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黒の烙印  作者: 猫宮三毛
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第三十二話〈臨戦態勢〉

「分かった迎撃の準備を進めてくれ、私もすぐに向かう」


 キースの命令を受けた兵士たちは足早にルドルフの執務室を出て行った。

 ラーゼに向かって北と南の二方向から魔物の大群が進行しているとの知らせであった。ルドルフたちも予想していた事態ではあったが、それはまだ先のことであると考えていたのだ。


「遅かったようだな。申し訳ないがリリア様の救出は後回しだ、街の防衛体制を整えるのが先決だ」


 ルドルフはそう言うとシアに宿泊施設の開放と冒険者たちへの防衛協力を依頼するよう伝え、キースには市民の誘導と防衛の準備を命じた。

 それから残された者たちを一瞥(いちべつ)する。


「帝都にも使いは出したが増援が間に合うとは思えない。我々だけで何とかする方法を考える必要があるな」


 ラーゼの警備隊は小国に匹敵するほどの規模を誇り練度も高いが本格的な襲撃を受けたことはない。

 何よりも対魔物となると話は大きく異なる。対人を想定したた戦いは基本的に地上戦であるのに対して、対魔物は地上と空の両面への対応が必要になるからだ。


「私はともかく、シオンの魔法は防衛に必要になるわね」


 ルシアが口を開く。


「後は冒険者たちの協力がどれだけ得られるかだ。警備隊だけで対応しきれないのは明白だ」

「待ってよルシア。君はどうするつもりなんだい?」

「リリアを助けに行くわ。一人ならサーライトに気付かれても警備はすり抜けられる。決着を着けてくるわ」

「バカなことを言わないでくれよ。サーライトだけとは言っても四天王の一人だ、君一人でどうにかなる相手とは思えないよ」


 ルシアがシオンを睨む、シオンも険しい表情を崩さずに彼女から視線を逸らさない。


「二人とも止めるんだ、リリア様の救出についてはこちらで考える。君たちにも迫る敵の掃討に当たって欲しい」


 二人は視線を互いに視線をそらすとルドルフに目を向ける。


「キースは北門を指揮する。南門を指揮する者も優秀だがキースほどではない、君たちには南門を手伝って欲しい」

「ラゼリオ邸はどうするつもり? 放っておくわけじゃないわよね?」

「見張りは付けている。屋敷へ通じる道は彼らに任せようと思っている」


 ルドルフはお抱えのパーティーに目を向ける。

 彼らはギルドでも名の通ったAランクパーティーだった。彼らであればどのような相手でも怯むことはない、戦力的には十分だった。


「無論彼らにサーライトを任せるつもりはない。屋敷からの襲撃を警戒しながら、街に飛来する魔物の迎撃に当たってもらうだけだ」

「分かったわ。でもラゼリオ邸で何かあったらすぐに連絡を寄こして」

「理解してくれて助かる、南の防衛は君たちが頼りだ」


 ルドルフの言葉に皆が頷き次々と部屋を後にした。ルシアもシオンに続き最後に部屋を出た。

 ルドルフの執務室を出るとギルド内は殺気立った冒険者で溢れており、受付嬢たちは慌ただしく相手をしていた。


「凄いわね。ギルドから出るまでに襲撃が終わりそうね」

「街の防衛協力も依頼の一つなんだろうね。報酬は良さそうだけれど割に合わない依頼だよ」


 受付嬢の声に耳を向けると確かに報酬は良い。だが街に残れば決着がつくまで残って戦うことになる。人と人の戦争とは違い、負ければ街に残った者は皆殺しになる可能性が高い。


「報酬のためだけじゃない、この街が好きなんだ」

「……そうね。私がただの冒険者だったとしても残っていたかもね」


 二人は人の波を掻き分けてギルドの外へと出ることができた。冒険者はギルドの外まで溢れていた。

 往来でもラーゼの警備兵たちが市民や旅人の誘導をしていた。慌てて露天を締める店主、家へ帰るのか街を出ようとしているのか、人々は不安そうな表情でルシアたちの前を駆けていった。


「混乱しているみたいだね。僕らも一旦キースのところへ行って状況を確認しよう」

「確かにそうね。私たちも状況を知っておく必要があるわね」


 空は青く澄み渡っており、街の混乱がなければいつもの日常と変わらなかった。しかし二人が見上げた北の空には空を覆わんばかりの黒点がひしめいていた。


「鳥……じゃないわよね」

「そうだね。あれと地上の魔物が北と南からやってくるんだ」


 二人は北門へと向かって走り出した。


* * *


 北門付近は警備兵の怒号と街を急いで出ようとするの人々でひしめき合っていた。

 魔物の大群が押し寄せれば人々は街に閉じ込められ、その命運は街を守ろうとする者たちに委ねられることになる。だからと言って街を出られたとしても安全ではない、魔物に鉢合わせる可能性は格段に高いのだ。


