最後の言葉
静かな病室
機械的に繰り返される呼吸音のみが響く
そのベッドの住人はとても美しいが
そばで天使が手を握り離さない
病室のドアが静かに開かれる
紳士が眠りについている女性の近くに行き
備え付けの椅子に腰をかける
知人だろう担当医が女性の状態を伝える
「今夜が山場だと思われます」
その言葉を聞いた紳士がそっと目を伏せて
女性を見つめる
青白い頬を撫でると
「君はいつまでも僕を困らせるんだね」
と言いながら苦笑いをする。
担当医は
「伝えたいことがあれば今のうちに声は届いていると思います」
そう伝えると病室を静かに出ていく
紳士と眠っている女性
「…後のことは僕に任せて欲しい君はゆっくり眠るといいよ」
女性の手を握りそっと口づけをする
それを合図に女性は意識を覚醒させる
以前から美しい女性だったが儚さが覆われて
紳士はこんな状況でも思わず見惚れてしまう
女性は乾いた唇を一生懸命に動かそうとする
紳士は彼女の声が聞きたくて思わず自分の耳元を彼女の唇まで持っていった
『……………』
その一言を聞いて紳士は思わず身をすくめる
そのタイミングで女性と目が合う
消えるように微笑むとそのまま目を閉じた
紳士は握っていた彼女の手を恐怖で振り払うとそのままダラリとベッドの外に投げ出される
それの状況を見て慌てて布団の中に戻す
紳士はナースコールを押すと
先程の医者と数名の看護師が走って病室にきた
生命活動停止を確認すると
担当医は紳士に宣言する
紳士は目を伏せてそれを聞くと静かに病室を出た
外には紳士の秘書が待機している
「彼女が逝きました。親族には契約書の確認をしてもらいその後を任せて下さい」
紳士はそう伝えると秘書がどこかに電話をする為にその場を離れた
紳士は女性の最後の言葉を思い出す
『私は、貴方にとって何番目の女だったのですか』
と
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