01.落ちこぼれ魔女ロマナ
「た、退学ですか……?」
薄暗い生徒指導室の中、私の震える声が響いた。
「えぇ、そう……」
目の前に座るローラ先生。いつも明るくて朗らかと評判で生徒から慕われる先生の、これ程沈んだ顔を私は初めて見た。
そのせいで、ローラ先生が伝えたそれがもう覆すことが出来ない事だと理解してしまう。もうそれは決定事項なんだということを。
それでも、喉元まで迫り上がってくる「どうかあと少しだけでも学園にいさせて下さい」その言葉を私は必死に飲み込んだ。
分かってる、自分が一番分かってることだ。弁解も、お願いももう何もできない。する資格がない。
だって今までそんなことは散々やってきた。その度、優しいローラ先生は必死になって私の為に色々な先生に掛け合ってくれたり、校長先生に直談判だってしてくれた。これ以上、ローラ先生に縋り付くのが申し訳ないほどに。
特待生として入学し、三年。私がこの学園に居続けられたのはローラ先生の温情だった。
「私もね、色々考えたのだけれど……今、ロマナ自身、肩身狭いんじゃないかって」
落ちこぼれ魔女、ロマナ。
そう言ってみんなが私を指差して笑っていることだって知ってる。同級生も、上級生も、下級生ですら、そう言って笑っていることも。
「貴女の魔力は年々強くなる。そしたら今以上に益々コントロールが難しい。厳しいことを言うようだけど、やっぱり特待生としてこの学園に居させるのはもう限界なのよ」
私が通っているローセンタル魔法魔術学園。
王都の中心地に位置する学園は、王様の住む城の次に大きな学舎であり、数々の優秀な魔法使いや魔女を世に送り出してきた。
王家直属の部隊、魔法騎士団に入隊したければこの学園の上位卒業資格が必須だと言われるぐらい、国に対しても大いに貢献している。
授業内容としては、いくつかの選択科目があり魔法騎士科や魔法薬学科、魔獣科など。それらの授業を自分で組み合わせて好きに選べる。
その全ての科目で落第点を取ったのが――特待生であり、落ちこぼれ魔女ロマナ。そう、私だ。
「特待生としてではなく一般生徒として通うにしても……そうね。分かってるわ」
「はい。学費が……」
誰もが入りたい学園。でも、簡単には入れない。
なんたって学費が馬鹿みたいに高いからだ。入れるのは王族貴族か富のある商人の子供ぐらいで普通の一般層は近所の教会で簡単な学びを得るくらい。
そんな中、庶民であり落ちこぼれの私が学費免除の特待生で居続けられたのには理由がある。
「ディアーナの為にも貴女を卒業させてあげたかった」
私の母、ディアーナが国の英雄だから。
そして、その偉大なる母の友人だったのが目の前のローラ先生で、母を亡くして路頭に迷うところだった私をこの学園に推薦してくれた恩人であり、恩師でもある。
魔力の保持量が多ければ多いほど、持って生まれる色素が薄いと言われており、私の髪も瞳も母より薄いものだった。
英雄であるディアーナよりも薄いアッシュピンクの髪色に、薄い紫色の瞳。その容姿を見れば誰もが優秀な子供だと思うだろう。ローラ先生に連れられた私を一目見た学園長が歓喜の声を上げる程に。
ディアーナの娘で、膨大な魔力を保持する。特待生としての理由は充分だった。
「ローラ先生、ごめんなさい……期待してくださったのに、なにも……返せなくて……」
その立派な肩書きに見合わなかったのは、私の不器用さ、未熟さ。全部、私のせい。
「ローラ先生、今までありがとうございました」
「ええ……なにか困ったら」
「大丈夫です!今まで本当に色々助けてもらいました。もう十五です!なんとかします!」
上手に笑えていたかは、わからない。
でも、もうこれ以上ローラ先生に甘えるのは、天国にいる母にさえ申し訳なくて。情けなくて。
ローラ先生に深く頭を下げて、部屋を出る。その時、扉は鉛の様に重たく感じた。
一度連載していましたが、書いてるうちに辻褄が合わなくなってきてしまい(……)再度連載し直すことになりました。ブクマして下さった方申し訳ありません。。。
気合いを入れ直し、書いていきます!
よろしくお願いします。