシアの攻撃によって抉られた傷がそのまま残されていた。

 辺りを見回す素振りを見せてから彼は舌打ちをした。


「ベルトールめ……そういうことか」


 部屋全体が淡く輝くように見えたのは気のせいではなかった。ベルトールは部屋全体強力な結界で包み、サーライトの力を弱体化させ、逃れられないように部屋に隔離していたのだ。


「もう再生はできないみたいだね。それなら僕たちにも分はあるかな?」


 シオンが肩の傷に治癒魔法をかけながらとぼけた様子で立ち上がる。

 

「ぬかせ。分かっていればお前らの攻撃などどうとでもなる」

「それなら試してみましょうか?」


 そう言うとルシアが地面を蹴る。

 ルシアの連撃がサーライトを襲い、彼はそれをことごとくかわして見せた。


「今度は逃げてばかりね! 傷付くのが怖くなったのかしら?」

「口の減らない小娘が! ならば望み通りのしてくれる!」


 サーライトが突然ルシアの目の前から消え、細剣が空を切った。


「後ろだルシア!」


 シオンが複数の硬石短矢(ロック・ボルト)をサーライトの背中に向かって放つ。

 サーライトは見向きもせず同じ魔法を後方へと放った。遥かに上回る数の硬石短矢はシオンの放った魔法を全て撃ち落としシオンをも襲った。


「時間稼ぎにもならないのか!」


 シオンが張った魔法障壁にサーライトの魔法が降り注ぎ、シオンの魔法障壁を激しく揺るがした。気を抜けば魔法障壁が打ち砕かれ自らに降り注ぐことは必至だった。

 そしてルシアの背中サーライトの鋭い爪が振り下ろされた。

 けたたましい金属音が鳴り響き、ルシアは態勢を立て直すとサーライトから距離を取った。


「させるわけ無いでしょ!」


 サーライトの攻撃はシーナの両手に持ったダガーによって防がれていた。しかし彼の力は凄まじくシーナは押し切られる寸前だった。


「いい覚悟だな、奴の代わりに死ぬか?」

「そんなわけ……ないでしょう?」


 強がってはみたものの苦悶の表情を浮かべ、その両腕は小刻みに震えていた。サーライトの鋭い爪は彼女の瞳に触れる寸前まで迫り、その瞬間を楽しんでいるように見えた。


「どうした? 震えているぞ、このまま目玉をえぐり出してやろうか?」

「できる……ものならね」

 

 瞳と爪の間には紙切れ一枚の隙間も無いがシーナはサーライトと睨み合ったまま堪えていた。

 サーライトは蔑んだ表情で鼻を鳴らすと更に力を込めようとしたが突然その場から飛び退いた。彼と入れ替わるように、その場を白銀の雷霆(らいてい)が走り抜けた。


「貴様……何をした」


 サーライトは突きを放った体勢のままのルシアに目を向けてから、光線が当たった壁に目を向ける。

 それはベルトールの張った結界ごと壁に風穴を開けていたが、結界は彼らの目の前でゆっくりと修復していった。

 サーライトが再びルシアへ目を向ける。


「おしゃべりは嫌い、そうじゃなかったかしら!」


 皮肉と同時に一瞬で間合いを詰めたルシアの鋭い突きがサーライトを襲うが、彼は薄ら笑いを浮かべながら体を捻って攻撃をかわす。しかし横薙ぎの剣閃が再びサーライトを襲う。


「なっ!?⸺」


 サーライトが咄嗟に張った魔法障壁は白銀の光を宿した細剣の前に抵抗もなく砕け散り、彼の胸元を真一文字に切り裂き、鮮血を宙に散らせた。

 

「油断したわねサーライト」

「舐めた真似を……」


 サーライトはルシアたちと距離を取って部屋の中央へと移動すると声高に笑い始めた。


「遊びが過ぎたようだな。だがもう終わりだ」


 サーライトが両腕を広げると、その体は宙に浮き上がり黒い雷光が空間を引き裂くような破裂音と共に全身を駆け巡った。


「何をするつもりだ!」


 シオンが氷槍(アイス・スピア)を放つがサーライトを覆うように現れた黒い靄に溶けるように飲み込まれた。シーナの炎を宿した矢も同じように飲み込まれる。


「あれに近付いてはダメよ、嫌な予感がするわ」


 シーナの言葉に三人は一箇所に集まりサーライトの様子を伺う。

 やがてサーライトの周囲に広がった靄は彼を中心に集束した。


「二人とも私の側に!」


 ルシアが叫ぶと同時に集束した靄が高い破裂音と共に破裂し、極小の刃となって部屋全体に弾け飛んだ。刃はベルトールの結界に突き刺さり甲高い放電音を響かせていた。それはルシアが咄嗟に張った魔法障壁にも無数に突き刺さっていた。

 ルシアの額に汗が滲む。


「神に祝福された聖なる力がそんなものか?」


 シオンとシーナがルシアの魔法障壁から飛び出し攻撃の構えを取ろうとすると、サーライトは静かに右手を前方に突き出す。


「無駄なことをするな、終わりと言ったはずだ」


 突き出された手が握られると、壁や魔法障壁に突き刺さった無数の刃は激しい閃光と共にルシアたちを巻き込んで炸裂した。爆煙が部屋を包み視界を遮った。

 ゆっくりと煙が晴れる中、サーライトの笑い声が部屋に響いた。


「始めからお前らに勝ち目は無いと言ったはずだ。ベールトールも無駄なことをしたが、お似合いの幕引きだ」


 完全に煙が晴れるとルシアたち三人は静かに床に倒れていた。

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