「キース!」


 ルシアたちが詰所に入るとテーブルの上に広げられた街の見取図を囲うようにキースと数名の兵士が立って作戦を練っていたが、ルシアたちに気が付きキースが顔を上げる。


「なんだお前らか。この忙しいときになんの用だ?」

「お生憎様、ルドルフに南門を頼まれたの。今の状況とどうして欲しいかだけ教えて」

「なるほど、そいつはありがたいね。涙が出そうだ」


 キースはそう言うと手短に現状を説明した。

 本隊の進行速度では一日程度の猶予はありそうだが、先行している部隊は半日後には街に到着する。そして本隊にはサイクロプスを含む大型の魔物が確認されており、彼らの接近を許せば城壁はひとたまりもなく、街への侵入を許すことになるということだった。


「オーガ程度なら問題ねえが、サイクロプス(一つ目)はうちの城壁じゃ防ぎきれねえ」

「それは厄介だね。南は僕とルシアで何とかできそうだけれど北は誰が?」

「舐めてくれるな、伊達に警備隊を預かっちゃいねえよ。とはいえ数によるな、確認されているのは数体だ問題はねえな……今は、だがな」


 ルシアたちは南門の遊撃隊として城壁の脅威となりそうな大型の魔物を任された。

 詰所を出ると相変わらず溢れんばかりの人々が詰めかけていた、その中から聞き覚えのある声がルシアたちを呼んだ。


「ルシア! シオン!」


 声の主に目を向けると短身に髭面の男が硬革鎧(ハードレザーアーマー)に身を包み、手斧と盾を携えて立っていた。


「ゼラ! あなたも戦う気?」

「そらそうだ! 他に行くところなんかねえんだ、戦わない理由(わけ)がねえだろ! お前らはどこへ行くんだ?」

「南門よ、遊撃体として大物の相手ね」


 ゼラは顎髭に手をやると自分の店の方へ目を向けてからルシアたちに向き直った。


「俺もお前らと行くぜ。今度は守ってみせるよ、街もお前らもな」

「人手は多い方が助かるけれど良いの?」


 ルシアはゼラの店の方角に目を向ける。


「構わねえよ、街の中まで入られたらどの道守りきれねえからな」

「それよりもゼラって本当に戦えたのね、知らなかったわ」

「はあっ!? 戦えねえドワーフがいるわけねえだろ何言ってんだ!」


* * *


 南門付近も北門と変わらず警備兵の怒号が響き渡り、人々は溢れんばかりに押し寄せていた。

 どうやら間もなく門が閉じられるようで、街を出るのを諦めた人々が宿を求めて警備兵に詰め寄る姿が見受けられた。


「シアたちも大変ね、こんな状態で街中の宿を駆け回っているんだから」

「そうだね。僕らは敵を迎え撃つ〝だけ〟だからね」

「確かにな。ここで敵を待ってりゃあちらさんから来てくれるからな」


 ゼラがガハハと笑いながら言った。

 南門の詰所では北門と同じように兵士たちが街の見取り図を囲んで作戦を練っているようだった。

 詰所に入ったルシアたちを怪訝そうな顔で一斉に振り返る、左右に立っていた兵士たちが三人を止めた。


「何だ貴様らは状況を分かっているのか? 用がないなら出て行け!」

「随分な歓迎ね。キースに遊撃隊として城壁の脅威になりそうな大物を頼まれて来たのよ?」


 兵士たちが驚いたように顔を見合わせる。


「キース様が……それは申し訳なかった。それでここには何の用で?」

「ご挨拶よ。急に城壁に上がったら今みたいになるでしょう?」


 ルシアは兵士たちに向かって(うやうや)しくお辞儀をすると踵を返して詰所を出て行った。シオンとゼラも呆れた表情でルシアに続いた。


「ルシア、君は相変わらずだね。いつかトラブルになりそうでヒヤヒヤするよ」

「そう? きっと誰かを気にしている暇なんてないくらい忙しくなるわ、良くも悪くも印象に残っていた方が良いじゃない。あなたも教皇様の法衣に着替えたら?」

「冗談じゃないよ……あんなのは二度とご免だね」


 大笑いをしながら前を行くルシアとゼラの後を追ってシオンも城壁の階段駆け上がった。

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