プロローグ
いくら頬をつねっても、いくら水を被っても、目が覚めることは無かった。
それは、今起きていることが現実だという何よりの証拠にほかならない。
子供が笑って道を駆け、飲んだくれた大人が道の橋で倒れる、そんな平和な世界とは一転、通りは人が血を流し、鎧を装備した人間に殺される地獄と化していた。
家は燃やされ、辺りには死体と血の匂いが充満している。
小さい子供が親を探して泣き叫び、それを容赦なく兵士が殺していく。
なんで、なんでこんなことになったのかなんて分からない。
家の中でうずくまってこの地獄が終わること待つことしかできなかった。
助けを求めても、この町が属するルフリア王国は軍隊を送ってくれない。
だからみんな自分たちで立ち上がり、そして死んで行った。
俺はそんな街のみんなとは違い、勇気もない、武器もない、力もない、誰も守ることは出来なかった。
妹の無惨な死体が頭によぎり、逃げた自分に吐き気がする。
近くに落ちてる窓の破片で喉を引き裂きたい。
兵士たちの前に出て、殺されたい。
死ぬほど、辛い。
でも、最後に妹が残した言葉、
──生き残って、お兄ちゃん
それだけが頭から離れない。
俺は、生き残らなきゃ行けない。
生き残って、奴らに絶対に復讐してやるんだ。
妹の分も、隣に住む面倒見がいいおじさんの分も、商店街でよく野菜をサービスしてくれたおばさんの分も、全部全部しなきゃ行けない。
やつらを全員、殺すぐらいにならなきゃ行けない
その年、その町は滅びた。
隣国ユスターゼ王国と、町に助けるための軍隊を送らなかったルフリア王国によって。
建物は焼け焦げ、破壊され、市民は皆殺し。
あれは人間の所業じゃない。
町のあちこちに血の跡が残っていた。
のちに訪れた冒険家、リフリアによって伝えられたその事実は、世界を驚愕に陥れた。
だが一人、誰も知ることのなかった生存者がいた。
10歳に満たない少年、そんな幼い子供が一方的に虐殺される光景を見、聞き、助けてくれるはずの味方が助けてくれない。
そんな事実を知って、まだ幼い少年が何を思ったかは想像に固くないだろう。