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黒の烙印  作者: 猫宮三毛
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第十六話〈随行 -後編-〉

 蒸し暑かった森の中とは違い、洞窟内は肌寒いくらいだった。

 通路は広く人間が三人は横に並べるほどの広さがあり、内部は入り組み細い脇道がいくつも走っていた。


「ずいぶんと入り組んでいるわね。主道に沿って行くのが良さそうね」

「そうだね。脇道は狭いし危険だ、後で本格的な調査団を派遣する方が良さそうだね」


 この洞窟に入ったときから気配や視線を感じていた。何かがいることは間違いないが仕掛けてくる様子がないのが気味悪かった。


「誘われている、引き返すべきかもしれない」

「大丈夫よ。主道から外れない限り撤退は難しくないわ」

「……だと良いけどね」


 先へ進むと主道は二手に分かれていた。レオンとルシアはそれぞれ兵士を一人ずつ連れて二手に分かれることを選んだ。ルシアは左、レオンは右の道へ。

 左へと進んだルシアたちの前で再び道が分かれる、左の道には多数の気配を感じ右へと進む。

 いくつかの分かれ道を経て進むと、背後から気配を隠す様子もなく何者かが近づいてくるのを感じた。

 来た方向へ松明をかかげて奥の様子を伺っていると、やがていくつもの影が浮かび上がりる。


 二人は剣を抜いて構える。

 暗闇から姿を現したのはゴブリンカーネルが二匹と複数のゴブリンだった。二人の姿を目にしたゴブリンたちは笑っているかのようなやかましい声で騒ぎ立てると一斉にルシアたちに投石を始める。


「相変わらずうっとうしいわね」


 ルシアは素早く近づき次々とゴブリンを葬り去る。兵士もカーネルの一撃を大剣で受け流し、次々と飛びかかってくるゴブリンたちをを打ち払っていた。

 ゴブリンたちはいくら倒しても暗闇の中から湧き出るかのように次々と姿を現し()りがなかった。兵士がルシアの方に顔を向けて頷く、ルシアも頷き返すと敵の群れの中に身を投じ次々と繰り出される攻撃をかわす。

 兵士が隙を見てカーネルの胴体に一撃を叩き込むが、すんでのところで攻撃を防がれる。しかし反撃に転じようと大剣を振り上げたカーネルの下顎をルシアが貫いた。彼らの狙いどおりだった。


「もう一体、行ける?」

「もちろんだ」


 ルシアがもう一体のカーネルに向けて走り出したとき、背後に気配を感じて咄嗟に側方へ飛び退く。轟音と共に地面にいびつな形をした大剣食い込んでいた。


「──ッ!?」


 背後にいたのはカーネルだった。ルシアは新たに現れた敵と対峙する。

 確かに背後にも道はあったが敵が迫っていた気配はなかった。どこから現れたのか周囲を探ろうとするがカーネルの攻撃がそれを許さない。

 横()ぎの攻撃をかわし放った突きは敵の(もも)に吸い込まれ、カーネルは地面に膝をつく。ルシアが背後に回り止めを刺そうとした瞬間、壁から大剣が振り下ろされルシアの眼前をかすめた。

