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05.鍛冶屋のギータ


「ふむ、これは……思っていた以上に危機的状況ですね」


 汚れたテーブルの上に並べたコイン見てラピ執事が小さく呟いた。

 銅貨が10枚で銀貨1枚。銀貨が10枚で金貨一枚になる通貨だ。パン一つ買うのにもこの通貨が必要になり、大体銅貨2枚ほど。

 そして目の前に並べられた私の全財産は……


「銀貨2枚と銅貨6枚」

「まあパン13個買えると思えば……」

「なるほど。ご主人様はパンを食べられれば充分だとおっしゃられるのですね」

「あ、いやぁそれは」


 慌ててラピ執事から目を逸らす。視界に入ってくるのは一晩経っても未だ荒れた店の中。

 昨晩は二階にある寝床を何とか寝られる状態にするで精一杯だった。汚い毛布に嫌がるラピ執事と一緒に包まって眠ったのを思い出し何ともいえない気分になる。


「だから私の作った魔道具を売って稼ぎたいの!」

「最初からそんな簡単に行くわけないでしょう。まずはきちんとした生活を送るためにも資本を増やす事から初めてみては?」

「……どうやって?」


 聞き返した私に深いため息を吐く。


「ここは職人通り。この道の先には何があるかご存知ですか?」

「それって、まさか」

「そうです。()()です」


 ラピ執事のその言葉にぶるりと体が震えた。

 

 王都ローセンタルには門と呼ばれる四つの入り口がある。

 東と西には、隣国へと繋がる門があり、その通りは中央通りと呼ばれ商人達がいつも賑やかに商売をしている。

 そして北に存在するのは王宮へと続く『正門』。一度だけ通りかかった時に見たその門は煌びやかに装飾され、とても美しかった。

 その反対に位置し、寂れた職人街の端にあるのが『裏門』と呼ばれる場所だ。


「だっ、だってあそこは立ち入り禁止でっ」

「そんなルールはないんですよ。ただ()()なので誰も行かないだけで。ご主人様は腐っても魔女ですから」

「腐っても魔女」

「学園を追い出された今はフリーの魔女。何も気にすることはありません」


 確かにラピ執事の言う通り。

 学園にいた頃は調合の材料は購入するしか方法がなかった。お金が掛からなくなるとはいえ、これからは自力で採りに行くしかない。


「でも……魔物の通り道(モンスターロード)かぁ……」


 その名の通り魔物が生息する地域に続く道だ。

 荒野に高山、崖。そもそもが開拓すら出来ない危険な立地であり、魔導書でしか見た事がない獰猛な魔物やドラゴンだっていると聞く。

 裏門から出ていくのは、魔女や魔法使い、そして魔法騎士団くらい。だからこそラピ執事は私に行けと言っているのだけれど……。


「まずはローセンタルの森ぐらいで素材採取してきては如何ですか?そのまま売ることも出来ますし、自身で使うのも有りだと」

「うぅ〜ん……よし!行ってくる!」


 もう一度ここから頑張ると決めたのは、私だ。

 店の壁に立てかけておいたマジックロッドを持ち、魔女のとんがり帽子をかぶる。


「くれぐれも気をつけて。家のことは僕にお任せください」


 嬉しそうに手を振るラピ執事に離れていて大丈夫かと聞けば、有り余る魔力が未だ額の水晶に残っているから大丈夫だと。

 行きたくないわけじゃ……ないよね……?


「じゃあ行ってくる〜!」


 ローセンタルの森は裏門から道なりに歩いて少し行った先だ。出てくる魔物だってスライムやラピット、ごくたまーにウォルフが出てくるぐらい。きっと大丈夫だろう。


「……ロマナ?おまっ!ロマナじゃねーか!!!」


 急に掛けられた声に振り向く。

 そこには、燃える様な赤い髪色の青年。釣り上がったやんちゃそうな目つきでチャームポイントの八重歯を見せて笑う、とても懐かしい顔。

 うちの隣に店を構えている鍛冶屋の息子、ギータだった。


「ギータ!久しぶり!」

「おう!ってお前、学園に通ってたんじゃねーのか?いつ帰ってきたんだよ」

「まぁ……昨日、色々あって」

「ハハーン。さてはお前、アホすぎてクビになったな」

「……うん」

「ま、マジだったんかよ……わりぃ……」


 私以上に凹んだギータの顔が懐かしすぎて、ちょっと吹き出してしまった。


「大丈夫、気にしてないよ。昨日までは落ち込んでたけどね。店の中を見たら落ち込んでられないなって」

「あぁ、ベラドンナの魔女工房か……ちょうど押し入るところを見て抵抗したんだけどな。でも相手が魔法騎士だったから強く言えなくてよ……悪かったな」

「えっ!?うちに入ったの盗賊じゃなくて……魔法騎士だったの!?」

「ああ、胸元に王国の紋章があったから間違いねえ」

「一体何の為に……」

「そりゃディアーナ様の魔女工房だからだろ」


 確かに母は英雄と呼ばれるほど偉大な魔女だった。

 しかし、その反面。どれだけ有名になろうとも寂れた職人通りの端で店を細々と経営することをやめなかったし、魔法騎士団との関係だって聞いたことがない。

 黙って考え込む私に気づいたのか、話題を変えるようにギータが聞いた。


「ところで、そんな棒っきれ持ってどこいくんだ」

「棒っきれじゃなくて、マジックロッド!」

「それがマジックロッドォ?おまっ、バカにすんなよ」

「バカにしてんのはどっちよ!」


 私が学園で購入できたロッドと言えば、こんなものだ。ちなみに十三代目である。

 お金持ちの商家の娘であるアーリスは銀ピカのマジックロッドを買っていたけれど、私にはそんな高価なものは買えず銀貨一枚で買えるこれが私の相棒だ。

 大事そうにマジックロッドを持つ私を鍛冶屋の倅ギータが何とも不憫そうな顔で見る。その顔が一番私に対して失礼だっての。


「もうっ!今からローセンタルの森に素材採取しに行くんだから邪魔しないで」

「ローセンタルの森!?」

「そ!じゃあね、おじさんとおばさんによろしく!」

「ちょちょ!待って!分かった、俺も一緒に行ってやる!」

 

 慌てて私を掴むギータ。その言葉に幼かった頃を思い出した。

 近所に住む子供は私とギータの二人だけ。いつも日暮まで冒険という名の探検したり、石集めが好きだったギータに延々と付き合わされたり。

 まるで兄弟のように育った私たち。


「一人より、二人。そしたら怖くないだろ」

 

 学園の友達は誰一人そんなことを言ってくれない。そもそも友達と呼べる人なんて一人もいなかった。


「うんっ……!」

 

 だからこそギータの笑った顔が嬉しくて、懐かしくて。私はつい頷いてしまった。

 

 




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