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07.美味しいポーション

07.美味しいポーション


「つかれた〜えっ、家が綺麗になってる!?」


 背中に背負っていた重たい籠を降ろし、店の中をぐるりと見回す。

 朝、出ていった時とは違い、明らかに綺麗になっていた。

 埃を被った商品棚も、ジャリジャリと砂埃が音を鳴らしていた床も。どこもかしこも磨き上げられ、ピカピカと輝いている。

 

「おかえりなさいませ、ご主人様」


 笑顔さえ見せないが、どうだ。と言わんばかりの表情を浮かべ、私に一礼するラピ執事。


「さすがラピ執事!あんなに荒れた店をあっという間に綺麗にしちゃうなんて!」

「執事たるもの、当然です。ところでローセンタルの森はいかがでしたか?」

「隣の家のギータが手伝ってくれて思った以上に採取できたよ」


 ラピ執事が綺麗に磨き上げた床を汚さないように麻布を敷くと、そこにローセンタルの森で採取したものを籠から取って並べていく。

 

 あれから必死こいて倒したスライムから取れたスライムボール二つに、りんりん草。弟切草に、グリーンラデッシュ。アロエや、細々したハーブ類。

 全体的にすごーく緑だ。

 

「まあ、ローセンタルの森で採れるものなんてこんなものよね……」


 街にある魔法商ギルドに持っていけば買ってもらえるだろうが高値で売れそうなものはない。しばらくはローセンタルの森と魔法商ギルドの往復で日銭を稼ぐ他なさそうだ。


「調合はされないのですか?」

「調合かぁ……この材料で作れるものと言えばポーションぐらい」


 学園を追い出された時に背負ってきたリュックの中を漁り、教科書を取り出す。

 初歩魔法薬魔導書だ。ちなみにこの一冊で金貨三枚。中級は五枚で、上級魔導書となると金貨十枚という高級品でもある。

 私が母の残した金貨で私が購入できたのは中級までだ。

 

 噂によると上級魔導書は王立図書館でも読めるという。しかし、その王立図書館に入るには、学園に通う者は三番以内の成績上位者にならなければ許可証はもらえず。その上、一般人は入館不可とされる。

 私にとってどこよりも秘境の地であることには間違いない。


 分厚い深緑の革表紙を捲り、ポーションの作り方が書かれたページに目を向ける。

 授業で一番最初に習うポーションなら、きっと大丈夫だろう。過多していた魔力もラピ執事が消費してくれてる今なら大鍋を割る心配もない。

 

「ポーションってさ、何が嫌って味が本当に苦いのよね……うっ!ってなるのよ、それをぐっ!って飲み込んでさ、拷問みたいなの」

「なぜ美味しいポーションをつくらないのですか?」

「美味しいポーション?」


 薬草を千切っていた手を止める。

 言われてみれば、そうだ。今までなんの疑問もなく当然のように教科書通りに作っていたけど。

 マズイより、美味しいの方がいいに決まってる。

 

「それだ!」

 

 何も魔導書通りに作らなくったっていいじゃない!

 ここには採点をする先生も、余計なちょっかい(くすくす笑って私の鍋に変なものを入れてくる)アーリスもいない。材料だって学園の購買で買うと割高だったものじゃなく自己採取でタダ!いくら失敗してもタダ!


「よし!美味しいポーションを作ろう!」


 学園のローブより軽い、真っ黒なローブの腕を捲り気合いは充分。教科書を閉じて、並べた材料を見た。

 

「苦味を消すには甘味よね。囁木の樹液で充分だわ」

「ハーブも加えてみたらどうでしょう?パセリ、セージやローズマリー、パクチーなんかは料理にも欠かせませんし」


 あーでもない、こーでもないと、ラピ執事と言い合う。

 裏門から出て、もっと先に行ければ荒野があり鉱石や水晶が採れるが、日帰りじゃ無理だし魔物との戦闘面でも不安だ。

 今ある材料で手軽に作れて量産できそうなポーションを作るしかない。

 

 ポーションは初歩の魔法薬。しかし、例え教科書通りに作ったとしても、そのポーションの効果で作り手の力量が測れる。体力を回復するだけのもの。魔力を回復するもの。傷を治すもの。

 美味しく、それでいて効果もきちんと得られるポーション。それが今の私への課題だ。


「よーし、頑張るぞー!」

 

 選んだ材料をすり潰し、大鍋で煮る。

 母が使っていた大鍋を私が使っている光景が少し可笑しくて、なんだか少しだけ嬉しかった。

  

 


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