 そこは影になって見えていなかった脇道が存在し、その奥にゴブリンがひしめいているのが見えた。

 ルシアは兵士の元に駆け寄り背中合わせに構える。


「このままでは囲まれるわよ」

「こっちもいくら倒しても湧いてくる。行くなら奥しかないぞ」


 新たに見つけた脇道からは二匹目のカーネルが姿を現そうとしているところだった。

 二人はその脇を駆け抜け洞窟の奥へと進むことを選んだ。


* * *


「大丈夫か?」

「ええ。でも戻ることはできそうにないわね」


 来た道からはゴブリンの声が聞こえてくる、追ってきてはいるようだが急いでいる様子は感じらなかった。

 戻る道を探すには脇道へ折れるべきだが、敵と鉢合わせれば身動きが取れなくなるのは目に見えていた。この主道がレオンたちの道と合流することを願うしかなかった。

 二人がさらに奥へ進むと遠くに通路の先に薄明かりが見えた。


「あれは? レオンたち」

「いや違うようだ。開けた空間がありそうだが……」

「明かりが灯っているなら何かがいるってことね。人間じゃないでしょうけど」


 二人は顔を見合わせると黙って進みだした。

 やがて開けた空間に出た。そこはかなりの広さがあり天井も高いが行き止まりだった。

 奥には小高い段差がありそこには一際大きな体格のゴブリンが座っていた。その左右にカーネルが二匹ずつ並び、壁に沿って無数のゴブリンが並んでいた。


「まんまとやられたわね……」

「どちらにしろ戦いは避けられなかったよ。仕方のないことだ」


 覚悟を決めた二人は部屋の中央へと進む。背後の通路から追ってきたゴブリンたちが姿を表し退路は完全に塞がれていた。

 奥に座っていたゴブリンが立ち上がる。カーネルよりもふた回りほど大きな体格のにバルディッシュを携えていた。


「やつは……ジェネラルだ」


 兵士が呟くように言った。

 ゴブリンジェネラルはカーネルよりも知能が高く一帯のゴブリンを支配し指揮する能力を持つ。

 なにより戦闘能力は群を抜いて高く、Bランクのギルドメンバーでも勝つことは難しい。そしてこの場所にはカーネルが七匹と無数のゴブリンがいるのだ。


「難しい戦いね、諦める?」

「バカを言うな、私はレオン様の部下だぞ。軍人ではない君を巻き込んでおいてそんなことはできない」

「冗談よ……」


 二人が剣を構えて駆け出すとジェネラルが吠える。呼応するように他のゴブリンたちが咆哮をあげてルシアたちに襲いかかる。

 襲い来るゴブリンたちを蹴散らしカーネルを狙う。次々と繰り出される攻撃をかい潜り、兵士がカーネルに斬撃を叩き込み防いだ隙を狙ってルシアが仕留める。

 二人は順調にカーネルを倒し三匹目を仕留めたところでジェネラルが動きだした。


「油断するなよ。こいつらとは桁違いだ」

「後ろを頼める? あいつとカーネル一匹は何とかするわ」

「俺は三匹か……分かった。やるだけはやるが期待はするなよ、俺に何かあれば君は逃げろ」


 ルシアは横目で兵士を見たがなにも言わずに駆け出した。兵士も大きく息を吐くとカーネルの群れに向かって走り出す。


* * *


 戦いは長引いていた。無数のゴブリンたちに阻まれて二人は思うように戦えていなかった。それぞれがカーネルを一匹ずつ倒すのが精一杯で身体的な疲労も相当なものだった。


「なんなのよ! コイツっ!」


 軽々と振り回される鋼鉄製のバルディッシュに阻まれ、ルシアはジェネラルへ接近できずにいた。

 なによりも体格に似合わない機敏な動きはルシアを翻弄していた。攻撃をかわしても隙がなく、反撃に転じる機会が訪れないのだ。


「このままじゃ──」


 後方で激しい金属音が鳴り響きルシアは咄嗟に目をやる。

 カーネルの攻撃が兵士の大剣をへし折り彼の胸を捉えていた。兵士は吹き飛ばされ地面を転がると壁に叩きつけられ立ち上がることはなかった。


「!?」


 ルシアは不穏な空気を感じて身を低くしジェネラルへ視線を戻す。頭上すれすれを猛烈な勢いでバルディッシュが通過した。

 バルディッシュを振りきったジェネラルの右脇に隙ができていた。

 

「貰ったわッ!」


 細剣を構え突きを放とうとしたそのとき、全身に砕かれたかのような衝撃が走った。ルシアの胸元をバルディッシュの背が捉えていた。

 ジェネラルは武器を裏拳のようにそのまま振り戻していた。

 吹き飛ばされて壁に叩き付けられたルシアの口から血が飛び散る。叩きつけられた瞬間、体の中で嫌な音が聞こえた。

 地面に落下したルシアは立ち上がろうとするが、全身に力が入らず脚も言うことを聞かなかった。


〈まずいわね……内臓(なか)をやられたのね〉


 持っていたポーションを手に取る、一つは魔女のところで購入したハイポーション、もう一つは通常のポーションだった。

 動かない兵士に目をやると通常のポーションを飲み干すと壁を支えになんとか立ち上がる。

 カーネルがルシアに向けて走り出し大剣を振り下ろす。ルシアは落ちていた細剣を鞘に戻すと迫る敵の間をすり抜けて兵士の元へと向かった。腹部に激痛が走ったが止まるわけにはいかなかった。


