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黒の烙印  作者: 猫宮三毛
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第三十三話〈ラーゼ強襲 -前編-〉

「魔物の癖に律儀じゃねえか半日きっかりだ」


 夕暮れが迫る頃、先行する魔物の群れをルシアたちは視界に捉えた。城壁の兵士たちによってすぐさま戦闘開始を告げる狼煙が上げられた。

 北門の狼煙は上がっていなかった、戦いの火蓋を切ったのはルシアたちの守る南門ということになる。


「シオン、援護は任せたわよ。見失わないでよね」

「もちろんさ。君たちを危険な目には合わせはしないよ」

「その言葉信じているわよ。行きましょうゼラ」

「おう! 頼んだぜ教皇の兄ちゃん!」


 ゼラはそう言うとシオンの尻を力一杯叩いて城壁の外へと飛び降りた。ルシアも痛そうに尻をさするシオンの肩に軽く手を置いてからゼラに続いて飛び降りた。

 城壁の外に布陣しているのは腕に覚えのある冒険者たちがパーティーの垣根を越えていくつかの部隊を形成していた。パーティーの中で後衛だった者たちは城壁の上から彼らの支援を行う。


「どこかと合流するか?」

「私たちは遊撃隊よ、二人の方が動きやすいわ。私たちは離れないように気をつけましょう」

「そうだなシオンの目も届かなくなっちまう、気をつけよう」


 二人はシオンの配置に合わせて右翼に展開したいた部隊の後方についた。

 魔物の群れはその姿が見て取れるほど近くに迫っており、城壁に配置した兵士たちが弓に矢をつがえると魔術師たちも一斉に詠唱を始めた。


* * *


 戦いの火蓋を切ったのはシオンの散弾炎球(フレイム・ドッツ)だった。

 狭い範囲に拳大の火球を生み出して対象に放つ魔法だが、シオンは横に広がった敵の前線をカバーするほどの範囲まで広げて魔法を発動した。

 魔物たちの先陣を切るのはゴブリンやオークなど下級の魔物たちだが、シオンはその三割程度を肉塊に変えた。


「あいつ無茶しやがって」

「でも計算通りじゃないかしら?」


 冒険者や城壁の兵士たちは一瞬静まり返ったが、途端に戦場を歓声が包み込んだ。

 シオンの消耗はそれなりに激しいはずだが彼の思惑は敵を減らすことになかった。未知の戦いに不安を抱く冒険者や兵士たちに十分に勝機があることを知らしめたのだ。彼の思惑通り戦う者たちの士気はがった。


「ゼラ行きましょう! 吹き飛ばされたのは雑魚だけ、私たちの獲物はもっと先よ」

「違いねえ!」


 魔物の群れに向かって走り出した冒険者たちと共にルシアたちも走り出す。城壁から放たれた空を覆わんばかりの矢が彼らの上空を通り過ぎた。


* * *


 南門の戦いは圧倒的に優勢で進んでいた。冒険者たちの奮戦もさることながら、シオンの魔法による支援が戦いを決定づけていた。


「ゼラ、次はあいつよ!」

「任せろ!」


 この戦線で一番の大物はオーガキングだった。これから現れるであろう大物に比べれば赤子も同然だが冒険者たちにとっては十分に脅威と言えた。

 通常のオーガに比べて一回りほど大きく五メートルほどの巨体で巨大な金棒を軽々と振り回す。剣や盾で攻撃を受ければ人間などひとたまりもない。

 ルシアとゼラは交戦中の冒険者と魔物たちの間を駆け抜けてオーガキングと対峙する。


「デカイとは思ったがこりゃなかなかだな」

「ゼラのお店より大きいわね」

「そりゃあ俺んちは平屋だからな」


 二人に気が付いたオーガキングは咆哮をあげてから黒光りする金棒を地面に叩きつける。

 凄まじい地響きと砂煙が舞う。


「ルシア、ちょいと下がっていろ。俺が奴の攻撃を受け止める、その隙にお前が行け」

「バカ言わないでよ、あれをまともに受けるつもりなの? 無事で済むわけないでしょう?」

「俺がミスリルで打った盾だぞ問題ねえよ」

「そっちじゃないわよバカ!」

「バっ……体はミスリルより頑丈だ、まあ見とけって」


 ゼラはそう言うとオークキングの正面に立ち塞がり、手斧で自らのシールド叩き注意を引きつける。

 オーガキングはゼラに目を向けると再び咆哮をあげてから金棒を頭上に振り上げた。


「来やがれ木偶(でく)の坊がッ!」


 ゼラは足を広げて踏ん張ると頭上に大きめのラウンドシールドを構える。

 オーガキングが眉間に皺を寄せて力を込めたと思うと瞬く間に金棒が振り下ろされ、激しい金属音が響き渡った。

 ルシアは巻き上がった砂埃の中に飛び込んだ。ゼラが無事であろうとなかろうと彼が作った隙を無駄にはできないからだ。

 しかし砂埃の切れ間からシールドで金棒を受けるゼラの姿が見えた。彼は横目でルシアを見ると不敵に微笑んだ。


「行け! こんなもん屁でもねえ!」


 ゼラに促されてルシアは振り下ろされたオーガキングの腕を足場に頭部に向けて飛びかかった。

 ルシアが飛んだのを確認してからゼラは金棒を弾き返す、オーガキングはバランスを崩して大きく仰け反った。


「終わりよ!」


 淡い金色の輝き纏った細剣から高速の突きが放たれる。細剣から放たれた光が魔物の体を貫き、首から肩にかけていくつもの風穴を空けた。

 武器を弾かれて仰け反った体勢のままオーガキングはゆっくりと後ろへ倒れた。ルシアは羽のように軽い足取りでゼラの前へ降り立った。


「やるじゃねえか! こんなデカブツを一撃なんて!」

「本当の相手はもっと大きいのよ? それよりもゼラこそ冗談かと思ったわ」

「頑丈さだけが売りでね。まあなんだ……こいつを振るうのはそこまで得意じゃねえんだ」


 使い込まれてはいるが手入れの行き届いた手斧をルシアにちらつかせながら言う。

 ルシアは微笑むと鼻から軽く息を吐き出した。


「大丈夫よ、今と同じ要領でやりましょう。私たちきっと悪くないわ」

「……おう、すまねえな。いつも」

「そうね。出会いが最悪だったんですもの、大抵のことは良く見えてしまうわね」


 ゼラが目を丸くしてルシアを見上げると、彼女は『行きましょう』言い終わる前に次の敵へと向って走り出していた。


「相変わらず容赦ねえな。まぁそれが良いんだがな……」


 ゼラはボヤきながら颯爽と戦場を駆けるルシアの背中を追って走り出した。


* * *


 前哨戦はラーゼを守る者たちに軍配が上がった。

 彼らが倒したのは突出し過ぎた魔物の群れに過ぎない。夕日が地平線に沈み始めた頃からにわかに敵の数が増え始めた。

 前哨戦とはいえ冒険者たちは相当な数の魔物を倒している。疲れの色は見えないが、夜を徹して戦い続けるでろう戦いに緊張が伺えた。

 そのとき淡い緑色の光が冒険者たちを包んだ。


広域治癒魔法(エリアヒール)、シオンも頑張るわね」

「本隊がどれほどのもんか分からねえが、こいつらなら何とかなりそうだな」

「ええ。でも北が心配だわ……」


 夕暮れの空には北と南、交戦を示す二本の白い狼煙が上がっていた。黄色は救援要請、赤は陥落、どちらも見ないで済むことを願い、二人はキースを信じるのみだった。

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