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黒の烙印  作者: 猫宮三毛
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第三十七話〈サーライト〉

 リリアの首飾りに付いた魔石には、見落としてしまうほどの小さな光が宿っていた。


「!?⸺」


 その輝きにサーライトが気付いた瞬間、耳障りな高音が鳴り響き眩い光が瞬く間に部屋を包み込んだ。

 ルシアたちは光の中でサーライトに剣を振るう少女の姿を見た。


「っく!……なんだ今のは」


 咄嗟にリリアの側から飛び退いたサーライトが床に膝を付いたまま顔を上げて呟く。

 椅子に目を向けるがそこにリリアの姿は無い。


「リリアは返してもらったわ」

「好きにしろ。今死ぬか後で死ぬかの違いだけだ」


 シーナによって助け出されたリリアは入口脇の壁にもたれるように座らされていた。

 ルシアがサーライトに向かって細剣の向けると同時にシオンも詠唱を開始した。シーナはリリアの側から雷光をまとった矢を向けていた。


「決着をつけさせてもらうわよ、サーライト!」

「小細工にも飽きていたところだ。相手になってやろう」


 ルシアが動き出すと同時にシーナの矢とシオンの魔法が放たれる。

 彼らの攻撃が達する直前、サーライトが前方に手をかざすと矢と魔法は何もないはずの空間で阻まれ砕け散った。ルシアの突きも鋭い金属音とともに進行を阻まれた。


「この程度で決着とはな……お前らが死んでも決着は決着か」

「何とでも言いなさい。借りは返すわ必ず」


 ルシアの突きは依然として壁に阻まれていたが、見えない壁を突き破らんと彼女はさらに力を込める。壁に阻まれた剣先が震えていた。

 サーライトはその姿を蔑んだような目で見つめていた。


「諦めろ。意味のないことだ」


 サーライトもかざした手に力を込める。

 彼を中心に凄まじい衝撃波が発生し、部屋の調度品は吹き飛び窓ガラスも粉々に吹き飛んだ。

 ルシアも吹き飛ばされたが、シオンが受け止めて魔法障壁(マジック・シールド)を張る、シーナは壁際でリリアを庇うように屈んでいた。


「脆弱な……真実を知ったところで力なきお前らにできることなど無い。ここで朽ち果てろ!」


 サーライトが突き出していた手に黒い靄がかかったかと思うと、広間の中央に空間に穴が空いたかの様な漆黒の球体が現れた。それは放電するような音を立てて深紫色の光をほとばしらせていた。

