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02.アーリスとヒルマ


 ローセンタル魔法魔術学園には、寮制度がある。

 もちろん私は寮生であり、入学してからの三年間食うにも寝るにも困らず過ごせた。

 

 しかし、そのお陰で今現在山のような荷物を抱えて学園のロビーの真ん中を歩いて行かねばならない。寮にある部屋に向かう生徒とは逆の方向へと。


「やっだぁ!ねえ、あの子見て!ヒルマ様」

「わお!アーリスの言った通り退学になるって本当だったんだね」


 げぇ、出た!

 出来ればこの二人と出会さず、ここを後にしたかったのに……。

 わざわざ私の前に立ち道を塞ぐ二人組を無視して避けようとするが、私が右を行けば右に、左に行けば左に。二人揃って繰り出すそれは婚約者同士なだけあってなんとも息ぴったり。

 その上、表情は嬉々としており、こんな面白い事逃してなるものか、とひしひしと感じる。


「ずぅっとおかしいと思っていたの。どーして貴女みたいな出来損ないが特待生なんだって!」


 魔法染めした金色の髪を真っ赤な大きなリボンで結んでいる貴族()の女の子。王都で一番大きい魔道具専門店ルーモンド商会の娘アーリス。

 

「はっは〜ん!僕なんて三年間ずっと思っていたさ!」


 最近になって魔法騎士科首席になった貴族のヒルマ様だ。

 なんでも今までダントツでオール首席を取っていた第一王子が半年前から休学中の為、繰り上げみたいなもんだとクラスメイトの男の子がヒルマ様に聞こえないようにヒソヒソ言っていたのを聞いたことがある。それに最近着任したばかりの騎士科の先生を買収したとも聞いた。

 どちらにしろ私にとっては性格の悪いクラスメイトってだけだ。

 

「きっと薬学科の先生も胸を撫で下ろしていることでしょうね。もう大鍋が壊わされることがなくなって」

「僕としては残念だよ。君が騎士科に来た時、とても楽しかったからね」


 ヒルマ様のその笑顔にぞっとした。

 どの教科でも単位が取れず困った私は、勇気を出して騎士科の授業を受けた。

 嬉々として対戦を申し込んできたヒルマ様(もちろん拒否権などない)に思い切り魔力弾を撃ち込まれた事を思い出し体がぶるりと震えた。

 

 入学当初と今では、彼らの態度は全く違う。

 私がディアーナの娘で最大魔力保持者だと知ると、隣でずっとへらへら笑っていたのはヒルマ様で、アーリスなんて「私たち一番のお友達になりましょう」と真っ先に声をかけてきたのに。


「……本当に嫌なやつら」


 小さく呟いたその言葉は二人に届くことがなく、臆病者の私の口の中で消えていく。


「何が一番残念だって、あのディアーナの娘がこんな出来損ないってことさ!」


 その言葉は、まるで、あの時みたいに。魔法弾を思い切り撃ち込まれ時みたいに、私の胸の中を深く抉っていく。


「さようなら、出来損ないの特待生さん」


 アーリスはそう言って笑うと、すれ違い様に私の背中を強く押した。

 ガシャン!

 大量の荷物のせいでバランスを崩し、床へと倒れる。その拍子に持っていた沢山の荷物がそこらじゅうに転がった。魔導書もマジックロッドも中釜も秤も。


「クスクス」

「やだぁ、笑っちゃ悪いわよ」

「だってぇ」


 拾うのを手伝ってくれる人なんていない。笑う人、見て見ぬふりする人、邪魔だとばかり蹴っ飛ばす人。

 慌てて膝をついて荷物を拾う。薄グレーの大理石が冷たい。


「……っ」


 誰もが入学することを夢見て渇望する、ローセンタル魔法魔術学園。

 

 これが私の暮らした三年間。とても惨めだった。

 


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