「起きて! 生きているでしょう!」


 兵士のかたわらにしゃがみ込むとヘルムを外す。血を吐いていたがかすかに呼吸をしていた。ルシアはハイポーションを自らの口に含むと意識のない兵士へと飲ませる。

 兵士が咳をしたかと思うと意識を取り戻す。


「俺は……生きているのか」

「起きて。私一人ではどうにもできないわ」


 肩を貸して兵士を立ち上がらせる。


「悪いけど休ませてあげられる時間はないの。邪魔な大物を二匹倒すわよ」

「ああ、任せろ」


 兵士は落ちていた自分の剣を拾いあげるとルシアに向かって頷く。

 二人は群がる敵に向かって剣を構えた。


* * *


「あと一匹!」


 カーネルの攻撃を兵士が受け流し、背後に回ったルシアの細剣がカーネルの延髄を貫く。ゴブリンたちの激しい猛攻をしのぎながら二人は戦い続けていた。

 兵士の体はハイポーションによって回復していたがルシアの状態は良くなかった。それに加えて二人の疲労は限界を迎えようとしていた。


「顔色が悪いぞ、君は大丈夫なのか?」

「そうね。万全とは言えないわね」


 兵士が下唇を噛むのが見えた。自らのふがいなさを悔いているのかもしれない。


「気にしないで。一緒に戦うと決めたなら一蓮托生、どちらか倒れれば二人とも終わりよ」


 そこへカーネルの一撃が振り下ろされる。

 二人は左右へ飛び退き攻撃をかわすと同時に攻撃を繰り出す。ルシアの突きは敵の脚を捉え、兵士の斬撃は武器を持っていた腕を跳ね飛ばした。

 崩れ落ちたカーネルに止めを刺そうとしたその瞬間、いつの間にか迫っていたジェネラルの一撃がカーネルの体もろともルシアたちを吹き飛ばした。

 互いに怪我はなかったがジェネラルと戦うほどの余力は残っていなかった。

 戦いは防戦一方となり攻撃から逃げ回るのが精いっぱいになっていた。ここに来てゴブリンたちの妨害が予想以上に目障りになっていた。


「カーネルはもういない、今なら出口に行けるか?」


 兵士の言葉にルシアは出口へ目を向けるが、自分たちを逃がさないためだろう無数のゴブリンが動かずにたむろっているのが見えた。


「無理そうね。相手をしているうちに追い付かれるわ」

「クソッ! どうすれば良いんだ!」


 ジェネラルの攻撃が地を割り轟音を響かせる。

 その隙を狙ってルシアが突きを放つがバルディッシュに弾かれて体勢を崩す。そして武器を振り上げたジェネラルと目が合う、攻撃を避ける術はなかった。


「させるか!」


 兵士の渾身の一撃がジェネラルの脚を捉えた。折れた剣では相手を怯ませるのが精々だったがルシアが逃げられるだけの時間が稼げればそれで良かった。

 ジェネラルの矛先は兵士へと向けられ武器が振り下ろされた。


 轟音と土煙が辺りを包んだ。


「なぜだ……」

「言ったでしょう一蓮托生よ。良くやったわ、もう十分」


 ルシアが兵士を庇うように上に乗っていた。ジェネラルの矛先が兵士に向かった瞬間、反射的に兵士の元へ走り彼を突き飛ばしたのだ。


「後はあなたの隊長さんが何とかしてくれるわよ。そうでしょう?」

「……ああ、そうだね。感謝するよ、君と戦えてよかった」


 目を閉じた二人に向けてジェネラルのバルディッシュが振り下ろされた。


* * *


 激しい金属音が洞窟内に響き渡り二人は目を開いた。


「最後まで僕を信じてくれた君たちの勝ちだ」


 プラチナブロンドのミドルヘアに白銀の鎧。

 ジェネラルのバルディッシュを受けながら見せる横顔はいつもの笑みをたたえていたが、ジェネラルの攻撃の凄まじさを表すようにレオンの足は地面に埋もれていた。


「レオン……様」

「遅いわよ」


 レオンは正面を向き直すと受け止めていたバルディッシュ大きく弾き返す。


「僕の仲間を傷つけた借りは返してもらう」


 ──閃光が走る。


 次の瞬間、レオンはジェネラル背後に背を向けて立っていた。

 時が止まったかのような静寂が訪れるとジェネラルの体に無数の赤い線が走り、その線に沿ってぽつぽつと血液の玉が浮き上がる。 

 そしてジェネラルの体は積木のように崩れ落ちると地面には肉片の山が築かれた。

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