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黒の烙印  作者: 猫宮三毛
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第二十二話〈魔術適正〉

「良く眠れたかしら?」


 朝靄(あさもや)の明けきらない早朝にルシアは目を覚ました。

 寄りかかっていたラパは早々に目を覚ましていたようだがルシアを気づかってか動かずにいたようだ。


「本当に見ていてくれたのね」

「騙すくらいなら助けないわ」


 後ろでラパが立ち上がり体を震わせる音が聞こえた。


「お友達はあなたのことがお気に入りみたい。あなたを起こさないようにずっと大人しくしていたのよ」

「賢い子ね」

「そんなに人懐っこい性格でもないんだけど。本能的に相手の良し悪しが分かるのかもね」


 テントの擦れる音に二人が目を向けると狭い出入口からシオンが上半身を覗かせていた。そして二人の姿を見ると再びテントの中へと引っ込む素振りを見せる。


「何で戻るのよ、何もないわよ」

「真剣な感じだったから……」


 三人はシーナが用意してくれていた朝食をとりながら、これから先のことについて話しをしていたがシーナは二人の二人で先へ進むことに難色を示した。本格的に北へ踏み入ればゴブリンやオーガとは桁違いに強力な魔物が生息する。彼らには知性があり魔法を使う個体も存在するからだ。


「シオンの魔法だけでどうにかなるとは思えないわ」

「私が……足手まといなのね」

「ルシア……」

「確かにそうなんだけど、あなたには大きな魔力のキャパシティを感じるわ」


 シーナはそう言うとシオンへ視線を移した。

 シオンとルシアの視線が交錯する。


「ごめんよ……黙っていたわけじゃないんだ。確かに君には素質はあると思う、でも見えないんだそれが何なのか。だから期待させたくなくて」

「それが思議なのよ。あなたの魔術適性は全然見えない」


 魔術に精通している者は相手の適性をある程度見極めることができる。エルフであるシーナはもちろんシオンもかなり魔術に精通しているはずだが、彼らにもルシアの適性は全く見えていなかった。