 球体は周囲の物を見境なく引き寄せては飲み込む。ルシアたちも堪らえようとするが徐々に球体に引き寄せられていた。


「何なのよあれは! シオン、何とかならないの?」

「あんな物見たこともないよ!」


 シオンはそう言いながらいくつもの魔法を球体に放つが、手応えもなく飲み込まれるだけだった。


「ルシア! あいつの闇魔法に対抗できるのはあなただけよ!」


 リリアを庇うシーナが声を上げる。ルシアは困惑した顔でシーナを見てから、自分を支えるシオンの顔を見上げた。

 彼はサーライトを睨んだままルシアに答えるように小さく頷いた。


「何なのよ……あんなのどうにかできるほどの力なんて無いわよ。どうなっても知らないから」

「君が吸い込まれてしまっても、僕は必ず後を追うから大丈夫だよ」


 シオンは小さく笑いながら返事をした。


「何も大丈夫じゃないわ……」


 ルシアはシオンから離れると球体に向かって細剣を構える。刀身は淡い白銀の渦をまとい、徐々にその勢いを増していった。

 白銀の渦にサーライトが眉をひそめる。


「腐っても勇者の血筋ということか」


 球体は更に拡大し勢いを増す。ルシアたちの体が急速に引き寄せられ始める。


「サーライト! あなたには負けないわ!」


 ルシアの放った突きが球体とぶつかる。

 激しい放電音が鳴り響き、深紫色の火花と白銀の火花が飛び散った。


「小賢しい!」


 サーライトが更に力を込めようとした瞬間、球体は大きく膨らんだ直後に急激に収縮するとガラスが割れるような破裂音と共に霧散した。


「⸺!?」


 目を見開いたサーライトの目前に炎の龍が迫っていた。


「油断したわね! 相手はルシアだけじゃないのよ!」


 シーナの放った矢はサーライトの肩から首かけての一部を吹き飛ばし、さらにシオンが放った氷の槍は彼の全身を貫いた。


「ルシア! チャンスだ君がとどめを刺せ!」


 シオンの声にルシアはサーライトに向かって細剣を振るった。

 しかしサーライトは細剣を弾き返すと全身に突き刺さった氷の槍をかき消して笑いだした。


「面白い茶番だっただろう?」


 一部を吹き飛ばされ穴だらけの体のサーライトは何事も無かったように彼らに話しかける。

 そして掲げた手で指をひとつ鳴らす。


「再生……している」


 ルシアたちが驚きの声を上げる。

 サーライトの傷は見る間に再生し傷跡すら残っていなかった。


「こう見えても私は四天王の生き残りだ。この程度で倒せると思ったのか?」

「生き残り? 主の危機に駆け付けもしないで逃げただけでしょう?」

「口の減らない娘だ。まあ良い、終わりにしようか」


 サーライトが聞いたことの無い言語で詠唱を開始すると室内は禍々しい雰囲気に包まれ深紫色の膜に覆われた。

 ルシアが細剣に魔力を込めて踏み出そうとした瞬間、黒い蔓のような物が地面から勢い良く飛び出し彼女たちの脚と腕に絡み付き動きを阻害した。


「何よこれ!」

「これは……まずいよルシア」


 蔓に絡みつかれた部分は皮膚が黒く変色し熱を持ち始めていた。


「どこまで耐えられるかな。侵食は徐々にお前らの体を蝕み、いずれは死に至らしめる」

「何なのよこれ……力が」


 ルシアの手から細剣が滑り落ちたかと思うと耳障りな高音が響き渡る。サーライトは突然苦しみ出すと両耳を手で塞いだ。


「何だこの音はッ!」

『サーライト、久しぶりだね。三千年は人にとっては長過ぎるよ』


 どこからともなく若い男性の声が聞こえた。周囲を見回すが人影は見当たらない。


「誰だ貴様は!」


 音が収まるとサーライトが喚いた。


『僕を忘れるなんて酷いな。主の弟は友人みたいなものだろう?』

「魔王様の弟……貴様、ベルトールか。どこに隠れている」

『誰も隠れていないよ。目の前に居るじゃないか』


 ルシアが足元に目を向けると床に落とした細剣の柄頭にはめ込まれた石が淡く輝いていた。


「ゼラから貰った石……」


 皆がベルトールに注目する中、室内に笑い声が響きわたった。


「勇者ベルトールが石くれに成り下がっているとはな」

『そうかい? 石は何もしなくて良いから気楽なものだよ』

「それより良いのか? 彼らの終わりは近いぞ」


 ルシアたちの侵食は両手足の付け根まで広がっていた。四肢の痛みに苦痛の声を漏らす。


『そうだね、それならお喋りはここまでにしようか。ルシア、シオン、シーナ、そしてここには居ないけどゼラ。後は頼んだよ僕は最後の仕事をすることにしようかな』


 ベルトールがそう言うと石はより強く輝き出した。


「最後って……ベルトール! 何をするつもりなの!」

『今の君たちではサーライトと渡り合うには難しい。だからちょっとした手助けさ』

「そうはさせるか石くれが!」


 サーライトの指先から禍々しい気が凝縮された魔槍(まそう)がベルトールに向かって放たれた。

 それと同時に石から放たれた白い光が瞬く間に部屋を包み込む。サーライトの放った魔槍も光の中に溶けるように消え失せた。


「クソッ! 忌々しい!」


 サーライトは魔法障壁(マジック・シールド)を張ると光から目を背ける。

 ルシアたちが目を開けると彼らを捉えていた蔦は消え、侵食された肌も何事も無かったかのように元に戻っていた。


『頼んだよ。僕の愛した世界を君たちの手で守ってくれ』


 ベルトールがそう言い残すと柄頭の石は光の粒子となって宙に散った。

 部屋を包んでいた禍々しい雰囲気は無くなり、室内は淡く輝いているように見えた。


「約束はしないけれど助けて貰った分の借りは必ず返すわ、ベルトール」

「消えたか……忌々しい男だ。しかしどの道お前らに勝ち目などない」


 ベルトールの力を借りた三人は再びサーライトと対峙する。

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