邂逅
昔からいるうちの子の話書きたかった。
他の話を勧めないといけないのは分かっているが、とりあえず書きたかった。
などと供述しており...
「ここ、かな…?」
都会の喧騒から少し離れた路地裏、耳を澄ませば車や信号、電車の音がわずかに聞こえる路地裏。どうしてそんなところに来ているのか。時間は数日前に遡る。
「はぁ…、こっからどーしよ…」
燦燦と照り付ける太陽の下、地面に座り込みながら俯いていると、ふっと影が伸びてきた。
「ん…?」
上を見上げると見知った顔と目が合った。綺麗な銀髪と片方だけ出ている目、若干扇状的であるものの、整った体の魅力をしっかりと引き立てる服装。
「こんなところで何してるんですか、如月先輩…」
学生時代の先輩である如月要が微笑み、佇んでいた。彼女には学生時代に良くも悪くもお世話になった為、余りきついことは言えないが、今の状況はまるで落ち込んでいる私をまるでおもちゃでも見つけたかのようである。
「あら、元気ないのね。まぁ、仕事をクビにでもなったんだと思うけれど」
全く悪びれるそぶりもなく、ピシャリと現状を当てられてしまう。この人は変に勘が鋭いのでこの手のことは隠そうとしても隠せない。どうしてこんな人に捕まってしまったのか…過去の自分を恨みながらため息をついてから、言葉を紡ぐ。
「その通りですけど、なんですか?揶揄いにきたんですか?」
そ少なくともそんな人ではないと思っていたが、見立てが甘かっただろうか。こう言う時はどうにも物事をマイナスに捉えて仕方がない。そして、そんな自分が嫌になると言う負のスパイラルが待っているのだ。なんて考え事をしていると、彼女は口を再び開いた。
「んー、揶揄い半分。就職先の紹介半分かしらね。」
「是非お願いします。」
くるりと身を翻し上から覗き込んできている先輩の肩をガシッと掴む。すると先輩は少し驚いたような様子で言葉を続けた。
「ん、ここに行ってみなさい?貴方なら問題なく雇ってもらえると思うわ。」
そう言ってポケットに押し込まれていたと思しき紙を押しつけ、笑顔のまま去っていった。
それから数日、ある程度気分も落ち着いた為、紙に書いてあった場所へとあやって来たのだが…
辿り着いたのは路地裏、それも決して治安がいいとは言い難いような少し寂れた場所である。紙に書かれていたのは雑居ビルの住所で、簡易的な地図に示されている箇所とも合致している。あの人、どんなところ紹介してくれてるんだ…なんて思いながら、ビルの前で考え事をしていると、キィ…と音を立て、目の前の扉が開き、そこから出て来た子と目が合った。その子は綺麗な白色だけれども、決して手入れに気を遣っているような様子はないボサボサの髪。左右で色の違う、所謂オッドアイと言われる瞳。皺が寄って、尚且つ胸元あたりまでボタンが外されているワイシャツ。その上から羽織っている黒の革ジャン。短パンと呼ばれるものよりも丈のない短いズボン。雑に腰に巻かれたベルト。すらっと伸びた長い足を覆うロングブーツ。まとまりがあるような、ないような。そんな格好であるにも関わらず、思ったことはひとつだった。
まるで人形のようだ。
と。軽い衝激で簡単に壊れてしまう。守りたくなるような繊細な人形のようだ。それが、私が彼女に対して抱いた最初の感情だった。そんなことに思いを馳せ、呆けていると
「何…」
少しうざったそうな目つきをこちらに向け、手短に告げた。突然の事に私は慌ててしまい、言葉を焦りながら手をばたつかせていた。
「仕事?それとも…」
それ以上は言葉が紡がれなかったが、ビクッと背筋が震えるような寒気があった。何か答えないとまずい。そう思った私は、必死に口を動かして言葉を探す。
「あ、えと…」
「何、それ」
すると彼女は、私の緊張など尻もしないと言った様子で、私が手に持っていた紙を指差し尋ねて来た。
「あ、これは…」
また、言い淀んでしまう。あぁ、どうしてこうも私はコミュニケーションが苦手なのだろう。
「見せて」
彼女はスッと私が持っていた紙に手を伸ばしてくると、紙を取ってしまう。手に取った紙を暫く眺めた後、懐からペンライトを取り出して紙に照射した。
「あぁ、姉の紹介か」
ボソッと何かを呟くと、ペンライトと紙を適当にポケットに押し込み私の右手を取ってビルの中に入ろうとする。考えることを諦めた私は、連れられるままにビルの中へと入っていった。