「別に良いわ、魔法なんて使いたいと思ったことは一度もないもの」

「そうだとしても、あなたがこれから〝先〟へ進もうと思っているなら必要になるわ」

「それならどうしろって言うの? すぐに覚醒して使えるようになる方法でも?」

「それは無理。だからあなたの才能が目覚めるまで私も旅に付き合ってあげるわ」


 ルシアとシオンは驚いた様子で顔を見合わせる。

 昨晩見たシーナの力は本物だった。彼女が一緒であればツァルベルグに入れた場合も大きな力になるのは間違いなかった。

 シオンが複雑な表情をルシアに向ける。


「何よ、私は別に構わないわ。彼女の力は知っているもの」

「いいのかい? 本当に?」

「あら? 思ったよりすんなりね、もう少し……いいえ、何でもないわ」


* * *


 彼らはさらに北へと進み、森は雪化粧によってその姿を大きく変えていた。今日のうちに森を抜けるつもりだったが雲行きは既に怪しくなっていた。


「つけられているわね」

「そうね雪深くなった辺りからずっとね。恐らくスノーシーカー、群れで行動するから襲われると厄介よ」


 スノーシーカー。

 雪深い森や山中を群れで行動する。姿形は人間と同じだが、狼の毛皮を被りそこから覗く真紅の瞳と鋭い牙が人間であることを否定する。

 俊敏な動きで相手を翻弄しながら群れで連携して獲物を狩る。


「襲ってくる気配はないわね。今のうちに魔法について聞いておきたいんだけど」

「そうね。魔法はイメージの具現化なの、想像したイメージに技術と魔力が追い付いていれば具現化できる」

「イメージ……それって」

「そうよ。あなたの適性は見えない、だからイメージするのも難しいの」


 シオンは二人後ろで会話を聞きながら雪に覆われた木々の間を眺めながら歩いていた。時折人間大の影がいくつか横切る。心なしかこちらに接近している気がしていた。

 狼のようなシルエットに見えるが上空の枝から枝へと素早く飛び移るような芸当は狼にはできない。


「二人ともちょっと良いかな。ルシアの適性が分かるかもしれない」

「へぇ……さすが神様──」

「シーナ!! っと、じゃなくて簡単なことなんだけど」

「何よシオン、急に大きな声を出して」


 シオンは慌てて取り繕うとシーナを睨む。シーナはどこ吹く風という感じに目を合わせないように先頭を歩いていた。


「彼ら近付いているわ。先に仕掛けて数を減らした方が良いわね」


 シーナは感づかれないよう敵に目を向けずに歩きながら言った。ルシアとシオンも後ろで何も言わずに頷いた。

 彼女が弓を構えて放つまで一秒もなかった。放たれた弓は正面の枝に丁度着地したスノーシーカーの額を貫いた。深々と雪が降る森の中に骸が落下した音が響く。


散弾炎球(フレイム・ドッツ)!」


 拳大の火球が無数に上空へ現れると四方八方へと飛び散りスノーシーカーを襲った。ほとんどはかわされたが数匹が炎上し、シーナが弓でとどめを刺す。

 しかし彼らは騒ぐこともなく静かにルシアたちに躍りかかった。

 彼らは単刀よりは大ぶりだがショートソードよりは短い独特の武器を両手に持っていた。絶妙な間合いから繰り出される連撃と連携攻撃はルシアたちに反撃の機会を許さなかった。

 シーナは木々の間を飛び回り三匹のスノーシーカーの攻撃を捌いていた。シオンとルシアも二匹の攻撃を受けるので精いっぱいだった。


「ルシア! 大丈夫かい?」

「ええ今のところ! でも本当に桁違いねスピードも戦闘能力も」


 ルシアは正面からの連撃を巧みにかわし牽制の突きを放つが、もう一匹を見失っていた。


「ルシア! 後ろだ!」


 シオンの怒号が響く。

 スノーシーカーは頭上を覆う木の枝からルシアの背後を狙い飛びかかった。それと同時にルシアの正面にいた敵の目前にシオンの放った火球が着弾し敵が大きく飛び退く。

 ルシアの背後から襲い掛かったスノーシーカーが背中に覆いかぶさった。

 時間が止まったかのようにシオンとシーナの視線がルシアに注がれた。ルシアの背中からスノーシーカーがゆっくりと滑り落ち雪上に仰向けに倒れた。

 ルシアが咄嗟に脇から背後へと突き出した細剣が敵の胸元を貫いていた。


「あと一匹よ! こいつを倒したら手伝うわシオン!」

「分かった!」


 それと同時にシーナは空中で弾き飛ばしたスノーシーカーを一匹射抜いていた。

 一対一となったルシアは自分の間合いに敵を入れずに圧倒していた。そしてルシアが後方へ一歩下がるやいなや敵が間合いを詰めようと地面を蹴るが、その瞬間に細剣がスノーシーカー胸を背中まで貫いていた。

 レイピアの刀身は一メートル程度だが全力で踏み込めば二メートルほど先の敵を狙うことができる。ルシアは後方へ下がり相手が間合いを詰めるのを誘い即座に突きを放ったのだ。


「シオン!」


 ルシアがシオンを襲う敵の側面をつく。シオンの魔法壁が飛び掛かった敵を弾き飛ばし木の幹へ叩きつけると同時にルシアに気を取られた正面の一匹を魔法で焼き払った。


「ルシア助かった! そいつを頼む」


 シオンはもう一匹をルシアに任せると未だに木々を飛び回るシーナと二匹のスノーシーカーを目で追っていた。

 シーナが先にスノーシーカーに先制攻撃を仕掛けたのは数を減らす以外にもヘイトを取る目的があったのだろう、シオンはそう感じていた。少なくとも自分やルシアが三匹のヘイトを取っていたら状況は変わっていたかも知れない。

 細氷(さいひょう)の舞う森にシオンの詠唱が響き渡る。


連鎖(リンケージ)──」


 シオンが魔法を発動しようとした瞬間、地鳴りと木々の薙ぎ倒される音が静寂を引き裂く。

 シーナとスノーシーカーも突然のことに互いに距離を取り、薙ぎ倒された木々の周辺に目を奪われていた。

 シーナが顔をしかめて呟く。


「アイス……ゴーレム」


 木々の陰から三人の前に五メートルはあろう氷の巨体が二つ姿を現した。

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